上 下
208 / 308

145 断罪と陞爵式

しおりを挟む
ジェロームと結婚の口約束をしてからはや二週間。ついに陞爵式がやってきた。

謁見の間には両陛下と王子が三人。宰相様、他数人の大臣。中にはフレッチャーもいる。そして特等席に後見人のお父様と『神託』である僕。あー良かった『神託』で。

因みにコンラッドはきたる卒業後の旅に向け剣の鍛練に余念がない。ブラッドも手合わせの相手をつとめたりしているようだ。
げに美しきは男同士の友情…たとえこの二人でも。

おっといけないいけない。


「ジェローム・エンブリー男爵、前へ」

名前を呼ばれて王様の前へと進むジェローム。その姿は緊張しているように見える。

「ジェローム・エンブリー男爵には第二王子アレイスター、そして『神託』シャノン、また『神子』の尊き力を一部とはいえ授かりしシェイナ嬢を救った此度の功績によって伯爵位を授けることとする。またこれによって元ブラトワ領は正式にエンブリー伯爵領となる。所領する地をより良く治めこのルテティアへこれまで以上に貢献せよ」

「は!謹んでお受けいたします」

膝をつき両手で授かるのはジェロームの黒髪みたいなオニキスで掘られた印章の指輪。今回は陞爵のためジェロームにはエンブリー伯爵家のモチーフが新たに与えられた。

カラスの羽根から始まったモチーフ(ナニーの生家ね)は二羽のカラスへと進化し、ついにカラスはその羽を大きく広げた!カッコいい…

本来なら王様に与えられたモチーフを用いて当主が自ら印象を用意し持参するのだが…今回はなんと、感謝の意を示した第三側妃様がご用意してくださったのだ。

宰相様が第三側妃様に代わって説明を続ける。
オニキスを選んだのはエンブリーが代々黒髪だからじゃなかった。オニキスには悪意を撥ね退ける、という意味があるのだとか。きっとブラトワとの色々をアレイスターから聞いてオニキスを選ばれたんだろう。

その印象を使い、陞爵の書類にハンコを押したら儀式は終わり。晴れてジェロームは正式に伯爵となったわけだ。

「おめでとうエンブリー卿」
「これで君も高位貴族の仲間入りだ。これからは国から割り当てられるお役目もこなさねばならんな」

「何のお役目だろうと精一杯務めさせていただきます」

ルテティア国の高位貴族は国のいろんな公益事業?を少しずつ受け持つのが習わしだ。これは報酬の発生するお仕事ではなく(国からの割り当て予算は別だよ)、場合によっては持ち出しもあったりするのだからむしろボランティアに近い。
バーナード伯の下町管理とか、クーパー伯の河川管理とかね。

フレッチャーは欲をかいて準貴族街まで手に入れたけど、本来は南西側の軍事路管理を行っている。これは物資の供給につながる重要な役目。これがある限り王様とフレッチャーは離しきれない…。王妃様も頭の痛い事だろう。けどあれ以来宮廷からは大きく遠ざけることが出来たようだ。

「ジェローム、すぐ帰っちゃうんですか?」
「そろそろ新しい屋敷に戻らなければ…領民に忘れられてしまいますからね」

確かに…かれこれ三か月は王都に滞在していたジェロームだが、これから彼は東部の北(もとのエンブリー)から南までを一手に引き受けることになる。
アレイスターとシェイナが言うには、エンブリー伯爵領はこれから溶岩石の枯渇という問題に直面する。(だから王様が簡単にくれたんだね)
その問題は砂金事業によりプラマイゼロ…どころかプラスになる予定だが、その公表のタイミングはもう少し後だし、どちらにせよ荘園の管理は現在進行形であって、東部では今の時期からがもっとも大変だ。

「いっしょに行けたらいいのにな…」
「ふふ、『神託』としての大仕事、つつがなく済むよう祈っておりますよ」
「あの話…忘れないでくださいね」
「ええ。プリチャード侯からの見合い話はのらりくらりと躱しておきましょう」

優しく撫でられる頭。子供みたい。でも人目もあるし…今はこれが精いっぱい。

待ってろ断罪イベント!それさえ終われば僕には…バラ色の未来が待っている!

…待ってる…よね?


しおりを挟む
感想 864

あなたにおすすめの小説

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

一日だけの魔法

うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。 彼が自分を好きになってくれる魔法。 禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。 彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。 俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。 嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに…… ※いきなり始まりいきなり終わる ※エセファンタジー ※エセ魔法 ※二重人格もどき ※細かいツッコミはなしで

婚約者の恋

うりぼう
BL
親が決めた婚約者に突然婚約を破棄したいと言われた。 そんな時、俺は「前世」の記憶を取り戻した! 婚約破棄? どうぞどうぞ それよりも魔法と剣の世界を楽しみたい! ……のになんで王子はしつこく追いかけてくるんですかね? そんな主人公のお話。 ※異世界転生 ※エセファンタジー ※なんちゃって王室 ※なんちゃって魔法 ※婚約破棄 ※婚約解消を解消 ※みんなちょろい ※普通に日本食出てきます ※とんでも展開 ※細かいツッコミはなしでお願いします ※勇者の料理番とほんの少しだけリンクしてます

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

処理中です...