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56 断罪はオペラの幕間 ②
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神子、それはアーロンをアーロンたらしめる、ノベルゲーの最重要キーワード。
「な、何のことですか?」
晴天にヘキエキ。なんだそれ?いつからどうしてそうなった!
「君のお父上、プリチャード侯爵もそう主張しているが?」
「聞いてません…あっ…」
そう言われてみれば…、訳アリ顔でジィィィ…っと僕を見てくる、あれか?
「ツェリの反乱、石像の倒壊を予言して見せたとか?おまけに洗礼式では君に光が差し込んだというじゃないか」
光が差し込んだのはシェイナにである。僕は寝落ちしただけだ。まぁ…、夢枕にシャノンが立つ、という特大ハプニングはあったけど…神子とか…ちょっと何言ってるかわかんない。というか。
「ツェリって何です?知りませんよそんな」
「そういえばあの時も隠語を使っていたね。だが今更隠しても遅い。皆知ってしまったのだから」
だから何を?
何とかあの手この手で話を引き出し要約すると、どうやら僕はインチキ占い師のやり口を知らず知らずのうちに真似していたらしい。
誰にでも当てはまりどうとでもとれそうなことを、いかにもそれっぽい雰囲気を醸し出しながら勿体付けて告げる、
え~?いや、やったけど…。その結果、偶然ルテティアへの支配に対し反撃の機会を伺っていたツェリの国を発見し、セナブム(あ、これこの間まで戦争していた相手国ね)に宛てて出そうとしていた国主の親書まで見つけただなんて…むしろ王様がすごいんじゃね?
かといって、的中してしまったものはもうしょうがない。占い師だって、しれっと自分の手柄にするものだし。
「…未然に防げて良かったです…。争い事は…良くないですからね」
「だが君が『神子』であると言う者が増えれば増えるほど王都での争いは激化するだろう。議員貴族家の多くはアーロンを神子だと信じている」
ここで説明しておこう。ルテティアの宮廷官吏は、王の補佐をする補佐官と大臣とに分けられる。
王の補佐には宰相(ロイドのお父さんは宰相補佐だよ)や摂政(王妃様のこと)、尚書(これお父様ね)、法官、税官とかまあ色々いて、他にも近衛隊長なんかが含まれ、基本的には王様のために働く官吏を指す。
これに対し大臣とは、よりよき国、民のため、各部門に分かれ日々小さな取り決めをする議員貴族たちを指す。
絶対王政の国で議員とは…と思うだろうが、拡大政策路線のルテティアは、いくら王妃様が有能でも、一人で切り盛りするには、いくらその為に領主が居るといっても大国過ぎる。
そこで、些細なことはこうして議員が会議で決め、そこそこまとまった状態で王、または王妃様にあげるのだ。当然…、そこで全ボツになることもある。他人事ながら何という不条理…。
「でもお父様はアーロンを好きじゃないですよ。なぜ議員貴族はアーロンをそんなに信じるんですか」
そりゃ、可愛い息子が窓から転落した原因で、あてにしていた義理の息子を誘惑されて、プリチャード家の当主からしてみれば、アーロンに良い感情を持つ理由がない。だからこそ導入されている石像エピソードだ。
「プリチャード侯は君の療養までは領地にいることが多かった。いや、プリチャード侯だけではない。王不在の宮廷で、補佐官はアーロンと対面する機会などそれほど多くはなかった」
アレイスターが言うには、市中に関わることの多い議員貴族たちは、事あるごとにアーロンと個別で面談を繰り返している。そして面談も数回過ぎるころには、すっかりアーロンの信奉者に成り果てているのだとか。
ガクガクブルブル…。恐るべし主人公の魅了パワー。
「シャノン、劇が始まったよ。続きは後で話そう」
僕が神子とか…言い掛かりにも程がある。けど…、初めて見る煌びやかな舞台、あっという間に僕は夢中になった。
舞台上では女優さんが高らかに歌い上げている。そして…今気づいたのだが、並んで座る僕の右手はあれからずっとアレイスターに握られている。
チラッ
無視すんな! って、…もしや照れてる?え、ちょ、顔…
意識されるとこちらも照れくさくなるでしょーが!
うっすらと染まるアレイスターの頬を見たら何にも言えない…。仕方ないので僕とアレイスターは一幕が終わるまでずっとそのまま手を繋いでいた。かぁー…青春か!
さて、一幕と二幕の間には一時間近い休憩がある。アレイスターの従者がきてササッと軽食の準備を整えていく。この手さばき。さすがのカイルも出番なしだ。
「アレイスター様、さっきの続きですけど…」
「君が神子、という話かい?」
「まさかアレイスター様までそんな話信じて無いです…よね…?」
「…私はね、以前から君が神子に関わる何かなのではないかと考えていた」
なにっ!? 初耳だよそんな…。なんだよその、神子に関わる何かって…
「伝承を知っているだろう?『お花の人』ふふ、から、聞いているそうじゃないか」
何故そこで笑った!
『人と人が相容れぬ大きな争いと混沌の中、国を平定に導くは聖なる力を司るものなり。神子は神託と共に出現し解放を以て人々に力を与える。迷える魂は救済され、万人への愛と共に国は栄華を極めるだろう』
うっかり。いや、すっかり暗記した文章だ。
「大きな争い…父はそれをセナブムとの争いだと考えたのだろう。だが私は…それこそが君とアーロンなのだと考える」
「へー、たしかに争ってますけど。じゃなくて!」
それじゃあまるでコンラッドが「私のためにケンカは止めて!」って言ってるヒロインみたいじゃないか!
「神子とは『聖なる力』を司る…つまり『聖なる力』を制御する者だ。だが私は…君こそが『聖なる力』そのものなのだと思っている。そして『聖なる力』こそが『神託』であり、…君は『神託』そのものなのだと」
「な、なな、なんで⁉」
「考えていたのだよ。何故君が教会の有る中流地区を下町と切り離し、あの町を『愛の神託』と呼ばれるタンポポで埋め尽くしたのか、その意味を」
意味なんて無いっ!あるとすればそれは…全て自分自身の快適な生活のためだ!それにそれを言ったら、あのタンポポは隊長がくれたものだ!
「スキッド地区は何と呼ばれているのだったか…ああ、シャローム地区だ。だが今でも『シャノン・プチファーム』に関わる住人はシャノン地区と呼び続けている」
ア、アシュリー!そこはもっと徹底して!
「そして君はプリチャード侯を通してバーナード伯に「いつか砂金の管理権と下町の管理権を交換してシェイナの街にして」と伝えたそうじゃないか。二人とも微笑ましい兄弟愛と笑っていたが」
ギクッ!
「…その砂金…とは何を指しているのか知らないが…、それも予言かい?」
ギクッギクッ!
「神子とは『聖なる力』を制御する者。そういえば君の家にはシャノンがもう一人居たね…」
ギクッギクッギクッ!
「だ、誰のことですか…?」
「シャノン、シェイナとは北部でシャノンの別称だ。シャノン、君はあの町をシェイナに授けようとした。そうだろう?」
「……」
勘のいい男、それがアレイスター、ルテティア国第二王子、16歳…
だが、ここまで聞けばもう分かった。ノベルゲーの真の神子とは…シェイナ!もとい…本物のシャノンだ!
『神託』が何かも分かった。『神託』とは…ゲームのオープニングの事だ!
相容れないアーロン、混乱と争いの中、『神託』によって始まる物語。ついでに割れた大窓は解放…と言えなくもない。ない?ともかく文言ピッタリ!
シャノンが本物の神子…。だけど…孤独で繊細なシャノンは歪んだ信仰、いや、シナリオの強制力に負けた…!だからこそ彼は…、医者にまで鈍感のお墨付きをもらった人一倍無神け、大らかなこの僕にバトンを渡したんだ!
だって僕は知ってる!
鈍感は無敵だって…!
間違えた。テイクツー、僕は知ってる。
迷える魂を救済して国を平定に導こうとしてたのはシャノンだって…
「な、何のことですか?」
晴天にヘキエキ。なんだそれ?いつからどうしてそうなった!
「君のお父上、プリチャード侯爵もそう主張しているが?」
「聞いてません…あっ…」
そう言われてみれば…、訳アリ顔でジィィィ…っと僕を見てくる、あれか?
「ツェリの反乱、石像の倒壊を予言して見せたとか?おまけに洗礼式では君に光が差し込んだというじゃないか」
光が差し込んだのはシェイナにである。僕は寝落ちしただけだ。まぁ…、夢枕にシャノンが立つ、という特大ハプニングはあったけど…神子とか…ちょっと何言ってるかわかんない。というか。
「ツェリって何です?知りませんよそんな」
「そういえばあの時も隠語を使っていたね。だが今更隠しても遅い。皆知ってしまったのだから」
だから何を?
何とかあの手この手で話を引き出し要約すると、どうやら僕はインチキ占い師のやり口を知らず知らずのうちに真似していたらしい。
誰にでも当てはまりどうとでもとれそうなことを、いかにもそれっぽい雰囲気を醸し出しながら勿体付けて告げる、
え~?いや、やったけど…。その結果、偶然ルテティアへの支配に対し反撃の機会を伺っていたツェリの国を発見し、セナブム(あ、これこの間まで戦争していた相手国ね)に宛てて出そうとしていた国主の親書まで見つけただなんて…むしろ王様がすごいんじゃね?
かといって、的中してしまったものはもうしょうがない。占い師だって、しれっと自分の手柄にするものだし。
「…未然に防げて良かったです…。争い事は…良くないですからね」
「だが君が『神子』であると言う者が増えれば増えるほど王都での争いは激化するだろう。議員貴族家の多くはアーロンを神子だと信じている」
ここで説明しておこう。ルテティアの宮廷官吏は、王の補佐をする補佐官と大臣とに分けられる。
王の補佐には宰相(ロイドのお父さんは宰相補佐だよ)や摂政(王妃様のこと)、尚書(これお父様ね)、法官、税官とかまあ色々いて、他にも近衛隊長なんかが含まれ、基本的には王様のために働く官吏を指す。
これに対し大臣とは、よりよき国、民のため、各部門に分かれ日々小さな取り決めをする議員貴族たちを指す。
絶対王政の国で議員とは…と思うだろうが、拡大政策路線のルテティアは、いくら王妃様が有能でも、一人で切り盛りするには、いくらその為に領主が居るといっても大国過ぎる。
そこで、些細なことはこうして議員が会議で決め、そこそこまとまった状態で王、または王妃様にあげるのだ。当然…、そこで全ボツになることもある。他人事ながら何という不条理…。
「でもお父様はアーロンを好きじゃないですよ。なぜ議員貴族はアーロンをそんなに信じるんですか」
そりゃ、可愛い息子が窓から転落した原因で、あてにしていた義理の息子を誘惑されて、プリチャード家の当主からしてみれば、アーロンに良い感情を持つ理由がない。だからこそ導入されている石像エピソードだ。
「プリチャード侯は君の療養までは領地にいることが多かった。いや、プリチャード侯だけではない。王不在の宮廷で、補佐官はアーロンと対面する機会などそれほど多くはなかった」
アレイスターが言うには、市中に関わることの多い議員貴族たちは、事あるごとにアーロンと個別で面談を繰り返している。そして面談も数回過ぎるころには、すっかりアーロンの信奉者に成り果てているのだとか。
ガクガクブルブル…。恐るべし主人公の魅了パワー。
「シャノン、劇が始まったよ。続きは後で話そう」
僕が神子とか…言い掛かりにも程がある。けど…、初めて見る煌びやかな舞台、あっという間に僕は夢中になった。
舞台上では女優さんが高らかに歌い上げている。そして…今気づいたのだが、並んで座る僕の右手はあれからずっとアレイスターに握られている。
チラッ
無視すんな! って、…もしや照れてる?え、ちょ、顔…
意識されるとこちらも照れくさくなるでしょーが!
うっすらと染まるアレイスターの頬を見たら何にも言えない…。仕方ないので僕とアレイスターは一幕が終わるまでずっとそのまま手を繋いでいた。かぁー…青春か!
さて、一幕と二幕の間には一時間近い休憩がある。アレイスターの従者がきてササッと軽食の準備を整えていく。この手さばき。さすがのカイルも出番なしだ。
「アレイスター様、さっきの続きですけど…」
「君が神子、という話かい?」
「まさかアレイスター様までそんな話信じて無いです…よね…?」
「…私はね、以前から君が神子に関わる何かなのではないかと考えていた」
なにっ!? 初耳だよそんな…。なんだよその、神子に関わる何かって…
「伝承を知っているだろう?『お花の人』ふふ、から、聞いているそうじゃないか」
何故そこで笑った!
『人と人が相容れぬ大きな争いと混沌の中、国を平定に導くは聖なる力を司るものなり。神子は神託と共に出現し解放を以て人々に力を与える。迷える魂は救済され、万人への愛と共に国は栄華を極めるだろう』
うっかり。いや、すっかり暗記した文章だ。
「大きな争い…父はそれをセナブムとの争いだと考えたのだろう。だが私は…それこそが君とアーロンなのだと考える」
「へー、たしかに争ってますけど。じゃなくて!」
それじゃあまるでコンラッドが「私のためにケンカは止めて!」って言ってるヒロインみたいじゃないか!
「神子とは『聖なる力』を司る…つまり『聖なる力』を制御する者だ。だが私は…君こそが『聖なる力』そのものなのだと思っている。そして『聖なる力』こそが『神託』であり、…君は『神託』そのものなのだと」
「な、なな、なんで⁉」
「考えていたのだよ。何故君が教会の有る中流地区を下町と切り離し、あの町を『愛の神託』と呼ばれるタンポポで埋め尽くしたのか、その意味を」
意味なんて無いっ!あるとすればそれは…全て自分自身の快適な生活のためだ!それにそれを言ったら、あのタンポポは隊長がくれたものだ!
「スキッド地区は何と呼ばれているのだったか…ああ、シャローム地区だ。だが今でも『シャノン・プチファーム』に関わる住人はシャノン地区と呼び続けている」
ア、アシュリー!そこはもっと徹底して!
「そして君はプリチャード侯を通してバーナード伯に「いつか砂金の管理権と下町の管理権を交換してシェイナの街にして」と伝えたそうじゃないか。二人とも微笑ましい兄弟愛と笑っていたが」
ギクッ!
「…その砂金…とは何を指しているのか知らないが…、それも予言かい?」
ギクッギクッ!
「神子とは『聖なる力』を制御する者。そういえば君の家にはシャノンがもう一人居たね…」
ギクッギクッギクッ!
「だ、誰のことですか…?」
「シャノン、シェイナとは北部でシャノンの別称だ。シャノン、君はあの町をシェイナに授けようとした。そうだろう?」
「……」
勘のいい男、それがアレイスター、ルテティア国第二王子、16歳…
だが、ここまで聞けばもう分かった。ノベルゲーの真の神子とは…シェイナ!もとい…本物のシャノンだ!
『神託』が何かも分かった。『神託』とは…ゲームのオープニングの事だ!
相容れないアーロン、混乱と争いの中、『神託』によって始まる物語。ついでに割れた大窓は解放…と言えなくもない。ない?ともかく文言ピッタリ!
シャノンが本物の神子…。だけど…孤独で繊細なシャノンは歪んだ信仰、いや、シナリオの強制力に負けた…!だからこそ彼は…、医者にまで鈍感のお墨付きをもらった人一倍無神け、大らかなこの僕にバトンを渡したんだ!
だって僕は知ってる!
鈍感は無敵だって…!
間違えた。テイクツー、僕は知ってる。
迷える魂を救済して国を平定に導こうとしてたのはシャノンだって…
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