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61 断罪の先にある運命

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前世、今世と通算して初めての船遊び!といっても手漕ぎの船だが…でもまあこれはこれで。

輸送に使われる中型船は東、ここからだと上流へと向かっていく。そしてここから下流…といってもどちらも流れの無いフラットな川だが、…ここから西は比較的小型の船や、遊覧のための手漕ぎ船が整えられた遊歩道沿いに水面を漂うちょっとした観光名所だ。

一艘に付き船頭さんを除いて二人しか乗れない小さな船には、当然ながら僕とリアソン君がペア…になるところを阻止して、さり気にミーガン嬢を指名した僕は悪い腐男子だ…

その甲斐あって右側にはリアム君とアリソン君が、実に仲睦まじく語らい合っている。眼福…
反対側にはカイルと護衛C。護衛AとBは陸上警備だ。

「はいシャノン様、お約束しましたハワード伯爵領のワッフルですわ」
「わぁ」

あれ?ペラい…。僕が想像していたのはふわふわのパンケーキみたいなワッフルだったんだけど…これはパリパリした薄いクッキーみたいだ。でも癖になる歯ごたえ。

サクサクサク…「美味しい!」
「お喜びいただけてなによりですわ」

「シャノン様、ミーガン様、そうしてお二人並ぶと…眼福ですね」ホゥ…

おーっと。左側からカイルが一言。どうやら僕たちも誰かの目の保養になっていたらしい。

「川に指浸けてもいいですか?ひゃ!冷たい!」

夏の川といっても地球温暖化の起こっていないこの世界に猛暑は無い。それなりに水温は低いし風は涼しい。それがまた気持ちイイ…。

「あんまり乗り出さないでくださいよ。危ないんで」

「はーい」
「まあシャノン様ったら…まるで子供のようですわね。フフフ」

前世でも縁のなかった水遊び…ちょっと童心に返ってしまった…。でも緑と水辺にはヒーリング効果がある。この一か月間のストレスが霧散していくのを感じる…
ゆらゆらと船に揺れ川を下る穏やかな昼下がり。ここには貴族街とは違う空気が流れている…。

「シャノン様、怪しげな小舟が一艘近づいて来ます」

後ろの小舟にいる護衛Cから告げられたのは平和をブチ壊す不穏なセリフ。怪しげな船だと?

「カイル、船は貸し切ったんじゃなかったの?」

「あの場に残っていたものは。ですがすでに客を乗せて水上に出ていたものはどうにも出来ず…」

それなら仕方ない。僕は高飛車シャノンだが暴君ではない。要は遊覧を終えた船はフリーだったというわけか。

「前方からももう一艘来ます」

ゲッ!

「どうやらシャノン様の行動が漏れていたようですわね…」

「ミ、ミーガン様…」
「だ、大丈夫ですわシャノン様。きっと護衛の方々がお守りくださいます」

人気者の宿命…、敬遠されるのとどちらがマシなんだろう。因みに僕なら敬遠一択だ。僕は孤独を愛する男。ぼっち飯など怖くない。

「シャノン様ー!どうかうちの娘に会ってやってください!あの子は天使でございますぞー!」

推しの押し売りかい!

「シャノン様!神子の選定に私的な感情を交えてはなりませぬぞ!神子はアーロン様にございます!」

こっちはアーロン擁護派!?

「シャノン様は遊覧中だ!近寄るんじゃない!」
「いいや!一言お言葉をいただかなくては帰れませんな!」
「こんな事をしてもシャノン様の選定は覆りませんよ!離れて下さい!」
「ええい!従者風情がやかましい!かまわぬ!船頭!船を近づけよ!」

なに!
来るなー!来るんじゃない!お前らのせいで静かな川面が波立ってるじゃないか!見ろ!船頭さんまで船が揺れて困ってるでしょーが!

「せ、せせ、船頭さん!ダッシュで離れて!ここから移動して!」
「へい!」

ぎょー!ついてくんな!船群から抜け出た僕をそれでも追いかけてきたのはアーロン派の船だ。あいつらは確約をとるまで一歩も引かないつもりらしい。
もう少しで船着き場だって言うのに…しつこ… 
ガッ!
うわっ!船体が接触した!

「キャッ!」
「ミーガン様!」

腐男子の僕は乙女心を忘れない女性に優しい男だ。たとえシャノンがどれほど線が細くてもまごう事無い男。ミーガン嬢をカッコよく庇うのは当たり前のことだ!が!思った以上に非力でした…

「ああっ!」ザッブーン!

カッコわるい…

「シャノン様!早く!誰かシャノン様を!」

悲鳴のようなミーガン嬢の叫び。でも大丈夫!こう見えても僕には着衣水泳の経験がある。現代日本の体育授業を舐めんな!と言いたいところだが…
僕の中に運動神経は存在しない。体力はあっても運動はしない(出来ないじゃなくてしないね。ここ大事なとこだから)のがこの僕だ。
おまけに貴族服はお出かけ用の軽装ですら…重い。吸水率が…半端ない…ブクブクブク…

重たい衣類に手足の自由を奪われ、なんとか沈まないまでもアップアップしたまま前進出来ないでいたその時、僕の両脇にいきなりしなやかな腕が差し込まれた。視界の隅に見えるのは輝く黒の光沢。
ご、護衛の誰か…助かったよ…
さすがプリチャードの騎士。ほとほと感心しながら、僕はこれ以上沈むまいと必死にしがみついた。

片腕で抱きかかえられながらなんとか船着き場まで泳ぎ着くと、彼は軽々と僕を遊歩道まで押し上げた。なのにその力強さに萌える余裕が今は無い、無念。続いて岸に上がる彼の姿がちらっと見えたが咳き込む僕はやっぱりそれどころじゃない。この世界の川は…一見キレイそうに見えてそうでもないのだ。何故ならみんな、川に色んなものを流すし色んなものを洗うから。

「ゲホッ!ゲホッ!カハッ!あー…ヒドイ目にあった…」

あのじじい!絶対許さん!そう決意しながらシャツの裾を絞っていると、肩からそっと上着が掛けられた。
彼はとても弁えた護衛だ。さっきからちっとも前に出ない。ずっと僕の背後で様子を伺っている。

ようやく船をつけた後続の面々が狼狽しきった顔で駆け付けてくる。ミーガン嬢を筆頭に、リアム君、アリソン君、カイルに…護衛C。そして遊歩道の向こう側からも護衛AとBが慌てて走ってくる。

……護衛ABC?

えっ?えっ?……ちょ、待てよ!

じゃあ僕を助けてくれた黒髪は一体…誰?





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