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アレイスター
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「アレイスター。ロイドからの連絡だ」
アーロンがシャノンを狙ったという茶会。
遠ざけられたブラッドに代わり、ロイドは極力彼らの側に居るようになった。そしてこうして…、図書室の本を利用して、互いに情報のやり取りをする取り決めをしたのだが、さすがは学年主席の男。情報の精査、そして観察力、洞察力、申し分ない。
東側の小さな閲覧室。ここは私が人目を避け、王子としての気配を消すために使用していた部屋だ。それはほぼ周知のことで、今では私しか使うことはない。
彼はその室内にある書棚に一冊の本を置く。その表紙には小さくオレンジの薔薇が描かれている。
その中をめくるとこうして…、数枚の紙が挟まれている。書かれているのは彼が見聞きしたコンラッド、そしてアーロンの動向の詳細。そしてこちらから伝えたいことがあれば、同じように紙をはさんでおく。
大袈裟なことだが、警戒しすぎて悪いということもあるまい。私とシャノンの仲を疑われるようなことがあってはいけない。そして危ない橋を渡るロイドの身に、何かあってもまたいけない。
私たちは秘密裏に事を進めなければならないのだ。
ヘクターの父親であるバーナード伯は、静かに北部の貴族家へ集結を呼び掛けている。
このルテティアという国は西から南に向かうほど、大地は肥え気候に恵まれ、そして豊かな実りを約束される。
ゆえに力ある貴族ほど西部から南部に領地を持つのだ。当然彼らからの税収は多く、この国を大きく支えていると言ってもいい。そのため前王の時代から、国土の拡大は彼らの利になるよう西へ西へとすすめられている。
だからと言って、戦いのたびに臨時の税や雑兵を徴収されるのは国中どこの領であっても同じことだ。
なのに貧しい北部や何の旨味もない東部に、厚い福祉や地域振興の手はなかなか届かない。
北部にはそれを不満に思う下位貴族家が多く存在する。もちろん表立っては誰も言わないが。
せめて王によるこれ以上の国土拡大が止めば…、それが北部貴族なら誰もが願う望みである。
「それにしてもツェリの件は本当なのか?」
「王からの使いが戻れば分かることだ」
私には確信がある。あれはシャノンの妄言などではない。恐らくあれは予言に近い…、そしてもしそれが事実だとすれぱ…、私の予想が真実となる。
「ところで今後どう動くつもりだ」
「ああそれだが…」
私にその手本を示してくれたのもまたシャノンだ。
中流地区を『準貴族街』とするため切り離す。
これは口煩いフレッチャーを平民街の管理から排除する体のいい口実だが、『準貴族街』という耳障りのいい言葉が、彼にそれを気付かせない。
シャノンはモリセット子爵を隠れ蓑にし、平民街を自在にするため不干渉の取り決めまでも、王妃アドリアナ様に納得させた。それにしてもアドリアナ様の抱く、私への警戒心を利用するとは…
実に鮮やかで…見事な手腕だ。
「王を排除し統治権を奪えというか…。だが母は王を愛しておられる。王をなんとかお諫め出来るのなら…南北を二分しかねない国難ではあるが平和的に解決したい」
「さあどうかな、それは」
あの父が他者に従うとは考えにくい。動かせるのは恐らく王妃アドリアナ様と、『聖なる力』の神子。そして…
「だがまだ足りない…。…確証が足りないのだ」
この国を導くであろう『聖なる力』を司る者…
アーロンがシャノンを狙ったという茶会。
遠ざけられたブラッドに代わり、ロイドは極力彼らの側に居るようになった。そしてこうして…、図書室の本を利用して、互いに情報のやり取りをする取り決めをしたのだが、さすがは学年主席の男。情報の精査、そして観察力、洞察力、申し分ない。
東側の小さな閲覧室。ここは私が人目を避け、王子としての気配を消すために使用していた部屋だ。それはほぼ周知のことで、今では私しか使うことはない。
彼はその室内にある書棚に一冊の本を置く。その表紙には小さくオレンジの薔薇が描かれている。
その中をめくるとこうして…、数枚の紙が挟まれている。書かれているのは彼が見聞きしたコンラッド、そしてアーロンの動向の詳細。そしてこちらから伝えたいことがあれば、同じように紙をはさんでおく。
大袈裟なことだが、警戒しすぎて悪いということもあるまい。私とシャノンの仲を疑われるようなことがあってはいけない。そして危ない橋を渡るロイドの身に、何かあってもまたいけない。
私たちは秘密裏に事を進めなければならないのだ。
ヘクターの父親であるバーナード伯は、静かに北部の貴族家へ集結を呼び掛けている。
このルテティアという国は西から南に向かうほど、大地は肥え気候に恵まれ、そして豊かな実りを約束される。
ゆえに力ある貴族ほど西部から南部に領地を持つのだ。当然彼らからの税収は多く、この国を大きく支えていると言ってもいい。そのため前王の時代から、国土の拡大は彼らの利になるよう西へ西へとすすめられている。
だからと言って、戦いのたびに臨時の税や雑兵を徴収されるのは国中どこの領であっても同じことだ。
なのに貧しい北部や何の旨味もない東部に、厚い福祉や地域振興の手はなかなか届かない。
北部にはそれを不満に思う下位貴族家が多く存在する。もちろん表立っては誰も言わないが。
せめて王によるこれ以上の国土拡大が止めば…、それが北部貴族なら誰もが願う望みである。
「それにしてもツェリの件は本当なのか?」
「王からの使いが戻れば分かることだ」
私には確信がある。あれはシャノンの妄言などではない。恐らくあれは予言に近い…、そしてもしそれが事実だとすれぱ…、私の予想が真実となる。
「ところで今後どう動くつもりだ」
「ああそれだが…」
私にその手本を示してくれたのもまたシャノンだ。
中流地区を『準貴族街』とするため切り離す。
これは口煩いフレッチャーを平民街の管理から排除する体のいい口実だが、『準貴族街』という耳障りのいい言葉が、彼にそれを気付かせない。
シャノンはモリセット子爵を隠れ蓑にし、平民街を自在にするため不干渉の取り決めまでも、王妃アドリアナ様に納得させた。それにしてもアドリアナ様の抱く、私への警戒心を利用するとは…
実に鮮やかで…見事な手腕だ。
「王を排除し統治権を奪えというか…。だが母は王を愛しておられる。王をなんとかお諫め出来るのなら…南北を二分しかねない国難ではあるが平和的に解決したい」
「さあどうかな、それは」
あの父が他者に従うとは考えにくい。動かせるのは恐らく王妃アドリアナ様と、『聖なる力』の神子。そして…
「だがまだ足りない…。…確証が足りないのだ」
この国を導くであろう『聖なる力』を司る者…
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