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アレイスター
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学院で行われる最も大きな行事、それが秋の文化祭だ。
嫡男、そして嫁ぎ先の決まった子女を除き、これは去就を決める重要な見せ場となる。そして人手不足に嘆く当主、家令にとっても、これは青田買いの機会である。
そんな双方の思惑が入り乱れ、例年類を見ない盛況となるのがこの祭りだ。
昨年の私はシャノンを案内した展示以外はいつもの閲覧室でいつものように、存在を消して静かにすごした。あの時の私はまだ、確固たる決意に至っていなかったからだ。
だが今はちがう。
王とコンラッドの道を正し、国をシャノンの描く在るべき姿へ導く。
その対価として私が望むものはたったひとつ、…ひとつだけだ…
この夏、満を持してプリチャード侯を陣営に率いれ、バーナード伯を中心とした私たちの活動はより活発になっている。
独自の動きでシャノンを支えていたシャノンの取り巻きアリソンの父親、クーパー伯も陣営に加わった。
北側の当主を中心に動き出す計画。繰り返される話し合い。だがそれらは常に水面下で行われる。私が加担している事だけは知られてはならない。今はまだ。
その私が北部貴族と議論の場を持つのに、これほどうってつけの機会があるだろうか。文化祭における学生の課題である゛研究発表”。私はそれを大いに利用することにした。
発表の見学を名目に目当ての人物を堂々と招き入れる。そしてそれ以外はヘクターが上手く入室を拒んでいく。
だが、力のない第二王子である私の名だけでは、どれほど説得したところで彼らを安心させることはできない。私の母は平民の出自で、私の後ろ盾は力無き家門が多い。
だからこそ無理を言ってシャノンに力添えを頼んだのだ。
その判断は功を奏し多くの参加者が私たちの陣営に尽力を約束してくれた。
一日の終わり、笑いながらお茶を注ぐ彼に抱いた感情を口にすることなどできない。が、コンラッドの前では見せることのなかった無邪気な笑顔が私だけに向けられる。その事実で今は十分だ。
そして文化祭三日目、それは昼前の事だ。専用個室で昼食をとろうとしていた私の元にヘクターが駆け付けたのは。
「アレイスター、ミーガン嬢たちがシャノン様の姿が見えないと捜している。昨日シャノン様から何か聞いていないか」
「シャノンが居ない…?どういうことだ」
「それが分かれば君に聞いていない」
シャノンが居ないだと?その時廊下からいつになく騒がしい、だが聞き覚えのある声が聞こえてきた。これは…、ロイドとブラッドの声だ。
「一時保管庫のある裏門だ!」
「そこに兄さんがいるのか?」
「ブラッド。裏門には馬車止めがある。その意味が分かるか?」
「それは…、…まさか!連れ去られると言うんじゃないだろうな!」
「そのまさかだ。私は壇上発表が気になりアーロンの様子を朝から伺っていた。開場から間もなくシャノン様は一度アーロンに接触をしている。それと前後して信者の動きがおかしくなった」
「信者が?で、ではアーロンの関与は…」
「私の見解ではないと思う。アリソンたちがシャノン様を探していると聞いてアーロンは血相を変えた。彼は大切な壇上発表を次に控えていた。特注のローブまで着込んで待機しているところだった。なのに一瞬もためらうことなく飛び出した。信者の制止振り切ってね。アーロンは関わっていない。私はそう信じるよ」
信者の暴走…?なんということだ!胸騒ぎがする…
ここへ来たということは恐らくコンラッドを呼びに来たのだろう。賢明な判断だ。ロイドは一昨日の怪我もまだ癒えてはいない。
アーロンが関わる以上コンラッドは出るだろう。そしてシャノンを心配するブラッドもまた…。私が駆け付ける必要はないのかもしれない…だが!
「ヘクター、馬の用意を」
「アレイスター…、分かったすぐに」
そうする以外の選択肢など、その時の私には考えられなかった。
嫡男、そして嫁ぎ先の決まった子女を除き、これは去就を決める重要な見せ場となる。そして人手不足に嘆く当主、家令にとっても、これは青田買いの機会である。
そんな双方の思惑が入り乱れ、例年類を見ない盛況となるのがこの祭りだ。
昨年の私はシャノンを案内した展示以外はいつもの閲覧室でいつものように、存在を消して静かにすごした。あの時の私はまだ、確固たる決意に至っていなかったからだ。
だが今はちがう。
王とコンラッドの道を正し、国をシャノンの描く在るべき姿へ導く。
その対価として私が望むものはたったひとつ、…ひとつだけだ…
この夏、満を持してプリチャード侯を陣営に率いれ、バーナード伯を中心とした私たちの活動はより活発になっている。
独自の動きでシャノンを支えていたシャノンの取り巻きアリソンの父親、クーパー伯も陣営に加わった。
北側の当主を中心に動き出す計画。繰り返される話し合い。だがそれらは常に水面下で行われる。私が加担している事だけは知られてはならない。今はまだ。
その私が北部貴族と議論の場を持つのに、これほどうってつけの機会があるだろうか。文化祭における学生の課題である゛研究発表”。私はそれを大いに利用することにした。
発表の見学を名目に目当ての人物を堂々と招き入れる。そしてそれ以外はヘクターが上手く入室を拒んでいく。
だが、力のない第二王子である私の名だけでは、どれほど説得したところで彼らを安心させることはできない。私の母は平民の出自で、私の後ろ盾は力無き家門が多い。
だからこそ無理を言ってシャノンに力添えを頼んだのだ。
その判断は功を奏し多くの参加者が私たちの陣営に尽力を約束してくれた。
一日の終わり、笑いながらお茶を注ぐ彼に抱いた感情を口にすることなどできない。が、コンラッドの前では見せることのなかった無邪気な笑顔が私だけに向けられる。その事実で今は十分だ。
そして文化祭三日目、それは昼前の事だ。専用個室で昼食をとろうとしていた私の元にヘクターが駆け付けたのは。
「アレイスター、ミーガン嬢たちがシャノン様の姿が見えないと捜している。昨日シャノン様から何か聞いていないか」
「シャノンが居ない…?どういうことだ」
「それが分かれば君に聞いていない」
シャノンが居ないだと?その時廊下からいつになく騒がしい、だが聞き覚えのある声が聞こえてきた。これは…、ロイドとブラッドの声だ。
「一時保管庫のある裏門だ!」
「そこに兄さんがいるのか?」
「ブラッド。裏門には馬車止めがある。その意味が分かるか?」
「それは…、…まさか!連れ去られると言うんじゃないだろうな!」
「そのまさかだ。私は壇上発表が気になりアーロンの様子を朝から伺っていた。開場から間もなくシャノン様は一度アーロンに接触をしている。それと前後して信者の動きがおかしくなった」
「信者が?で、ではアーロンの関与は…」
「私の見解ではないと思う。アリソンたちがシャノン様を探していると聞いてアーロンは血相を変えた。彼は大切な壇上発表を次に控えていた。特注のローブまで着込んで待機しているところだった。なのに一瞬もためらうことなく飛び出した。信者の制止振り切ってね。アーロンは関わっていない。私はそう信じるよ」
信者の暴走…?なんということだ!胸騒ぎがする…
ここへ来たということは恐らくコンラッドを呼びに来たのだろう。賢明な判断だ。ロイドは一昨日の怪我もまだ癒えてはいない。
アーロンが関わる以上コンラッドは出るだろう。そしてシャノンを心配するブラッドもまた…。私が駆け付ける必要はないのかもしれない…だが!
「ヘクター、馬の用意を」
「アレイスター…、分かったすぐに」
そうする以外の選択肢など、その時の私には考えられなかった。
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