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12歳

15 ゲームにない場所 二か所目

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ジローに頼まれて孤児院に通いだしてからもう2か月になる。

発端は孤児院の子供たちに謎の湿疹が流行った事。ちょっとしたアロエの塗り薬を処方してあげたらすごく喜んでくれたのだ。
それ以来定期的に来ては自作のハーブ薬をこうして補充している。薬は買うと高いからね。
お金があれば高いポーションを買うのがこの世の普通。回復や治癒力がレベチだからね。だけど魔力を使わない一般薬でも孤児院の運営費で買って備えるのはかなりハードルが高い。孤児院運営はいつだってカツカツなのだ。

僕は前世でアレルギー持ちだった。下手な薬を飲むと薬疹が出るのでお母さんからはハーブティーを、おばあちゃんからは漢方を体にいいからと飲まされた。おじいちゃんはいつも、「風邪なんか水飲んどきゃ治るし怪我は流水で洗うのが一番だ」って言ってて、とにかく僕はあまり病院の薬は飲まなかった。そうしてるうちに、おばあちゃんが、庭のハーブを時々漢方って呼んでることに気が付いて…面白くって調べてるうちにすごく薬草に詳しくなった。
だからこそ、冒険者になって初めにやろうと思ったのが薬草採取だったんだけどね。


「テオ様~、クッキーは?今日はクッキー持ってきてないの?」
「あるよもちろん。ほら、いっぱい焼いて来た!みんな舌が肥えてて嬉しいよっ」
「あー、これこれ、癖になる硬さだよねー」ばりっ、がりっ。
「甘い~!美味しー!」ぼりっ
「焦げてるところが香ばしくって美味しいんだって」ばきっ

音だけ聞いてたら何を食べてるかわからない。けどみんなが美味しいって完食するのに気を良くして毎回焼いて持ってくるのだ。
おやつが済んだらその後は、時間が来るまでみんなで遊ぶ。
手書きで作ったカルタやトランプ。理解して遊ぶためだと、まず最初に少しの文字や数字を教えた。

「ねぇ、みんなこっちきて。今日も神経衰弱しようよっ。」
「え~、ババヌキがいい~」
「テオ様、今日もシンケイスイジャクやんの?俺もう大分覚えたぜ、数字。今度は絶対負けねぇよ」
「そういうセリフは僕に勝ってから言うもんだよ。そうしたらこの特製ドーナツを君にあげようじゃないか」

丸いドーナツにしたかったのだが、どうも犬のフ〇みたいになってしまったのはご愛敬だ。
ちゃんと砂糖もまぶしてきた。きっと子供は好きな味だ。
僕のちょっとだけ個性的なお菓子はここではなんでも好評だ。暇がありすぎてすっかり趣味が料理になってしまった僕には最高の味見役だ。

長年の引きこもり生活にようやく終止符を打ち、初めてできた他人とのコミニケーションに舞い上がった僕はここで思う存分遊んで帰る。
今ここに居るのは下は0歳、上はジローの15歳まで。16歳になると仕事にありつけた子から順に出ていく。そうでないと部屋もベッドも食事だって足りなくなっちゃうからね。16歳は冒険者にだってなれる年。出ていった子は稼いだ時には必ず院にお金を入れてくれるんだって。すごいなぁ…みんな自立してる…
早くジロー帰って来ないかな?今日は煙突掃除のお手伝いに行ってるって言ってた。平民は魔法が使えないからね。なんだって手作業なんだよ。僕のささやかな生活魔法でさえ、ここでは貴重な魔法なのだ。


だけど暗くなる前に帰らないとお兄様が大騒ぎをするので余り長居は出来ない。
お兄様の過保護は年々ひどくなって、今では寝室さえ一緒にしたいと言い出す有様だ。僕をいつまでお子ちゃまだと思っているのだろう。一人で寝れるって言ってるのに、時々起きると隣にいるのはどうにかならないだろうか。
寝室を一緒にするのはこれからも全力で断る所存だ。



そしてそろそろシスターに今日の分の薬類を渡して帰ろうとしたところでその出来事は起きたんだ。






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