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50 断罪と巡り合わせ

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異世界の学生にも期末テストはやってくる。真面目な学生である僕たちは、食後に仲良くお勉強だ。
なにしろ、僕にはダッシュで帰らなくちゃならない理由がある。ほら、双子の顔を見るためだ。だから勉強会はお昼休みのうちに。これっていわゆるパワーランチ?

「シャノン様、ここをお教えいただけません?」
「ミーガン様は数学が苦手なんですね」
「お笑いになります?」

「いいえ。ミーガン様は右脳タイプですから。その代わり芸術センスは素晴らしいです」

「ええ全く。新居の装飾はミーガンに任せきるつもりでいますよ」
「そういうリアム様は数字にお強いし良い領主になりますよ。ミーガン様も安心ですね」
「まっ!フフフ」

心安らぐ平和な時間…

「ところで三人とも夏休みはどちらに?もし自領に行かないのであれば遊びに行きましょうよ」

僕にとっては実質この世界で初めての(去年はノーカンで)夏休みだ。わざわざ王様を遠ざけたんだし、文化祭の固定イベント前に、これでもかって言うくらい羽を伸ばしたい。

「私とミーガンは婚約式の準備があり前半はハワード伯爵領へ出向くのですよ、残念なのですが…」
「そうなの…」シュン…
「あっ、あの!戻り次第すぐに伺いますわ。たくさんのお土産をお持ちしますね。ハワード伯爵領はワッフルが有名なんですのよ」
「え?ワッフル…じゃあ待ってる」ぱぁぁぁぁ

「ふふ、シャノン様、私はどこにも行きませんので遊びに行くならいつでもお呼びください。どこへでもお供します」
「わぁっ!嬉しいっ!」

そうとなったらぜひ行きたいところがある。何故なら最近貴族街の劇場では…なんとこの世界初のオペラが始まったのだ!
オペラ…、それこそが行く行くは2.5次元ミュへとつながる夢の演劇…

「じゃあ…アリソン様、一緒にオペラ観に行きませんか?僕どうしても行ってみたくて…」
「最近上演の始まったあの劇のことですね?私も興味があったのですよ。ぜひとも!」

友だちと過ごすリア充みたいな夏休み。ちょっと感動。
僕はまだ試験も終わってないのに、アリソン君と過ごすお休みに胸を躍らせていた。

さて、試験の結果は猛勉強の甲斐あって相変らずの上々。でも少し違うのは…、ここのところコンラッドが5位くらいに落ちたことだ。前はトップだったのに…大丈夫かあいつ、いやマジで。

僕はシャノンの名誉を守ることを命題にしているため、なんとかロイドに次ぐ2位をずっと維持している。
因みに古典文学のテストで提出した『走れロドリゲス』の考察に至っては、比類なき厚き友情、時に揺れ動く友情、さらに…友情の向こう側にある尊き友情、そしてそして、王が沼に嵌まった瞬間について、をテスト用紙の裏表を使ってびっしり書き尽くしたのだが、その末尾が「続く」になってしまったため5点ほど引かれてしまった…くそぅ…

そんなことをしている間に季節は初夏。もうすぐ夏休みの到来だ。
あの大窓転落、そして異世界転生からついに一年が経過しようとしている。
そう思うと感慨深い。いやー、実に濃いめの一年を過ごしたものだ。何も出来なかった5年をイッキに消化したうえおつりがくる気分だ。

「カイル、洗礼式は夏休みに入ってからだったよね」
「そうですよ。お荷物の準備も整っております」

因みに洗礼式とはアノンとシェイナが受ける神聖な儀式である。

この国ルテティアでは、生後半年前後の頃に国教会にて洗礼をおこなう。儀式の中身は頭に水をかけるというもので、それによって神様から新しい命を吹き込まれ、その恩寵を受け健やかに育つのだとか何とか。

僕はなんとなく弟が生まれた時のお宮参りをイメージしたが、きっとそれほど間違ってはいないだろう。子の成長を願うのは万国異世界共通である。

シャノンの中身である僕はその洗礼とやらを受けてはいない。
だがBLの洗礼ならとうの昔に受けている。

僕に布教したのは小6の時のクラスメイト(♀)。彼女は僕にある有名な少年漫画とそれの薄い本をセットにして貸してくれたのだ。
あの時のクラスメイトには感謝しかない。おかげで僕は頭から水をぶっかけられたような衝撃を受け、新しい自分に生まれ変わり、二次元の恩寵を受け健やかな腐男子に成長する事が出来た。

微妙にあれだけど…まあ大した違いは無いだろう。こういうのは気持ちの問題である。

「それでいつになったか決まった?」
「それがその…」
「何?」

「シャノン様が転落されたあの日付でございますよ」

言いよどむカイルに代わり答えたのはルーシー。
ルーシーは肝っ玉母さん(中身が)風メイド。カイルが困ると大概ルーシーが助けに入るが、そこにロマンスは発生しない。

「あの日か…」

シャノンが逝った日に双子が洗礼を受け神様から命を吹き込まれる。何とも不思議な巡り合わせじゃないか…





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