上 下
91 / 229

56 断罪はオペラの幕間 ②

しおりを挟む
神子、それはアーロンをアーロンたらしめる、ノベルゲーの最重要キーワード。

「な、何のことですか?」

晴天にヘキエキ。なんだそれ?いつからどうしてそうなった!

「君のお父上、プリチャード侯爵もそう主張しているが?」
「聞いてません…あっ…」

そう言われてみれば…、訳アリ顔でジィィィ…っと僕を見てくる、あれか?

「ツェリの反乱、石像の倒壊を予言して見せたとか?おまけに洗礼式では君に光が差し込んだというじゃないか」

光が差し込んだのはシェイナにである。僕は寝落ちしただけだ。まぁ…、夢枕にシャノンが立つ、という特大ハプニングはあったけど…神子とか…ちょっと何言ってるかわかんない。というか。

「ツェリって何です?知りませんよそんな」

「そういえばあの時も隠語を使っていたね。だが今更隠しても遅い。皆知ってしまったのだから」

だから何を?

何とかあの手この手で話を引き出し要約すると、どうやら僕はインチキ占い師のやり口を知らず知らずのうちに真似していたらしい。

誰にでも当てはまりどうとでもとれそうなことを、いかにもそれっぽい雰囲気を醸し出しながら勿体付けて告げる、
え~?いや、やったけど…。その結果、偶然ルテティアへの支配に対し反撃の機会を伺っていたツェリの国を発見し、セナブム(あ、これこの間まで戦争していた相手国ね)に宛てて出そうとしていた国主の親書まで見つけただなんて…むしろ王様がすごいんじゃね?

かといって、的中してしまったものはもうしょうがない。占い師だって、しれっと自分の手柄にするものだし。

「…未然に防げて良かったです…。争い事は…良くないですからね」

「だが君が『神子』であると言う者が増えれば増えるほど王都での争いは激化するだろう。議員貴族家の多くはアーロンを神子だと信じている」

ここで説明しておこう。ルテティアの宮廷官吏は、王の補佐をする補佐官と大臣とに分けられる。
王の補佐には宰相(ロイドのお父さんは宰相補佐だよ)や摂政(王妃様のこと)、尚書(これお父様ね)、法官、税官とかまあ色々いて、他にも近衛隊長なんかが含まれ、基本的には王様のために働く官吏を指す。
これに対し大臣とは、よりよき国、民のため、各部門に分かれ日々小さな取り決めをする議員貴族たちを指す。

絶対王政の国で議員とは…と思うだろうが、拡大政策路線のルテティアは、いくら王妃様が有能でも、一人で切り盛りするには、いくらその為に領主が居るといっても大国過ぎる。
そこで、些細なことはこうして議員が会議で決め、そこそこまとまった状態で王、または王妃様にあげるのだ。当然…、そこで全ボツになることもある。他人事ながら何という不条理…。

「でもお父様はアーロンを好きじゃないですよ。なぜ議員貴族はアーロンをそんなに信じるんですか」

そりゃ、可愛い息子が窓から転落した原因で、あてにしていた義理の息子を誘惑されて、プリチャード家の当主からしてみれば、アーロンに良い感情を持つ理由がない。だからこそ導入されている石像エピソードだ。

「プリチャード侯は君の療養までは領地にいることが多かった。いや、プリチャード侯だけではない。王不在の宮廷で、補佐官はアーロンと対面する機会などそれほど多くはなかった」

アレイスターが言うには、市中に関わることの多い議員貴族たちは、事あるごとにアーロンと個別で面談を繰り返している。そして面談も数回過ぎるころには、すっかりアーロンの信奉者に成り果てているのだとか。

ガクガクブルブル…。恐るべし主人公の魅了チャームパワー。


「シャノン、劇が始まったよ。続きは後で話そう」

僕が神子とか…言い掛かりにも程がある。けど…、初めて見る煌びやかな舞台、あっという間に僕は夢中になった。

舞台上では女優さんが高らかに歌い上げている。そして…今気づいたのだが、並んで座る僕の右手はあれからずっとアレイスターに握られている。

チラッ

無視すんな! って、…もしや照れてる?え、ちょ、顔…
意識されるとこちらも照れくさくなるでしょーが!

うっすらと染まるアレイスターの頬を見たら何にも言えない…。仕方ないので僕とアレイスターは一幕が終わるまでずっとそのまま手を繋いでいた。かぁー…青春か!

さて、一幕と二幕の間には一時間近い休憩がある。アレイスターの従者がきてササッと軽食の準備を整えていく。この手さばき。さすがのカイルも出番なしだ。

「アレイスター様、さっきの続きですけど…」
「君が神子、という話かい?」

「まさかアレイスター様までそんな話信じて無いです…よね…?」

「…私はね、以前から君が神子に関わる何かなのではないかと考えていた」

なにっ!? 初耳だよそんな…。なんだよその、神子に関わる何かって…

「伝承を知っているだろう?『お花の人』ふふ、から、聞いているそうじゃないか」

何故そこで笑った!

『人と人が相容れぬ大きな争いと混沌の中、国を平定に導くは聖なる力を司るものなり。神子は神託と共に出現し解放を以て人々に力を与える。迷える魂は救済され、万人への愛と共に国は栄華を極めるだろう』
うっかり。いや、すっかり暗記した文章だ。

「大きな争い…父はそれをセナブムとの争いだと考えたのだろう。だが私は…それこそが君とアーロンなのだと考える」

「へー、たしかに争ってますけど。じゃなくて!」

それじゃあまるでコンラッドが「私のためにケンカは止めて!」って言ってるヒロインみたいじゃないか!

「神子とは『聖なる力』を司る…つまり『聖なる力』を制御する者だ。だが私は…君こそが『聖なる力』そのものなのだと思っている。そして『聖なる力』こそが『神託』であり、…君は『神託』そのものなのだと」

「な、なな、なんで⁉」

「考えていたのだよ。何故君が教会の有る中流地区を下町と切り離し、あの町を『愛の神託』と呼ばれるタンポポで埋め尽くしたのか、その意味を」

意味なんて無いっ!あるとすればそれは…全て自分自身の快適な生活のためだ!それにそれを言ったら、あのタンポポは隊長がくれたものだ!

「スキッド地区は何と呼ばれているのだったか…ああ、シャローム地区だ。だが今でも『シャノン・プチファーム』に関わる住人はシャノン地区と呼び続けている」

ア、アシュリー!そこはもっと徹底して!

「そして君はプリチャード侯を通してバーナード伯に「いつか砂金の管理権と下町の管理権を交換してシェイナの街にして」と伝えたそうじゃないか。二人とも微笑ましい兄弟愛と笑っていたが」

ギクッ!

「…その砂金…とは何を指しているのか知らないが…、それも予言かい?」

ギクッギクッ!

「神子とは『聖なる力』を制御する者。そういえば君の家にはシャノンがもう一人居たね…」

ギクッギクッギクッ!

「だ、誰のことですか…?」

「シャノン、シェイナとは北部でシャノンの別称だ。シャノン、君はあの町をシェイナに授けようとした。そうだろう?」

「……」

勘のいい男、それがアレイスター、ルテティア国第二王子、16歳…

だが、ここまで聞けばもう分かった。ノベルゲーの真の神子とは…シェイナ!もとい…本物のシャノンだ!
『神託』が何かも分かった。『神託』とは…ゲームのオープニングの事だ!

相容れないアーロン、混乱と争いの中、『神託』オープニングによって始まる物語。ついでに割れた大窓は解放…と言えなくもない。ない?ともかく文言ピッタリ!

シャノンが本物の神子…。だけど…孤独で繊細なシャノンは歪んだ信仰、いや、シナリオの強制力ラブストーリーに負けた…!だからこそ彼は…、医者にまで鈍感のお墨付きをもらった人一倍無神け、大らかなこの僕にバトンを渡したんだ!
だって僕は知ってる!

鈍感は無敵だって…!

間違えた。テイクツー、僕は知ってる。

迷える魂コンラッドを救済して国を平定に導こうとしてたのはシャノンだって…




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

弟枠でも一番近くにいられるならまあいいか……なんて思っていた時期もありました

大森deばふ
BL
ユランは、幼馴染みのエイダールが小さい頃から大好き。 保護者気分のエイダール(六歳年上)に彼の恋心は届くのか。 基本は思い込み空回り系コメディ。 他の男にかっ攫われそうになったり、事件に巻き込まれたりしつつ、のろのろと愛を育んで……濃密なあれやこれやは、行間を読むしか。← 魔法ありのゆるゆる異世界、設定も勿論ゆるゆる。 長くなったので短編から長編に表示変更、R18は行方をくらましたのでR15に。

転生聖賢者は、悪女に迷った婚約者の王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 全五話です。

浮気三昧の屑彼氏を捨てて後宮に入り、はや1ヶ月が経ちました

Q.➽
BL
浮気性の恋人(ベータ)の度重なる裏切りに愛想を尽かして別れを告げ、彼の手の届かない場所で就職したオメガのユウリン。 しかしそこは、この国の皇帝の後宮だった。 後宮は高給、などと呑気に3食昼寝付き+珍しいオヤツ付きという、楽しくダラケた日々を送るユウリンだったが…。 ◆ユウリン(夕凛)・男性オメガ 20歳 長めの黒髪 金茶の瞳 東洋系の美形 容姿は結構いい線いってる自覚あり ◆エリアス ・ユウリンの元彼・男性ベータ 22歳 赤っぽい金髪に緑の瞳 典型的イケメン 女好き ユウリンの熱心さとオメガへの物珍しさで付き合った。惚れた方が負けなんだから俺が何しても許されるだろ、と本気で思っている ※異世界ですがナーロッパではありません。 ※この作品は『爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話』のスピンオフです。 ですが、時代はもう少し後になります。

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

王道学園のモブ

四季織
BL
王道学園に転生した俺が出会ったのは、寡黙書記の先輩だった。 私立白鳳学園。山の上のこの学園は、政財界、文化界を担う子息達が通う超名門校で、特に、有名なのは生徒会だった。 そう、俺、小坂威(おさかたける)は王道学園BLゲームの世界に転生してしまったんだ。もちろんゲームに登場しない、名前も見た目も平凡なモブとして。

処理中です...