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70 断罪と穏やかな日々

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その日セバスからもたらされたのは待ち望んだ朗報!当主の帰館だ。

「シャノン様、旦那様とブラッド様が一両日中にお戻りのようです」
「お父様まで?」

セバスが言うには、川の件を知り急いでこちらに向かっているという話だが、ちょっと大袈裟じゃないだろうか。水には濡れたが…かすり傷一つついてないのに。

「昨夏は窓からの転落、今夏は川への転落、旦那様も気が気ではないのでしょう」

言われてみれば…
夏は鬼門か。僕は来夏に備え気を引き締めなお…そうとしたが、よく考えたら来夏は断罪で社交界から転落だった。てへ☆

「シャノン様、その後でしたら旦那様もきっとご許可をくださいますわ。エンブリー男爵は恩人なのですし。残りの滞在をここで過ごしていただきましょう」

キタコレー!!!

「あ、あの、ジェロームがエンブリーにお帰りになる日は僕が船着き場まで送っていきますから。その日はお休みします」
「まあ!ですが…」

「これは決定事項です。セバス、そのように学院へ連絡を」
「かしこまりました」

これは良いシャノン降臨である。
そうしてジェロームとアシュリーに、「父帰り次第ジェロームの身柄はプリチャード邸にて預かる」と通達を入れ、僕は本日の準備にとりかかった。

実は以前から約束していた、ロイドとの勉強会を開催することになっているのだ。
面倒と言えば面倒だが、顔を合わせるたびに毎回「勉強会は…」と聞かれるのも地味にストレスなので、みんなも呼んで休みのうちに済ませてしまおうと思って。これも夏の思い出と言えなくもないし。

「ロイド様ようこそプリチャード邸へ。それじゃあ私室に案内しますね?こちらにどうぞ」

ランチを一緒に、と伝えてあるので彼らがやって来たのはまだお昼前。
今から軽く夏の課題を見せあって、ランチを終え午後からが本腰を入れた勉強をする予定だ。

「シャノン様の私室…い、いいのですか?」
「いいですよ。というか、もう皆さんお揃いですから」

「皆さん…」

何を項垂れているんだろう…?やっぱりロイドはよく分からない。

さて、ロイドの目当ては分かっている。この世界では学びの遅れている理数を強化したいのだろう。なにしろ、その点で僕は一歩どころか十歩くらいリードしているから。
代わりにロイドからは古代語のよくわからないところを確認するつもりでいる。

意外にも和気あいあいとした空間。よく考えたらロイドは陰キャこっち寄りだった。

「ロイド様はお仲間ですね」ニコ
「は…は…」

何パクパクしてるんだろう?だから怖いって!

「シャノン様、どうされました?」
「ミーガン様…、いえ、上の段にある本が取れなくて…」

侯爵子息が人前でイスに乗り上げるわけにもいかないし…困ったな。

「誰か手伝ってください」

「シャノン様、私g」
ズイッ!「私が!私が手伝います!」

お、おう…
アリソン君を押し退けてまでロイドお前…、誰でもいいけど…

「じゃあそこで四つん這いになってください」
「「「ええっ!」」」

キレイなシャウトのハーモニー…みんなどうしたんだろう?

「シャノン様それは?」

ん?ミーガン嬢には伝わらなかったか。台になってもらって取る気でいたんだけど…

「嫌ならいいです」
「いえ!嫌ではないです!むしろ…」
「じゃ、ロイド様早く」

僕がコケないか皆が心配そうに?見守るなか、僕は鼻息の荒いロイドの背に足をのせる。
んん?鼻息の荒い?失礼な!僕はそれほど重くない!

「失礼します兄さん。只今戻りまし…た…、ロイド…君は何をやって…」

聞き慣れた声に振り向けば、扉の前にはフリーズしたブラッドが立っていた。

思いがけずブラッドまで参加することになった午後からの勉強会。ロイドが嫌そうなのは何故?友だちなのに。
ブラッドはお父様への報告があるからと、川での出来事を全員に根掘り葉掘り聞いてくる。ついでにジェロームのことまで追求してくるのは仕方ないといえば仕方ないのだろう。

「兄さんはその男爵がお気に入りなのですか?」

ギクッ!さり気に挟まれる核心。今余計なことに気付かれてはいけない。少なくとも僕がコンラッドの婚約者でいるうちは。シャノンに不名誉な評判はつけられない。

「…ジェローム…というより、えー……その、エンブリーが。あそこは重要な場所ですから」
「そう…なのですね」

これでよし。チェンジ!その話題はチェンジで!

「そ、それよりブラッド。実はアノンがこの間ハイハイしてね」
「本当ですか?もう少し後になるだろうと母さんからは聞いていましたが」
「でしょ。すごく早いの。体幹がしっかりしてるんだね。アノンは物静かな子だけど教えたら剣とか上達するかも」

「ふふ、分かりました。歩けるようになったら僕が教えましょう」
「お願いね」

アノンはブラッドにとても良く懐いている。それに初めは少しぎこちなかったシェイナも、僕とブラッドの和解、それに伴うブラッドの変化を受け入れ、少しずつ笑いかけるようになってたりする。まあ…、ブラッドに関してはシャノンにも反省すべき点はあるしね。
兄弟仲良くしている光景は目に優しい。せいぜい僕もブラッドと仲良くしてやろうじゃないか。

そんなこんなでお父様も翌日にはお戻りになり、今日からジェロームが二泊三日で滞在する。といっても、今日から僕は秋期登校。夕方からしか一緒に過ごせないのが残念。いや、今は贅沢を言ってはならない。いいじゃないか。どうせ一年後にはラブラブライフが待っているんだから。

そんなわけで久しぶりの学院なのだが、僕の前後左右は取り巻き三人、そしてブラッドにより固められている。
何故なら…『神託』となって初めての登校だからだ。
僕は空港の芸能人みたいな状況の中、講義室へと急いだのだが…キョロキョロ…ん?あれ?

「いない…」

僕の呟きは周囲の喧騒にかき消された。

ほとんど見世物状態で机につけば、そこにはいつもの花が一輪。秋期初日からマメだな。お?手紙だ。何々…?

「アーロンは禊が終わると日程の許す限り『施し』をおこなった。移動は南から東に向けての山間部に点在する貧しい村落。教会へ戻ったのは昨夜。そのため当分欠席である」

あの騒めきの中で聞こえたのか…。さすがだ隊長…

さて、非常に気もそぞろな一日を過ごし午後の講義を終え急ぎ足で正門まで向かうと…

「お迎えに参りましたシャノン様」
「ジェ」クラリ…

「シャノン様!お早く馬車に!」

ジェロームの出迎え…、破壊力バツグン…

「シャノン様はお身体が弱いのですね」
「そ、そんなこと無いです!こう見えて今は丈夫です!猫アレルギーくらいしか発症してません!」

そりゃもう。前世に比べたら。
うっかり田舎暮らしに向かない、なんて思われたら問題だ!

「それよりほら、僕の制服姿どうですか?」
「とてもよく似合っています。実はアシュリー殿から「まるでシャノン様のためにあつらえたような制服だ」とうかがいまして…それで一目と思い…つい来てしまいました」

でかしたアシュリー!!!褒美をつかわす!

「あの…今日は晩餐があるから無理だけど…明日…、明日も迎えに来てくれますか?一緒に僕の行きつけカフェに行きましょう?」
「あなたを迎えに行く栄誉をいただけるとは。この上ない喜びです」

アフン…誰かこの人を止めて。黒髪のイケメンが僕を仕留めにかかって来る…






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