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92 断罪は新たな局面へ

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「いらっしゃいアレイスター様。こんな時間にどうしたんですか?」

そう言いながらも僕の膝には、すっかり腰の安定したシェイナがちょこんとお座りしている。
だってしょうがない、アレイスターの訪問がシェイナのモグモグタイムだったんだから。
えっ?なんでシェイナが僕の膝でモグモグしてるかって?
夕食時のこれは僕の大切な任務だからだ。



シェイナは赤ちゃんに見えて前世…と言うか、パラレルワールドの記憶持ちだ。

身体機能が徐々に整い、記憶等々が少しづつ鮮明になるにしたがい、彼女は赤ちゃん扱いをひどく嫌がるようになってしまった。

おかげでシャノンがどれ程誇り高い人だったのか理解できたが…、所詮一歳未満児、無理なものは無理である。

ナニーや乳母が揃って手を焼くなかで唯一シェイナが子供扱いを受け入れたのがこの僕だ。
つまり、もと自分自身なら許容範囲ってとこだろうか?

そんなシェイナにも一連の出来事は報告済みだ。

彼女は王国エロ化炎上を未然に防げたという事実、主人公2人の修正にホッとしていた気がする。

なのにコンラッドが王家を出ると言ったらギョッとしたのはどういう感情なのか…

なので僕はシェイナを安心させるために教えてあげることにした。

「罰が足りないって?そんなことない。僕は王妃様に息子がほんとに可愛いなら谷底に落とせって言っといたから。多分コンラッドに公爵位は与えられない」

「バブ!? 」

「せっかく本人がやり直すって言ってるんだから、その気持ちを汲んで子爵位辺りから自力で這い上がらせるべきだ、ってね。いやー、あれだけのことされたのに漢としての成長に手を貸すなんて…僕って寛大なうえに気の利く男だよね。あれ?違った?」

「…ノーン…」

ドン引き…されている気配がする…
どうやら違ったみたいだ。高貴な世界しか知らないシャノンには、王子がいきなり子爵とか…ちょっとばかり理解の範疇を越えたようだ。

「え、えーと…、もしかして罰が重すぎるって話し?…そんなことないと思うんだけど…。コンラッドの性格なら多分そっちのほうが向いてるんじゃないの?最初は苦労するだろうけど…慈悲深い僕はコンラッドが頭を下げてお願いすれば、王妃様に「従者一人くらいつけてやってもいい」って頼んでやろうと思ってるし」

シェイナ…やめなさいジト目は。

「まーまー、心配しなくても直ぐに順応するって」

「ブゥ?」
「そうそう」

「あ、「お願いします」って頭下げに来たら面白いからシェイナも同席する?」
「バブ」

といったようなやり取りを経て今に至るのだが…今日の食事はゆるめのマッシュポテトとリンゴのピュレ。昨日はお肉のペーストを完食していた。

シェイナはアレイスターが教えてくれるアーロンの謹慎生活を真顔で聞いている。
彼は謹慎を続けているが、なんとか冬休み明けの一月から学院に復帰するようだ。
その頃には王様が滞在中なのでフレッチャーも動きにくいだろうってことと、あと一年なんだから学院の卒業だけはさせてやりたいと僕がお願いしたからだ。一応助けてくれたし、表向きは情状酌量…ってことで。でもほんとは、残るイベントへの影響を考えて…だ。

察しのいいシェイナは、それにも黙って頷いていた。

「シェイナ嬢は利発な子だ。まるで大人の言葉を理解しているかのようだね」

いや、実際してるんだけどね。

「ま、まあいいじゃないですか…。それで今日は何の用ですか?」
「ああそれか。君にエンブリーの砂金採掘に関し確認を取りに来たのだよ」

な………
なんだってーーーーー!!!!!

「ノーン!バブー!」
「あ、ゴメン…」

ひ…膝にシェイナが居て良かった。じゃなきゃ思いっきり立ち上がってたところだ。

砂金…、それはノベルゲーの貧乏男爵エンドの最後にぽろっと一行加えられていた、シャノンの不運を強調する為だけの嫌がらせみたいな情報。
でもそれこそが僕のエンブリーにおける夢であり希望であり、切り札だったのに!

「か、かか、確認って…、さ…砂金が発見されたんですか…」タラリ…

「ああ。君の助言通りにね」

ゴンッ!

「シャノン!大丈夫か!」
「バブー!」

僕は思わずテーブルにおでこをぶつけていた。

しくった…。確かに思わせぶりなことを何度か文脈に入れたのは僕だ。だって将来の旦那様を一日も早く安心させたかったし。だからと言って、まさか…まさか…、それを僕よりも先にアレイスターに報告するなんてどうして予想できる?

いや。…するよなそりゃ。あそこはエンブリー男爵領でジェロームのもので、悔しいことに僕は限りなく妻の座に近い、でも紛れもない赤の他人で…、領内で発見された鉱物は税の都合上届け出の義務があって…、面識のあるアレイスターにとりあえず連絡したとしても全然おかしくない。

まさかこんなに早く発見するなんて…、ジェロームの行動力を見誤っていた。そういえば彼は自力で冬の山中に入ってコツコツ地面を掘り続け琥珀を発見した根性の人じゃないか!
そしてアレイスターは、以前にも僕のちょっとした呟きをどこからか聞き込み、金についてツッコミを入れてきた目ざとい人。

その二人が出会って、最悪なケミストリーを起こしてしまった!最悪だ!

「そ…それでアレイスターはエンブリーの砂金をどうするんですか…」
「安心してほしい。あれは共同統治が可決された後、北部を支え経済の要となるもの。今はまだ王家に報告するつもりはない。アドリアナ様にもだ」

「北部を支え経済の要…」

つまりそれって…、砂金を僕とジェロームでがめることは実質不可ってこと?ガクリ!

いいや待て。まだ終わりじゃない。よく考えたらこれは良い話かもしれない。
アレイスターは北部の当主たちのために王様を諫めんとする正義の男。つまり…王家の命を持ち出して砂金を安く買いたたいたり利権を奪ったりしないだろう。むしろ話し合い次第では、一般の商会に売りさばくよりレートを高く設定できるかもしれない。

問題はジェロームだ。
彼は父親の借財を背負う身でありながら、領民のためにとさらに借金を重ね、それでも逃げ出さなかったお人好し。
お金の扱いに疎い彼はあっさり「どうぞどうぞ」とどこぞのコメディアンみたいな台詞を口にしてしまうかもしれない…。

バカな!それだけはさせるもんか!
先日の誘拐未遂事件をはるかに上回るショックと動揺の中、僕は高速で頭を回転させていた。

「それでアレイスター様、何を確認に来たんですか?」
「良い機会なので『館船』の初出航に合わせ、エンブリー入りしようかと思ってね。『館船』もエンブリーも君の所縁だろう?伝えておくべきかと思ったのだが…」

エンブリー入り!? 僕が行きたかったエンブリーに僕より先に行くつもり!? え?どうして?ジェロームは来ちゃダメだって…

「そ、それってジェロームに連絡は…」
「いいや。彼から一報が入ったのはつい一昨日でね。船の冬期欠航まで間がない。取り急ぎ向かうつもりだ」

「……なるほど」

僕はアレイスターの中に潜むサプライズ魂を垣間見た気がした。だが!

『屋形船』『初出航』そして『サプライズ』
僕の脳内はまさにその三つの単語で埋め尽くされた。





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