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ジェロームとシェイナ ⑥
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シェイナがあの時泣いていたシャノン様…
自分でも何を言っているのか…
こんな事を本気で考えているのだから、どうかしてしまったのだろう、私は。
だが私の言葉を聞いたシェイナは、まるで本物のビスクドールにでもなったかのように表情を消して硬直している。
感情を隠すのが得意なシェイナ。
だが感情を消した事こそが肯定と言えないだろうか。
「そうか…そうなんだね…」
「ちがいまちゅ…」
「いいや違わない。私は何度も想像したんだよ。十歳のシャノン様を思い出そうと」
私はあの時シャノン様の震える背中、後ろ姿しか見てはいない。
だが今のシャノン様を七年遡ってみても、何故かあの背中には重ならないのだ。だが…
「シェイナ、君を八年成長させるとピッタリ重なる。まさに今の君と同じだ…」
フルフルと首を振るシェイナの瞳に力はない。今分かった…そういう意味だったのか…
「シェイナ、君は二人で一つと言ったね?」
コクリ…
「もう隠さなくていい。君は…」
人知を超えた真実を前にして、それが暴かれることに震えて怯えるシェイナ。そうとも。人は理解の及ばないものを怖がるものだ。私にそう思われる事を恐れているのだろう。
だが私は…、シャノン様がシャノン様でさえあればそれでいい。たとえ彼の顔が焼けただれ醜く歪んだとしても、そこに居るのがシャノン様であるのならば私の想いに揺らぎはない。だからこそ告げよう。シェイナにこれ以上こんな顔をさせないためにも。
「君は…神子の力でシャノン様から取り出された彼の分身なんだね?」
「………ちょうでちゅ」
弾かれたように顔をあげ、二、三度目を瞬くとためらいながらも返事を返すシェイナ。やはりそうか…
「それならば全てに納得がいく。君が彼の昔話をまるで自分の事のように語ったことも」
「…ちょーでちゅね…」
「そして君は言ったね、彼は君の灯だと。そうか…君は…」
ようやく私は真実に到達した。だがその真実とは辛く悲しい一つの事実を伝えるばかりだ。
「彼の心を守るために神によって取り出された彼の悲しみなのだね」
「………ちょのとーりでちゅ」
過酷なお妃教育とすれ違う婚約者との仲。辛い日々の中で起きた最悪の事態。だからシャノン様は切り離されたのだ。己の中の悲しみや苦しみ、そういった耐えがたい感情を。そしてその心は神子の力に護られ、プリチャード夫人に宿った無垢な赤子の中へと飛び込んだのだろう。
神子のもつ聖なる力とはなんと神秘的なのだろうか。
こんなことが起こりうるなど…
いや、だからこそ王陛下があれほど執着されたのだ。
国を護り繁栄へと導く存在、それが『神子』。ならば何が起きようと何ら不思議はない。
そしてそこに残ったのが…殻を脱ぎ捨てた子供の様なシャノン様なのだろう。
「もう一度聞くよ。あの時王宮の一室に居たのは君だね?」
コクリ
「だが私を窮地から救って下さった数々の援助、君はまだ産まれていない。ならばあれは…」
「ノンでちゅ」
「彼は私を認識していたのだろうか…?」
「…ちょーでちゅね…」
馬鹿な質問だ。思い返せば彼が初めてくださった手紙、あの文面には〝運命を感じる”とはっきりそう書かれていたではないか。
二人で一つ…
目の前にいるのは〝私が守ってやりたいシャノン様”で、…そして私に求婚したのが”私を守って下さったシャノン様”だ。
どちらも大切な人で…どちらも大切な私の想いだ。
何度も何度も頭にこだまする言葉、〝二人で一つ”
黙り込んだ私の顔を不安そうに見上げるシェイナ。
「大丈夫だシェイナ。君はシャノン様から離れたくないのだろう?そんなことにならないよう何とか考えよう」
「ちょーじゃな」
「私を宝石と言ってくれたね?ありがとうシェイナ。私は君の役に立てただろうか?」
何も言わないシェイナの答えは…足元にしがみつく力の強さが雄弁に語っていた。
自分でも何を言っているのか…
こんな事を本気で考えているのだから、どうかしてしまったのだろう、私は。
だが私の言葉を聞いたシェイナは、まるで本物のビスクドールにでもなったかのように表情を消して硬直している。
感情を隠すのが得意なシェイナ。
だが感情を消した事こそが肯定と言えないだろうか。
「そうか…そうなんだね…」
「ちがいまちゅ…」
「いいや違わない。私は何度も想像したんだよ。十歳のシャノン様を思い出そうと」
私はあの時シャノン様の震える背中、後ろ姿しか見てはいない。
だが今のシャノン様を七年遡ってみても、何故かあの背中には重ならないのだ。だが…
「シェイナ、君を八年成長させるとピッタリ重なる。まさに今の君と同じだ…」
フルフルと首を振るシェイナの瞳に力はない。今分かった…そういう意味だったのか…
「シェイナ、君は二人で一つと言ったね?」
コクリ…
「もう隠さなくていい。君は…」
人知を超えた真実を前にして、それが暴かれることに震えて怯えるシェイナ。そうとも。人は理解の及ばないものを怖がるものだ。私にそう思われる事を恐れているのだろう。
だが私は…、シャノン様がシャノン様でさえあればそれでいい。たとえ彼の顔が焼けただれ醜く歪んだとしても、そこに居るのがシャノン様であるのならば私の想いに揺らぎはない。だからこそ告げよう。シェイナにこれ以上こんな顔をさせないためにも。
「君は…神子の力でシャノン様から取り出された彼の分身なんだね?」
「………ちょうでちゅ」
弾かれたように顔をあげ、二、三度目を瞬くとためらいながらも返事を返すシェイナ。やはりそうか…
「それならば全てに納得がいく。君が彼の昔話をまるで自分の事のように語ったことも」
「…ちょーでちゅね…」
「そして君は言ったね、彼は君の灯だと。そうか…君は…」
ようやく私は真実に到達した。だがその真実とは辛く悲しい一つの事実を伝えるばかりだ。
「彼の心を守るために神によって取り出された彼の悲しみなのだね」
「………ちょのとーりでちゅ」
過酷なお妃教育とすれ違う婚約者との仲。辛い日々の中で起きた最悪の事態。だからシャノン様は切り離されたのだ。己の中の悲しみや苦しみ、そういった耐えがたい感情を。そしてその心は神子の力に護られ、プリチャード夫人に宿った無垢な赤子の中へと飛び込んだのだろう。
神子のもつ聖なる力とはなんと神秘的なのだろうか。
こんなことが起こりうるなど…
いや、だからこそ王陛下があれほど執着されたのだ。
国を護り繁栄へと導く存在、それが『神子』。ならば何が起きようと何ら不思議はない。
そしてそこに残ったのが…殻を脱ぎ捨てた子供の様なシャノン様なのだろう。
「もう一度聞くよ。あの時王宮の一室に居たのは君だね?」
コクリ
「だが私を窮地から救って下さった数々の援助、君はまだ産まれていない。ならばあれは…」
「ノンでちゅ」
「彼は私を認識していたのだろうか…?」
「…ちょーでちゅね…」
馬鹿な質問だ。思い返せば彼が初めてくださった手紙、あの文面には〝運命を感じる”とはっきりそう書かれていたではないか。
二人で一つ…
目の前にいるのは〝私が守ってやりたいシャノン様”で、…そして私に求婚したのが”私を守って下さったシャノン様”だ。
どちらも大切な人で…どちらも大切な私の想いだ。
何度も何度も頭にこだまする言葉、〝二人で一つ”
黙り込んだ私の顔を不安そうに見上げるシェイナ。
「大丈夫だシェイナ。君はシャノン様から離れたくないのだろう?そんなことにならないよう何とか考えよう」
「ちょーじゃな」
「私を宝石と言ってくれたね?ありがとうシェイナ。私は君の役に立てただろうか?」
何も言わないシェイナの答えは…足元にしがみつく力の強さが雄弁に語っていた。
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