上 下
120 / 229

アレイスター

しおりを挟む
「シャノン」

「あ、アレイスター様」

「コンラッドと庭園に居たのか」
「ええまあ。初めて入りましたけどね。あそこに。王妃様の奥庭ほどじゃないですけど良かったですよ。…多分」
「多分?二人で散策を楽しんだのではないのかい」

我ながら嫌な聞き方をする。私がコンラッドに対し抱く感情などシャノンには関係ないというのに。
だが、今まで形式的でしかなかったコンラッドの振舞いが変化したのは確かだ。彼のシャノンを見つめる視線からは何かが感じられ、それが私をひどく焦らすのだ。

「ちょっと込み入った話してて風景を楽しむ心の余裕が…」
「込み入った話…?聞いていいだろうか?何を話していた?」

甘い雰囲気を感じさせぬ物言いに安堵している私が居る。だがこのままならいずれにしてもシャノンは第一王子妃、あの、町娘の服を着てくるくると回った無邪気な笑顔を取り戻すことは叶わなくなる…
だがその返答は私の杞憂を示していた。彼らは想像以上に深刻な話をしていたようだ…

「えー…コンラッド様が道を外れまして…僕の思ってるのと違う王道を目指そうとしていたのでちょっと修正を」

これは…私が聞いても良い話なのだろうか?
シャノンはいつも端的な物言いをする。それは王宮でその姿を見かけ始めた、まだ幼い頃から変わらない。彼の考えは熟考を重ねた慎重なもので、安易に人を先導しない。
それゆえに踏み込むべきかどうか躊躇していたところ、彼は私の様子を察し、やはり最低限の言葉を続ける。

「別れちゃイケマセンからね。それだけは阻止しないと…」
「分かれては駄目だと、そう言うのかい?」

「別れるんじゃなくて…き、き、共同?共有?とにかく、一旦役割り分担してお互いのストレージを犯さなければ、今は上手くやれると思うんですよ」

シャノンの語りには往々にして異国の言葉が混ざる。恐らく宮廷内の目や耳を警戒してのことだろうが。

「ストレージ…?」
「え?ああ。領域の事です」

そう…か!いたずらに国を二分するのではなく、役割を明確にし領域を分け互いに尊重しあえというのがシャノンの考えか!

私を悩ませ続けた大きな問題。それは王に反旗を翻し、本当に革命への道を突き進んでも良いのか、ということだ。それは誰にとっても大きな痛みを伴う。とりわけ私の愛する人たちが…。

王のやり方に異を唱えることは王妃アドリアナ様の不興を買う。それはシャノンにとって、あまり喜ばしいことではないだろう。アドリアナ様はシャノンにとって母代わり、敵対させるのは本意でない。
そしてもう一つ。母は王を心から愛している。その愛すべき王と剣を交えるようなことはなんとしても避けたい、それが私を鈍らせてきた。が…

、ようやく私が推し進めるべき道が見えた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ
BL
ユランは、幼馴染みのエイダールが小さい頃から大好き。 保護者気分のエイダール(六歳年上)に彼の恋心は届くのか。 基本は思い込み空回り系コメディ。 他の男にかっ攫われそうになったり、事件に巻き込まれたりしつつ、のろのろと愛を育んで……濃密なあれやこれやは、行間を読むしか。← 魔法ありのゆるゆる異世界、設定も勿論ゆるゆる。 長くなったので短編から長編に表示変更、R18は行方をくらましたのでR15に。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

浮気三昧の屑彼氏を捨てて後宮に入り、はや1ヶ月が経ちました

Q.➽
BL
浮気性の恋人(ベータ)の度重なる裏切りに愛想を尽かして別れを告げ、彼の手の届かない場所で就職したオメガのユウリン。 しかしそこは、この国の皇帝の後宮だった。 後宮は高給、などと呑気に3食昼寝付き+珍しいオヤツ付きという、楽しくダラケた日々を送るユウリンだったが…。 ◆ユウリン(夕凛)・男性オメガ 20歳 長めの黒髪 金茶の瞳 東洋系の美形 容姿は結構いい線いってる自覚あり ◆エリアス ・ユウリンの元彼・男性ベータ 22歳 赤っぽい金髪に緑の瞳 典型的イケメン 女好き ユウリンの熱心さとオメガへの物珍しさで付き合った。惚れた方が負けなんだから俺が何しても許されるだろ、と本気で思っている ※異世界ですがナーロッパではありません。 ※この作品は『爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話』のスピンオフです。 ですが、時代はもう少し後になります。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

転生聖賢者は、悪女に迷った婚約者の王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 全五話です。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

処理中です...