243 / 289
アレイスター
しおりを挟む
縛り上げられた男たちは悔しそうに呻いている。王城から騎士を呼ぶか、それとも貴族街の憲兵を呼ぶか、が、今は貯水槽だ。
少年の堰き止める放水路の水は、水量を減らしつつも確実に槽へと流れ込んでいた。急がねばいつまでもはもたぬだろう。だが扉の前に立った私とヘクターは驚愕の事実を知ることになる。この扉の鍵は…内部からかけられているのだ。
「自分で鍵をかけたのか?何故!」
「ヘクター!そんなことはどうでもいい!急いで何か壊せるものを探すんだ!」
「ハハハ!これで分かったか!俺たちは何もしちゃいない。その中の坊ちゃんは自分で中に入ったのさ。罪に問えるものなら問うてみろ!」
「黙れ!どうやったかは助け出せばわかることだ!」
「間に合うものならな!だがもう遅い」
「神託は『神託』らしく天へ帰るがいい!」
「その口を閉じていろ!」ガッ!
「もう一発蹴り上げてくれ!私の分も!」
その時私たちの背後から聞こえてきたのは聞き覚えのある叫び声!
その声の主は川向う、下町側から川を渡り切り岸へ上がろうとしているところだ。それも何人もの屈強な男を引き連れて。
「これがフレッチャーの手下か!」
「そんなことよりロイド!シャノンは中だがまずいことに扉は内側から施錠されている!急いでハンマーを探してくれ!」
「心配ない。鍵の代わりにと丁度人力ごと集めてきたところだ。さあみんな!この中に『慈愛の神託』シャノン様が居る!今こそ彼に恩を返す時だ!さあ全員でこの壁を破壊しろ!」
「よくやったロイド!責任は私がとる!皆急げ!」
なんという先見の明…。彼がこれほどの切れ者だとは考えてもみなかった。実際彼はコンラッド、ブラッドと共に過ごしていた何年間もの間、どこか卑屈な、コンラッドの顔色を窺うだけの腰巾着でしかなかったのに。
ああ…、彼もまた真のシャノンに触れ殻を破った者の一人。頑なな魂を強引に壊していくシャノンは、まるで今まさにそこで振り上げられる槌のようだ。
「ロイド、君はシャノンがここにいることを知っていたのか」
「知っていたのはシャノン様がフレッチャーに脅されているということだけだ。この居場所は彼、ジョンに聞いた」
「聞いた?」
「貯水槽に入って行くのをその目で見たと」
「だが何故孤児院の少年が君に…」
「ジョンはシャノン様が私に付けて下さった私の部下だ」
ジョン少年は二週に一度、ロイドの寄越す迎えの馬車に乗りマーベリック邸へ下町を含む平民街の状況報告に出向くのだとか。そしてロイドは馬車一杯に食料を詰め込み少年をまた孤児院へ帰す。その約束の日がまさに今日だったとは…なんたる僥倖。
「貯水槽を使うなら水責め以外考えられない。だから私はジョンを先に行かせた。放水路の流れを何としてでも止めろと言ってね」
「そうか…君の指示だったのか…」
「扉の鍵は当然フレッチャーが管理している。水車小屋にあるとも思えない。私は初めから壁を壊すつもりで用意してきたんだよ」
「流石だロイド」
その時だ。貯水槽に群がる男たちから「もうすぐだ!」と声が上がったのは。
私もロイドも男たちを掻き分け前に出る。最も体躯の良い男が最後の一投を振り下ろした瞬間!
ドカ!ビキビキビキ…ドォォォン!!!
一世に流れ出す大量の水とともに私の元へ流れ込んできたのは水の妖精ウンディーヌ。
だが両手両足を投げ出した彼は、抱き上げても力無く身体を任せるだけだ。
「しっかりしろシャノン!」
「殿下‼呼吸は!」
「大丈夫だ!呼吸も鼓動も…」
人目も構わず抱きしめてしまう私はまだまだ未熟者なのだろう。だが今は存分に彼の体温を感じたい。
少年の堰き止める放水路の水は、水量を減らしつつも確実に槽へと流れ込んでいた。急がねばいつまでもはもたぬだろう。だが扉の前に立った私とヘクターは驚愕の事実を知ることになる。この扉の鍵は…内部からかけられているのだ。
「自分で鍵をかけたのか?何故!」
「ヘクター!そんなことはどうでもいい!急いで何か壊せるものを探すんだ!」
「ハハハ!これで分かったか!俺たちは何もしちゃいない。その中の坊ちゃんは自分で中に入ったのさ。罪に問えるものなら問うてみろ!」
「黙れ!どうやったかは助け出せばわかることだ!」
「間に合うものならな!だがもう遅い」
「神託は『神託』らしく天へ帰るがいい!」
「その口を閉じていろ!」ガッ!
「もう一発蹴り上げてくれ!私の分も!」
その時私たちの背後から聞こえてきたのは聞き覚えのある叫び声!
その声の主は川向う、下町側から川を渡り切り岸へ上がろうとしているところだ。それも何人もの屈強な男を引き連れて。
「これがフレッチャーの手下か!」
「そんなことよりロイド!シャノンは中だがまずいことに扉は内側から施錠されている!急いでハンマーを探してくれ!」
「心配ない。鍵の代わりにと丁度人力ごと集めてきたところだ。さあみんな!この中に『慈愛の神託』シャノン様が居る!今こそ彼に恩を返す時だ!さあ全員でこの壁を破壊しろ!」
「よくやったロイド!責任は私がとる!皆急げ!」
なんという先見の明…。彼がこれほどの切れ者だとは考えてもみなかった。実際彼はコンラッド、ブラッドと共に過ごしていた何年間もの間、どこか卑屈な、コンラッドの顔色を窺うだけの腰巾着でしかなかったのに。
ああ…、彼もまた真のシャノンに触れ殻を破った者の一人。頑なな魂を強引に壊していくシャノンは、まるで今まさにそこで振り上げられる槌のようだ。
「ロイド、君はシャノンがここにいることを知っていたのか」
「知っていたのはシャノン様がフレッチャーに脅されているということだけだ。この居場所は彼、ジョンに聞いた」
「聞いた?」
「貯水槽に入って行くのをその目で見たと」
「だが何故孤児院の少年が君に…」
「ジョンはシャノン様が私に付けて下さった私の部下だ」
ジョン少年は二週に一度、ロイドの寄越す迎えの馬車に乗りマーベリック邸へ下町を含む平民街の状況報告に出向くのだとか。そしてロイドは馬車一杯に食料を詰め込み少年をまた孤児院へ帰す。その約束の日がまさに今日だったとは…なんたる僥倖。
「貯水槽を使うなら水責め以外考えられない。だから私はジョンを先に行かせた。放水路の流れを何としてでも止めろと言ってね」
「そうか…君の指示だったのか…」
「扉の鍵は当然フレッチャーが管理している。水車小屋にあるとも思えない。私は初めから壁を壊すつもりで用意してきたんだよ」
「流石だロイド」
その時だ。貯水槽に群がる男たちから「もうすぐだ!」と声が上がったのは。
私もロイドも男たちを掻き分け前に出る。最も体躯の良い男が最後の一投を振り下ろした瞬間!
ドカ!ビキビキビキ…ドォォォン!!!
一世に流れ出す大量の水とともに私の元へ流れ込んできたのは水の妖精ウンディーヌ。
だが両手両足を投げ出した彼は、抱き上げても力無く身体を任せるだけだ。
「しっかりしろシャノン!」
「殿下‼呼吸は!」
「大丈夫だ!呼吸も鼓動も…」
人目も構わず抱きしめてしまう私はまだまだ未熟者なのだろう。だが今は存分に彼の体温を感じたい。
1,298
お気に入りに追加
5,718
あなたにおすすめの小説
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる