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138 断罪と呪い

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思案顔のままポソリ…とシェイナが呟く。

ー呪いと言われるからにはそのロアンに関わる周囲で人が亡くなっているということだよね?ー

「ま、まぁ…」

一人や二人亡くなったくらいで呪い認定されないだろう…。ならばそのロアンの周辺には様々な不幸があったはずだ。それはもういっぱい…ゾゾ…

ー名前を出してはいけない家門…ー

「え?」

ー名前を消されたカトレアの家門…ー

「ええっ!それって…それって…、つまりシェイナはロ…アンこそがカトレアの紋章を持つ家門だって言いたいワケ?」

ーロアンの一族が呪いをかけたなら、少なくともそう信じられているのなら、ロアンの一族こそ初めに亡くなられたと考えるのが理屈にあう。誰も生きていないなら名前を消すのは容易だよー

た、確かに…。生きているなら呪いじゃなくて復讐と呼ばれるだろう。

ロイドが聞いたのは妻を亡くした大公家の不幸。大公…前王の弟…つまり王族。
そしてシェイナが言うには、前々王の正妃、…高貴な令嬢を断罪してまで手に入れた(かもしれない)愛妃もお産の失血で結局若くして亡くなったのだとか。
それにカサンドラ様のお祖母さん(前々王の妹)も四十の声を聞かずに亡くなったというのだ。呪いと言い切るには微妙な年齢だが、怯えていたであろう当時の人々にとって疑心暗鬼を補強するには十分だっただろう…

ーノン、断罪当時前々王は王太子だったー

「へ?あ、うん」

ー当時の王はフレッチャーへの陞爵直後、戦火で命を落としているー

「あぁ!…じ、じゃあまさか本当に…?」

ー僕はただの偶然だと思う。けれど後ろ暗い人々には呪いに映っただろうねー

ついでに言うと、王様の訃報を聞いた当時の王妃は身籠った子を流してしまったのだとか。そうして失意の中、後を追うようにやせ細って身罷られたという…

「そ…そんなの…たとえ偶然でも呪いにしか思えないって…」ガタガタガタ…

ーきっとそれが呪いと言われだした発端。だから呪いを恐れて誰も名前を口にしなくなった。特に王家は呪いを恐れて何もかも、ロアン家に関わる全ての痕跡を消し箝口令をしいた…ー

「そうしてロア…ンの名前は歴史の闇に姿を消した…ってこと?」

ーこれだけ記録の消去が徹底しているなんて…普通じゃないよー

「それはそうだけど…紋章すら残ってないんだもんね…。じ、じゃあ誰なら知ってると思う?」

ー前も言ったよね。アドリアナ様は知ってる。カサンドラお母様も知ってた気がするー

「つまり近しい王族なら伝えられてるってこと?」
「ちょう」

コンラッドもアレイスターも知っていそうな気配がしない。ってことは成年王族?いや、どちらにしてもごく一部だろう。

「他に真相を知ってそうな人は…、居ないんだろうな…」

残念ながらこの不衛生かつ医療の発達していない世界で人は皆短命だ。争いごとも多いし。前々王の時代の人で生きている人を探すのは実に難しい…なんなら前王の世代の人だって半分はすでにあの世行きだ。

その前々王の時代に強固な箝口令が敷かれたなら、当時の人が残っていない限り、次世代に伝えられているとはとても思えない。

ーまって、一人居るー

「え?誰?」

ー大伯母様。大祖母様のお姉さまー

ってことはつまり…、前々王のもう一人の妹か!ポーレット侯爵家の長老ね。

「てか…まだ生きてるの?」

ー亡くなられたとは聞いてない。相当なご高齢だとは思われるけどー

シェイナ、もといシャノンは遠いなん親戚だからある程度の事は聞かされているはず。そのシェイナが訃報を知らないっていうんだから存命なんだろう。
えー、現ポーレット侯爵が五十前位だから…そのおばあちゃんってことは…ひ、百歳とか!? この短命世界で…ギネス級、ほとんどミイラだな。

「よく呪いスルーして生きてたね。会ったことは無いの?」

ー大伯母様はこの国を嫌って随分昔にアレシア国へ行ってしまわれたと聞いているー

「アレシア、アレシア…、あっ、第一側妃の娘婿の国か。同盟国とかっていう。アレシア王家って一応縁戚なんだっけ?」

ーそう。アレシアとは昔から何度も婚姻関係を結んでるからー

「それで引っ越し先に選んだんだね。近いの?」
「とーい」

ー国境を超えるだけならそれほどでも。けどアレシアの首都はかなり離れてるー

「…じゃあダメじゃん。そんなの簡単に会いに行けないじゃん」

ーうん…。だけどこの国を嫌ってるなら話してくださる気がするー

それにしても前々王の妹である由緒正しき姫が母国を嫌う…?限りなく闇を感じるな…

カキカキ…「んー、じゃあ要検討っと」

ーノン、ロイ…親衛隊長に下町の産婆を探してもらってー

「産婆さんならもう一通り当たってるよ。アーロンを取り上げた人は誰も見つからなかったって。一人で隠れて産んだんだろうって書いてあったけど?」

ーそうじゃない。アーロンの母親を取り上げた産婆のほう。何か知ってるかもー

「あ、そっちね。分かった伝えとく」カキカキ「産婆っと」

ー陛下にはいつ会うの?ー

「今週末呼ばれてる。丁度良かったよ。誕生会前にはスッキリしたかったし」

「ちょだね」

その直後そろそろ午睡の時間だとシェイナはナニーに連れられて行ったが、僕はシェイナの前では言わなかったが実は思っていたことがある。

カサンドラ様も若くして亡くなった。シャノンは神子だったお陰で転生したけど事実上一度は命を落としている。

ロアン…の呪い…

……

…お父様に今夜一緒に寝たいと言ったら…叱られるだろうか…





それはさておき、その間にあったほぼほぼ予定調和で進んでいるブラトワの裁判については割愛させてもらおう。

先週僕とアレイスターは出廷し、打ち合わせもしていないのにアウンの呼吸でまるでオペラの演者のように、それはもう劇的に、エモーショナルに、ブラトワの愚行を多少の演出を加えながら訴え、陪審員や傍聴人の心を大いに揺さぶってきた。

それ以来退廷するブラトワに石つぶてを投げる者が出始めたという。いい傾向だ。
ここからの裁判は僕の関与できない内容になる。ジェロームにはブラトワ一族の不正を一つでも多く明らかにし、かつ出来る限りの賠償金を手に入れてもらいたいものだ。

さて、お互い忙しい身。僕にもやるべきことがある。同行するのはお父様と当事者のシェイナ。つまりお父様はあっちもこっちも引っ張りダコで一番忙しい。人気者だね。

ここまで言えばわかるだろう。行き先は王宮、王様の御前だ。

「お父様、それで全員集めるよう伝えてくださいましたか?」

「ああ。お前に言われたよう、両陛下、そして殿下方、そして…アーロンだね?」

「はい」

うなずき合う僕とシェイナ。よーし!一世一代の大舞台、とくとご覧あれ!



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