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87 断罪の元凶

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人払いの済んだ部屋で、僕とコンラッドは王妃様に向き合っていた。

「それで二人そろって何の用?ああ、アーロンをここで保護したい…だったかしら?やめて頂戴、これ以上の面倒事は。頭の痛い…」

「王妃様、この山を越えたら頭痛の種はなくなります。最終局面です」
「あら、それはけっこうなことね」

ストーリー正常化の最終局面。これを超えたらきっと王道BLラブストーリが始まるはず!

「でも頭痛の原因には王妃様も居ます。コンラッド様の問題は大半が王妃様です」

一瞬ピクリとしたものの、顔色一つ変えない王妃様はさすがシャノンのお師匠だ。

コンラッド!お前もなんか言え!そう思ってチラ見した彼は酷く思い詰めた顔をしている。…仕方ない。奴はヘタレだ。僕は援軍を諦めてもう一歩踏み込むことにした。

ノベルゲーでは分からなかったが、三人の主要キャラにはそれぞれ鍵となる三人の母親がいる。
アドリアナ様。カサンドラ様。そしてアーロンの母、裏通りの娼婦だ。

カサンドラ様の愛はシャノンをお妃教育に縛り付けた。アーロンの母はアーロンを愛への渇望に縛り付けた。じゃあ王妃様はコンラッドを何に縛り付けた?答えはマザコンに縛り付けた…、だ。

エロ化の進んだアーロンもバグなら、コンラッドのマザコンもまた、ノベルゲーのサブ主人公として致命的な欠陥、つまりこれもバグ。
あっちもこっちもバグだらけ。頭が痛いはこっちの台詞だ。シャノンが力尽きて究極奥義リセットを選んだ気持ちがわかるってものだ。

「シャノン、いくらあなたが『神託』でも、さすがに聞き捨てならないわね。わたくしが何だとというの」

「王妃様は24時間365日ずっと王妃だった。コンラッド様は母親に甘えたかった。わかりますか?」

厳密にいえば全ては貴族社会の、それよりもっと厳格な王宮内のルールにのっとった慣習であって、アドリアナ様が特に何かをしたわけでない。
むしろ今よりもまだ若く、不慣れだったであろう王妃様は、王不在の王宮で毎日必死だったのだろう。国政のための王妃。孤独な奮闘。その肩に乗ったプレッシャーはきっと半端じゃなかったはずだ。

「そう…なのかもしれないわね。ですがわたくしはそのために娶られここに居るのです。王妃としての役割が無ければここに居る価値はないのよ。シャノン、それがこのルテティア国における正妃というもの」

きっぱりと、そして毅然と言い切る王妃様。でもその目はやっぱり笑ってない…。王妃様の目は常に笑わない。そしてこの姿こそが将来のシャノンの姿。…って僕には関係ないけど。

あれ…?だけどこれって…王が悪いって言えなくない?…そうだよ!王様次第で防げたことばかりじゃないの?
いくら国政のために娶った妻とはいえ、子供だけ作って放置とか…いや、考えて見れば酷いわ!

もう少し王様がお城に腰を落ち着けていたら、王妃様だって幼い我が子、コンラッドと触れ合う時間がもっと持てただろう。
もう少し王様が王妃様に愛情を示していたら、王妃様だって第三王妃の子アレイスターにもう少し配慮をする心の余裕があったかもしれない。
もう少し王様が王妃様と手を携えていたら…、王妃様だって一人で抱え込むのが正妃の在り方だなんて思わなかっただろう。
そうしたらその影響を一番間近で受け続けたシャノンだって…

我慢こそ美徳、耐えてこそ品位だなんて価値観に飲まれなかったかもしれない…

王様…王様…同じことをいつか考えた気がする…そうだよ!ジェロームと下町のスープ屋さんデート中に!大きな心で優しく僕のエンドレス愚痴を聞き続けてくれたジェローム、なんて包容力のある黒髪…、じゃなくて!

あの時も僕はこう思った。「諸悪の根源は王様じゃないか」と。

何の根拠もなくアーロンを神子と決めつけ、絶対保護という名の丸投げをかまして周囲を散々振り回しておきながら、当の自分は戦場で゛仕事”という名の゛趣味”に没頭する。そうそう。僻地には♂の愛人も居たんだっけ。それも何人も。

……思い違いをしていたのかもしれない…。バグはアーロンでもコンラッドでもなく…王様なのだ。王様という最高権力者がバグることで、その影響が関連データ、この場合王様の周辺人物に異変を起こした。そう考えると一番しっくりくる。
不在が多く存在感がない王様。目の前に居ないがゆえに除外し続けた王様という名の隠しファイル。それこそが真実のバグだとしたら…


「黙り込んでどうしたのかしらシャノン。ショックを受けたなどと言わないでしょうね?」
「カサ、僕のお母様はそれを承知で僕を王太子妃にしようとしたんですか?」

ドッドッドッ…心臓が早鐘を打つ。本能が僕に告げる。これこそが最終解だと。
よりにもよって王様…。絶対王政のこのルテティアで不可侵とも言える王様。ああだけど…

元凶が゛王様”なら、三人を歪ませた三人の母、そのすべてに王様が関わるはずだ。

「もちろん知っていたわ。わたくしとカサンドラ、どちらが正妃の座についてもおかしくなかった。いえ、むしろカサンドラこそが本来王妃となるはずだった。おばあさまの遺言によって」

「おばあさまとの遺言…?」
「前々王は妹であるカサンドラ一世様とそう取り決めをなさっていたの」

ハイ出た!やっぱりキーワードは王様…この場合前々王だけど…

「ですが血の濃さを懸念した前王により、カサンドラのお母上はその取り決めをシャノン、あなたの代へ持ち越した。そうしてわたくしが婚約者に選ばれたのよ」

い、今明かされる驚愕の事実…。あー、それもあって何が何でもシャノンを王家に嫁がせたのか。

「親友とも呼べるカサンドラにとって代わった…わたくしは苦悩したわ。それでもカサンドラはお妃教育に泣くわたくしにいつも寄り添ってくれた…」

「お母様はその姿を見ていたのに僕を王家に!?」

「おばあさまの悲願ですもの。ですがそれだけではなくてよ。ルテティア王妃となることは最高の名誉。地位ではなくてよ。『王妃』であることそのものが、これは最も優れた人物である証明ともいえるものなのよ」

そのための努力と研鑽は何年にも及ぶ…。それを良しとするかどうかは意見の分かれるところだ。

「どれほど辛くともこれはわたくしの誇り。それだけがこの孤独な王宮でわたくしを支えてくれた。あなたはわたくしの姿を最も近くで見ていたわね。そんなことぐらいとうに理解しているでしょう?」

「ふー…、王妃様。僕は王妃様が大好きです。目の奥が笑ってないところはちょっとな…って思いますけど、それでもずっとシャ、僕を守ってくれた…」

「まあシャノン…」

「でも…価値がないだなんて、王妃様にそんなことを言わせる王様は大っ嫌いです!王妃様を放置する王様を許せません!」

不幸の連鎖に僕を、シャノンを巻き込んだ王様という名のバグ…やってやんよ!




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