92 / 289
アレイスターと荒ぶる猫
しおりを挟む
何の確証もない想像でしかないのだが…ほぼ相違ないのだろう。彼は先ほどから言葉を発しない。
「君はあの転落時どこにいた?ヘクターから聞いた。君は尊い世界、白く輝く光の向こう側に居たと」
「それはその…そうじゃないです…違います…」
言葉尻が消え入りそうだ。誤魔化しの言葉すらすでに浮かばぬらしい。
「プリチャード侯も王妃アドリアナ様の前で激しく主張していたよ。「光の向こう側から来た」「世界を守る」そう君自身が口にした。だから神子は君だとね」
「お父様がそんな事を…!ご、誤解です!」
まったく彼は…。
コンラッドとの関係悪化は彼を社交界から遠ざけた。ゆえに彼は社交界の動きに疎い。この週末にある王城への出仕は、アドリアナ様から言及を伴う事は間違いない。だからこそ私はその前に二人で話す機会を得たいと、アリソンにそう申し出たのだ。
…いや、それは詭弁だな…。そうだ。私はただ…、ただこうしてシャノンと二人の時を過ごしたかっただけだ。いそいそと焼き菓子まで用意して…どれほどヘクターに笑われたか。一回り小さなシャノンの手。握りしめた手を彼は振りほどかない。
だがそれはそれ。これはこれだ。
「シャノンは『神子』でなく、神子を制定する『神託』であり『聖なる力』なのだと、私は王妃アドリアナ様に進言しようと思う」
「何言ってるんですか!やめてください!じ、じゃあアレイスター様はシェイナを…」
「シャノンを司る神子もまたシャノンとは…。偶然にしては出来過ぎだ。なぜプリチャード夫人はそう名付けた?何か見えざる力に導かれた、そう思わないか」
大きく目を見開き小さく肩を震わすシャノン。泣くかと思い身構えたが、意外にも顔をあげた彼は子供のように唇を尖らせていた。おやこれは…
「も、もー!!!違うって言ってるじゃないですか!シェイナはまだ赤ちゃんですよ!シェイナに何が出来るって言うんです?」
必死に食い下がるシャノン。恐らく彼は、幼い妹にそのような重責を負わせたくはないのだろう。
「だからこそ君が代わりに動いているのだろう?それならば全てが腑に落ちる。何故『神託』を授ける者と授かる者が同一であるか…」
「う…うぅ…、もうっ!バカバカバカ!アレイスター様のケモオタ!分からんちん!」
私の胸を叩くシャノンは、猫のようなマスクのせいか、まるで子猫がじゃれているようだ。
もちろん非力なシャノンにいくら叩かれたところでどうということもないが…、婚約者でもない第二王子である私の胸を殴打するなど、これが二人きりで無ければ問題になるところだ。
が、こんな仕草がいかにも甘く感じるのだから…私も随分骨抜きにされたものだ。
「シャノン、ほら落ち着いて…」
「はーはーはー…、細マッチョめ…。シェイナを巻き込んだら絶対許さないから!僕が怒ったらどうなるか分かってますか?」
「ほう…?どうなる?」
「な、なんか大変なことに…ムキー!どうなっても知りませんからね!べーだ!」
おや。子供のように小さな舌を出すとは。彼の怒りはすっかり私への敬意を消し去ってしまったようだ。ではその可愛らしい舌に免じて。
「分かったシャノン。ではシェイナに関しては口を噤もう。だが君のことは…」
「言うんですか?王妃様に?あーそうですか。いいですよ。言ったらいいじゃないですか。えーえー、どうぞご勝手に。これくらいで…僕は負けませんよ!」ブツブツ…
いつまでも拗ねるシャノン。だがその声色には諦めが滲み始めている。
「すまないシャノン。だが…これも王の目を覚まさせるためだ。そしてコンラッドを救うためだ」
「コンラッド…はぁ~…全く!」
不仲と言いつつコンラッドを慮るシャノン。苦い思いが胸に灯るが、今は妬いてもどうにもならない。
それよりコンラッドが見ることの無いシャノンの姿を私だけが知る、その愉悦に浸るとしよう。
それにしても今日の演目が『アイーン』だったのは何の偶然か。
主要な演者は王子と婚約者、そして人質としてやってきた隣国の王女アイーン。
二国間の争いの中恋に落ちた王子は国か王女か、究極の選択を何度も強いられる。そして一度は、寛容な婚約者と国のために生きると決意するが…土壇場で王女アイーンを選び、そうして彼は…
彼らは…
「君はあの転落時どこにいた?ヘクターから聞いた。君は尊い世界、白く輝く光の向こう側に居たと」
「それはその…そうじゃないです…違います…」
言葉尻が消え入りそうだ。誤魔化しの言葉すらすでに浮かばぬらしい。
「プリチャード侯も王妃アドリアナ様の前で激しく主張していたよ。「光の向こう側から来た」「世界を守る」そう君自身が口にした。だから神子は君だとね」
「お父様がそんな事を…!ご、誤解です!」
まったく彼は…。
コンラッドとの関係悪化は彼を社交界から遠ざけた。ゆえに彼は社交界の動きに疎い。この週末にある王城への出仕は、アドリアナ様から言及を伴う事は間違いない。だからこそ私はその前に二人で話す機会を得たいと、アリソンにそう申し出たのだ。
…いや、それは詭弁だな…。そうだ。私はただ…、ただこうしてシャノンと二人の時を過ごしたかっただけだ。いそいそと焼き菓子まで用意して…どれほどヘクターに笑われたか。一回り小さなシャノンの手。握りしめた手を彼は振りほどかない。
だがそれはそれ。これはこれだ。
「シャノンは『神子』でなく、神子を制定する『神託』であり『聖なる力』なのだと、私は王妃アドリアナ様に進言しようと思う」
「何言ってるんですか!やめてください!じ、じゃあアレイスター様はシェイナを…」
「シャノンを司る神子もまたシャノンとは…。偶然にしては出来過ぎだ。なぜプリチャード夫人はそう名付けた?何か見えざる力に導かれた、そう思わないか」
大きく目を見開き小さく肩を震わすシャノン。泣くかと思い身構えたが、意外にも顔をあげた彼は子供のように唇を尖らせていた。おやこれは…
「も、もー!!!違うって言ってるじゃないですか!シェイナはまだ赤ちゃんですよ!シェイナに何が出来るって言うんです?」
必死に食い下がるシャノン。恐らく彼は、幼い妹にそのような重責を負わせたくはないのだろう。
「だからこそ君が代わりに動いているのだろう?それならば全てが腑に落ちる。何故『神託』を授ける者と授かる者が同一であるか…」
「う…うぅ…、もうっ!バカバカバカ!アレイスター様のケモオタ!分からんちん!」
私の胸を叩くシャノンは、猫のようなマスクのせいか、まるで子猫がじゃれているようだ。
もちろん非力なシャノンにいくら叩かれたところでどうということもないが…、婚約者でもない第二王子である私の胸を殴打するなど、これが二人きりで無ければ問題になるところだ。
が、こんな仕草がいかにも甘く感じるのだから…私も随分骨抜きにされたものだ。
「シャノン、ほら落ち着いて…」
「はーはーはー…、細マッチョめ…。シェイナを巻き込んだら絶対許さないから!僕が怒ったらどうなるか分かってますか?」
「ほう…?どうなる?」
「な、なんか大変なことに…ムキー!どうなっても知りませんからね!べーだ!」
おや。子供のように小さな舌を出すとは。彼の怒りはすっかり私への敬意を消し去ってしまったようだ。ではその可愛らしい舌に免じて。
「分かったシャノン。ではシェイナに関しては口を噤もう。だが君のことは…」
「言うんですか?王妃様に?あーそうですか。いいですよ。言ったらいいじゃないですか。えーえー、どうぞご勝手に。これくらいで…僕は負けませんよ!」ブツブツ…
いつまでも拗ねるシャノン。だがその声色には諦めが滲み始めている。
「すまないシャノン。だが…これも王の目を覚まさせるためだ。そしてコンラッドを救うためだ」
「コンラッド…はぁ~…全く!」
不仲と言いつつコンラッドを慮るシャノン。苦い思いが胸に灯るが、今は妬いてもどうにもならない。
それよりコンラッドが見ることの無いシャノンの姿を私だけが知る、その愉悦に浸るとしよう。
それにしても今日の演目が『アイーン』だったのは何の偶然か。
主要な演者は王子と婚約者、そして人質としてやってきた隣国の王女アイーン。
二国間の争いの中恋に落ちた王子は国か王女か、究極の選択を何度も強いられる。そして一度は、寛容な婚約者と国のために生きると決意するが…土壇場で王女アイーンを選び、そうして彼は…
彼らは…
2,952
お気に入りに追加
5,718
あなたにおすすめの小説
一日だけの魔法
うりぼう
BL
一日だけの魔法をかけた。
彼が自分を好きになってくれる魔法。
禁忌とされている、たった一日しか持たない魔法。
彼は魔法にかかり、自分に夢中になってくれた。
俺の名を呼び、俺に微笑みかけ、俺だけを好きだと言ってくれる。
嬉しいはずなのに、これを望んでいたはずなのに……
※いきなり始まりいきなり終わる
※エセファンタジー
※エセ魔法
※二重人格もどき
※細かいツッコミはなしで
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。
石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。
ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。
ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。
母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる