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ジェロームと文通
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黒髪の救世主、ジェロームへ
ジェロームがエンブリーへと戻ってもう一か月と半分くらいたちますね。あの艶やかな黒髪に触れられないこの距離が僕は憎くて仕方ありません。どこでもドアがあればいいのに、って、心の底からそう思います。
仕方がないので僕はエンブリーから戻った宝石商のおじいさん(おじいさんって言ったことはナイショですよ)と、お金を出し合ってエンブリーまで行ける屋形船を建造中です。建造中といっても既存の船に四阿みたいなのを合体させているだけなのでそれほどお金はかかっていません。おじいさんには画期的なアイデアだと褒められました。どうですか?ジェロームもぜひ褒めて下さい。僕は褒められて伸びるタイプです。
おじいさんの名前はマーシャルと言います。知っていましたか?マーシャルさんはその船でエンブリーから琥珀を運びたいそうです。僕が運びたいのはジェロームです。だって11月には文化祭があります。去年もお知らせしましたよね。
今年は救護テントでお手伝いをしようと計画しています。救護の制服はとっても可愛いんですよ。ジェロームに見せたかったです。けど、残念ながら船の完成は間に合いません。クーパー伯爵にも無理だと言われました。ガッカリです。
追伸
お父様が屋形船の出航式に出て良いって言いました。お父様は次の船着き場までって言いましたが、僕はエンブリーまで行っちゃおうかと密かに考えています。出航しちゃえばこっちのもんですからね。これは二人だけの秘密ですよ。
シャノン・プリチャードより
琥珀採掘における権利確保の手続き他、諸々のために王都へ向かってから早二か月がたつ。
どこかであの方をお見掛け出来たら、その程度の淡い期待を持ってはいたが、まさか親交を結ぶにいたるとは…。私の運命はシャノン様によって神の祝福を得られたようだ。
手紙に抱いた印象のままに、どこか子供のような愛らしさをもつシャノン様。その反面、王国の未来を憂い、アレイスター殿下を導く姿はまさに『神託』。王族の血を引く亡きカサンドラ様の一粒種らしい高貴さが感じられた。
私が見かけた涙に震える悲しい背中、あれはもう、今は遠い彼方へと消え去ったようだ。その事実が嬉しくもあり、だがあの時のことを彼に聞きたいと、そう思ってしまう私は未熟者なのだろう。人には蒸し返されたく無いことがある。シャノン様にとって、あれはそういった類のものだ。
私と彼を繋いだ色とりどりの金平糖。誰に知られることもない密やかな…噛みしめれば溶けていく絆。
琥珀のように透き通る淡い絆に導かれて、今このエンブリーではソティリオ商会の手引きにより琥珀採掘事業が始まろうとしている。
だがそれだけではない。
シャノン様の示唆されたエンブリーの夢を、アレイスター殿下は琥珀とは別に何かあるのだろうと言われた。
年齢に似合わぬ賢明さが滲むアレイスター殿下。あのような方が今まで陽の当らぬ場に隠れていらしたとは…
殿下の助言に従い、コナーはソティリオ商会の番頭とともに、さらに川の下流付近において地質の調査を始めている。
もしもそこになんらかの夢の欠片を見つけることが出来れば…、国の正しき未来、あり方のために奔走される、あの高貴な方たちのために、ようやく私も胸を張って力をお貸しできるのかもしれない。
それが私をどこへ運んでいくかはわからないが…
シャノン・プリチャード様
王都で貴方と過ごした日々は、私にとって大変に恐れ多く、ですが夢のように甘美な時間でした。
あなたと歩いた慈愛の街を、私は忘れることが出来ません。
このエンブリーをあの下町ように、人々が喜びと笑顔に満ちた温かな場所にしたいと、そう強く思いました。
ここエンブリーをお救いくださったのもまたシャノン様です。
ここはすでにあなたのもの。第二の故郷。いつかあなたが来訪されるその時のために、私も領内を豊かにせねばなりませんね。
そのためにも、王都でアシュリーやバーナード伯といった人柄の優れた御仁と既知を得られたのは幸いでした。
彼らの招きで様々な場に参加し、シャノン様が日頃、学業、お妃教育に収まらず、どれほど高い志の中で生活されているのかを伺い知ることが出来ました。
ですが恐らくそれらがシャノン様から心の安らぎを奪うのでしょう。
何も持たない私ですが、それでもこのエンブリーを含め、私の全てはあなたのものです。お支えしたい、常にそう考えています。
ですから、プリチャード侯に心配をかけるような真似はどうかお控えください。
あなたの看護服姿を見られなかったのが残念なのは私も同じ気持ちですが、その機会はきっといつかまたあるでしょう。
あなたの発案した屋形船とやらに乗って、また春に私から訪問出来れば、そう考えています。
追伸
あなたからの土産ものである織物、そして新品の金物類を領民は大層喜んでいましたよ。
ジェローム・エンブリー
ジェロームがエンブリーへと戻ってもう一か月と半分くらいたちますね。あの艶やかな黒髪に触れられないこの距離が僕は憎くて仕方ありません。どこでもドアがあればいいのに、って、心の底からそう思います。
仕方がないので僕はエンブリーから戻った宝石商のおじいさん(おじいさんって言ったことはナイショですよ)と、お金を出し合ってエンブリーまで行ける屋形船を建造中です。建造中といっても既存の船に四阿みたいなのを合体させているだけなのでそれほどお金はかかっていません。おじいさんには画期的なアイデアだと褒められました。どうですか?ジェロームもぜひ褒めて下さい。僕は褒められて伸びるタイプです。
おじいさんの名前はマーシャルと言います。知っていましたか?マーシャルさんはその船でエンブリーから琥珀を運びたいそうです。僕が運びたいのはジェロームです。だって11月には文化祭があります。去年もお知らせしましたよね。
今年は救護テントでお手伝いをしようと計画しています。救護の制服はとっても可愛いんですよ。ジェロームに見せたかったです。けど、残念ながら船の完成は間に合いません。クーパー伯爵にも無理だと言われました。ガッカリです。
追伸
お父様が屋形船の出航式に出て良いって言いました。お父様は次の船着き場までって言いましたが、僕はエンブリーまで行っちゃおうかと密かに考えています。出航しちゃえばこっちのもんですからね。これは二人だけの秘密ですよ。
シャノン・プリチャードより
琥珀採掘における権利確保の手続き他、諸々のために王都へ向かってから早二か月がたつ。
どこかであの方をお見掛け出来たら、その程度の淡い期待を持ってはいたが、まさか親交を結ぶにいたるとは…。私の運命はシャノン様によって神の祝福を得られたようだ。
手紙に抱いた印象のままに、どこか子供のような愛らしさをもつシャノン様。その反面、王国の未来を憂い、アレイスター殿下を導く姿はまさに『神託』。王族の血を引く亡きカサンドラ様の一粒種らしい高貴さが感じられた。
私が見かけた涙に震える悲しい背中、あれはもう、今は遠い彼方へと消え去ったようだ。その事実が嬉しくもあり、だがあの時のことを彼に聞きたいと、そう思ってしまう私は未熟者なのだろう。人には蒸し返されたく無いことがある。シャノン様にとって、あれはそういった類のものだ。
私と彼を繋いだ色とりどりの金平糖。誰に知られることもない密やかな…噛みしめれば溶けていく絆。
琥珀のように透き通る淡い絆に導かれて、今このエンブリーではソティリオ商会の手引きにより琥珀採掘事業が始まろうとしている。
だがそれだけではない。
シャノン様の示唆されたエンブリーの夢を、アレイスター殿下は琥珀とは別に何かあるのだろうと言われた。
年齢に似合わぬ賢明さが滲むアレイスター殿下。あのような方が今まで陽の当らぬ場に隠れていらしたとは…
殿下の助言に従い、コナーはソティリオ商会の番頭とともに、さらに川の下流付近において地質の調査を始めている。
もしもそこになんらかの夢の欠片を見つけることが出来れば…、国の正しき未来、あり方のために奔走される、あの高貴な方たちのために、ようやく私も胸を張って力をお貸しできるのかもしれない。
それが私をどこへ運んでいくかはわからないが…
シャノン・プリチャード様
王都で貴方と過ごした日々は、私にとって大変に恐れ多く、ですが夢のように甘美な時間でした。
あなたと歩いた慈愛の街を、私は忘れることが出来ません。
このエンブリーをあの下町ように、人々が喜びと笑顔に満ちた温かな場所にしたいと、そう強く思いました。
ここエンブリーをお救いくださったのもまたシャノン様です。
ここはすでにあなたのもの。第二の故郷。いつかあなたが来訪されるその時のために、私も領内を豊かにせねばなりませんね。
そのためにも、王都でアシュリーやバーナード伯といった人柄の優れた御仁と既知を得られたのは幸いでした。
彼らの招きで様々な場に参加し、シャノン様が日頃、学業、お妃教育に収まらず、どれほど高い志の中で生活されているのかを伺い知ることが出来ました。
ですが恐らくそれらがシャノン様から心の安らぎを奪うのでしょう。
何も持たない私ですが、それでもこのエンブリーを含め、私の全てはあなたのものです。お支えしたい、常にそう考えています。
ですから、プリチャード侯に心配をかけるような真似はどうかお控えください。
あなたの看護服姿を見られなかったのが残念なのは私も同じ気持ちですが、その機会はきっといつかまたあるでしょう。
あなたの発案した屋形船とやらに乗って、また春に私から訪問出来れば、そう考えています。
追伸
あなたからの土産ものである織物、そして新品の金物類を領民は大層喜んでいましたよ。
ジェローム・エンブリー
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