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86 断罪に寄せる期待

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隣の部屋では学院長が、アーロンの古参信者たちから事情聴取をしているところだが、少なくともあのガチ信者は学院の籍を失うんじゃないだろうか…。

あれからどれほど経っただろう…知らぬ存ぜぬと言い切るフレッチャーを捕まえるだけの決定打がない。
一つとして証拠がない以上、フレッチャーに関しては僕とバーグとの、言った言わないの水掛け論にしかならないからだ。
結局キレ散らかしたフレッチャーは半ば強引に部屋を出ていってしまった。

「しかしシャノンや。マーシャル会頭の件、あれはなかなかうまいやり方じゃないか。流石は私のシャノンだ」
「いえ、それほどのことはありますけど。だってお父様が教えてくれたじゃないですか。フレッチャー候と陛下はズブズブだって」

「フレッチャー候が陛下と親密なのは確かだが…」

「チマチマ状況証拠を積み上げたところでどうせ陛下がお戻りになったらそれまでですからね。初めから私的なお仕置きしておけばいいんですよ。干すとか」

「ふむ。彼の社交界での立場を奪うというのだね?それはいい考えだ。友人たちにも声をかけておくとしよう」

厳格なお父様は個人の感情だけで動くことはあまりしないのだが…流石に今回は腹に据えかねたらしい。お父様のご友人と言ったらほとんどが名門の大貴族か王様の側近ばかり。フレッチャーがいくら王様にとりいったところで、こればかりは取り返しの利かないダメージになる!

そしてポーレット侯爵は、バーグという傭兵上がりの男爵に関して、僕の誘拐未遂はもちろんのこと、第二王子に剣を向けた罪でかなり重い処罰を下すようだ。
すると、ここでアレイスターが事も無げにさらりと言った。

「禁固だろうが労役だろうが同じことだ。なんだろうが構わない」

え?何?アレイスターは慈悲の人なの?何でもいいだと?良くないでしょ!バカ言っちゃいけないよ!

「何言ってるの!アレイスター殺されそうになったんですよ!僕だっ」
「恐らくフレッチャーが近日中に何らかの手を下す。たとえバーグが牢の中に居たとしても、だ。判決など無意味だ」

「…あ、そ…」

口封じ…。それはそれは…

コンラッドは何の理由もなく王の覚えの良いフレッチャーを準貴族街の管理から外すことは出来ないだろうと考えているようだ。
それでも早急にアーロンだけはどこかで保護したいらしい。確かに万が一にも報復…とかで狙われたら冗談じゃないし。あ?

「こっち見ないでくださいよ…」
「何も言ってないじゃないか」

うーん、なんとなく雰囲気で感じるコンラッドの期待。
今日一日の流れで言ったら「僕が面倒見ます!」というのが王道の展開な気もするが…、あいにく僕は善良なヒロインなどではない。単なる一腐男子だ。
ましてやうちには因縁を持つシェイナが居る。コンラッドを見ただけであれだけ泣いたのに…アーロンの姿を見てフラッシュバックでも起こしたらどうしてくれる!

「コンラッドが連れていったらいいじゃないですか。自分で面倒みなさいよ」
「…母がそれを許さないだろう。君との関係改善を母は大層お喜びだ」

「じゃあ僕が今から王妃様にお話しします。ちょうどいい機会です。三者面談が必要だって思ってましたから。一緒に来てくださいよ」

もういっそアーロンの件は今日で全部終わりにしようじゃないか!

僕は気付いた。

現場から主要人物が離脱、という明らかに無理のある状況下の中、これだけシナリオから剥離してもイベントは形を変えて消化された。
ということはだ。ここでアーロンがどうなろうが〝ルビー”イベントも形を変えて必ず起こるだろう。それすなわち…
何らかの条件…フラグさえあれば(今日で言うとローブを贈られる?)断罪も必ず起こるに違いない!

断罪は来る…きっと来る…

強がってみても内心一度は諦めかけた断罪…。くどいようだが僕の最終目標である断罪。
断罪されたいかどうかと言ったら、すでによく分からないというのが本音だ。だが…、ここまで来たんだ。こうなったら意地でも断罪されなきゃ気が済まない。

たとえ断罪された先が屋敷の納戸だったとしてもだ!
これもある種のコンプリート魂!




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