断罪希望の令息は何故か断罪から遠ざかる

kozzy

文字の大きさ
上 下
186 / 308

129 断罪に接近

しおりを挟む
二日ほどの滞在を終え、僕は朝からジェロームを迎えに来たのだが、両親から感じる歓迎のなかにうっすら感じる狼狽…

きっと僕がいない間にジェロームの口から、この冬に起きたあんなこととかこんなこととか、その結果の陞爵とか…、すっかり聞かされたんだろう。

「まさかジェロームが伯爵位を賜るとは…」
「シャノン様にはなんと感謝申し上げれば良いのか…」

「感謝してるのはこっちの方です」

いやマジで。ジェロームを産んでくれてありがとう!って、腕がちぎれるくらい握手したい気持ちだ。

「なのでスタンホープ伯爵がもっと立派な屋敷を用意する、って言ってましたよ?」
「いえ、わたくしたちはこれで十分。夫婦二人、なんの不足もありませんし。それに…」
「なにかありましたか?」

「ここはエンブリーを思い出す気持ちの良い場所…この家はジェロームの優しさですから」

うっ!…ホロリ…

「ええ!ええ!仰る通りですとも!」

せめて家屋の修繕補修だけは、と約束して、僕たちは気持ちを汲んで大人しく帰ることにした。それでもスタンホープ伯爵はいろんな面で優遇くださるだろう、きっと。おっといけない。

「ところで僕に会いにじい、ご老人は来ませんでしたか?」

「ええ。昨日夫婦で参りました。シャノン様がお尋ねになられた件でございますね。代筆してございますよ」

恭しく渡されるキレイな文字の封書。

「軽々しく口にするには憚られましたのでこれに…」

「そうなんですか…?」

困惑したようなジェロームのお父さん。おっ母の知ってる噂話とは何だったのか…
封を開けようとした時、「準備が整いました」と告げたのはカイルだ。

「あ…、じゃあ帰りの馬車でゆっくり読ませていただきますね。そうだ、帰る前にもう一度お墓に参っておこうかな。今日はお花を持って来たんですよ」

実はこの間はじいさんと話し込んでいるうちにすっかりお参りを忘れていたのだ。知人(のような人)のお墓を前にして何たる失態!僕はご先祖を大切にする男だ。

「シャノン様、花でしたらこちらをどうぞ」

僕は墓参の花ならこれでしょ、とスタンホープ伯爵家の庭に咲いていた白いマム、洋菊を持ってきたのだが…渡されたのはカトレア…。これはこの辺りの流儀なのだろうか…?

「あの…、先日もおじいさんがカトレアを供えてましたけどローカルルールですか?」

「ああいえ、シャノン様はここに住んでいたのがわたしの両親に所縁のある者だと聞いていますね」
「はい」

「母の取り上げた赤子、その子の一番好きな花がカトレアだったらしいのですよ。カトレアを模したネックレスを身につけるほど好きだったのだとか。それゆえ、妻を待ち続けた夫トニーの墓に皆カトレアを供えるのです」

「へー…」

トニーの墓にも木こりの墓にも供えられるカトレア。
それだけでも、どれほど彼らが少女?女性?を愛していたかが解るというものだ。

決して親子仲、夫婦仲が悪かったようには思えないのに、その女性が何故ここから消えたのか、聞けば聞くほど不可解…

そんな一抹のモヤモヤを残したまま、僕たちはまた来ることを約束してようやく帰路についた。



さて、ところ変わってここは車中。停車中の馬車の中だ。

ジェローム、ブラッド、ニコールさんは現在食事のためにどこかの貴族邸にお邪魔している。あ、もちろん事前に連絡済みだよ。
僕とシェイナはみんなに「先に行って」と、二人きり馬車に残ったのだ。
だってじいさんがおっ母から聞き出したと言う村の噂が気になって仕方ない。早く読みたくてずっとウズウズしてた。

僕は物事がハッキリしないのがすきじゃない。
検査の結果、経過の具合、治癒への展望、僕の前世は白黒つかないことが多すぎて…だからこそ今世の僕はグレーゾーンが落ち着かない。
そしてそれはシェイナも同じことだ。自分の制御出来ない何かに翻弄された前世。そんなシェイナも不透明は不安になるんだろう。
僕とシェイナは実にそっくりだ。

「どーれ…」
「みちぇて」

ジェロームと思い出を共有したシェイナは著しく発音が上達した。ジェロームと話したいあまりにこの二日間猛特訓したのだとか。舌の奥が筋肉痛だと笑っていたが…筋肉痛を知る一歳児…へ、へぇー…

「あーく!」
「急かさないでよ、なになに」

カサリ…

前後左右の装飾を取り除くと、そこに書かれていたのは不穏な噂。

あの娘が消えた翌日山のふもとでキノコ採りをしていた子供が、数人の貴族が夫夫の家を訪ねるのを見かけていた。
その貴族とはかなりの権力者らしく、夫夫はその名をけっして明かさなかった。

そして娘が消える数日前、夫夫は二人揃ってけがをしていた(山で事故にあったらしい)
さらに娘が消えた当日昼、夫トニーが領都で馬車に轢かれそうになった(未遂)

それらの事実に闇を感じ、暗黙のうちに村人たちもこの件の詮索をしないようになったのだとか。

「記述が娘ってことはまだ若かったってことだよね?結婚したのが10代だっけ?ピチピチか…」

ー彼女の周囲にいる人たちは脅されていたように思うー

「ってことは…横恋慕したどっかのバカ貴族が連れてったってこと?」

ー違う、連れていかれたなら誰一人声をあげないのは納得できない。翌日夫夫を訪ねた貴族は娘を探しに来たんだと思うー

「はっ!娘を逃がした!きっとそうだ!夫夫と夫は泣く泣く彼女を逃がしたんだ!貴族の目の届かないところに!」

ーそれなら夫も一緒に逃げれば良かった。死ぬまで独り身で待ってたくらい妻を愛してるなら…ー

「はっ!ヤバ味を感じて娘が自ら一人で逃げた。みんなに迷惑かけないように!」

ーノン!それなら゛帰りを待ってた”にも符合する!ー

そこまでして逃げなきゃいけないって…どれほどの高位貴族に狙われたんだろう?すごく可愛いかったとじいさんは言っていた。平民の美人なんてヒドイ当主だとさらってきて無理やり、とかあるみたいだし…美人もなかなか大変だ…

ジェロームのおとうさんは「口にするのが憚られる」と言っていた。高位貴族が関わっているから?中身がえげつないから?なんにしてもこれは…

ーノン、二枚目をめくってー

「サー、イェッサー!」
「なにちょれ」
「いやなんとなく…」

オーラ的な上下感が…ちょっとね。


しおりを挟む
感想 865

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

生まれ変わったら知ってるモブだった

マロン
BL
僕はとある田舎に小さな領地を持つ貧乏男爵の3男として生まれた。 貧乏だけど一応貴族で本来なら王都の学園へ進学するんだけど、とある理由で進学していない。 毎日領民のお仕事のお手伝いをして平民の困り事を聞いて回るのが僕のしごとだ。 この日も牧場のお手伝いに向かっていたんだ。 その時そばに立っていた大きな樹に雷が落ちた。ビックリして転んで頭を打った。 その瞬間に思い出したんだ。 僕の前世のことを・・・この世界は僕の奥さんが描いてたBL漫画の世界でモーブル・テスカはその中に出てきたモブだったということを。

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編をはじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...