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45 断罪とフローチャート

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魔の紅茶ぶっかけイベントをこなしてから幾日過ぎたある週末。僕はコツコツとフローチャートを作成していた。
といっても僕が通ったルートだけだが、攻略サイトを活用しない派の僕には、どれだけ攻略済みかはよく分からない。
けど、有り余る時間に任せ何度も何度も繰り返したから、ある程度のシナリオは展開できているんじゃなかろうか。

先ずはこの間のお茶会までを書き出してみよう…

カキカキカキ…

お茶会までの流れはだいたいこんな感じだったはずだ。
この際コンラッドとアーロンがイチャイチャしていただけのエピは割愛しても良いだろう。

例えばこんな具合だ。

学院内のサロンに「遅れている勉強を見てやろう」とアーロンを誘い、ブラッドやロイドを出し抜いたりとか。因みにこれが原因で、教科書ビリビリ事件へと繋がっていく。
また神事の打ち合わせに王城へやって来たアーロンを、「当日の詳細を聞かせて欲しい」と私室に連れ込んで鼻の下伸ばしてたエピとか。
そして王様が帰って来て謁見の同席とかで忙しいにも拘らず、地道にアーロンを呼び出しては親しい貴族に会わせたりとか。これもその後のお茶ぶっかけ事件の発端となっていく。

この辺りはコンラッドとアーロンの仲が深まる部分にフォーカスされていて特に重要な情報が隠されているとは思えない。…と思う。

うーん、けどこうして書き出すと見えてくるものがあるな。可視化することはやはり大事だ。やることが多い時には箇条書きにするのが一番いい。頭だけで考えてると混乱する。人の脳みそなど所詮その程度のものだ。

何が見えてきたか…

まずこの、転落後アーロンを送るエピ。
あの時は混乱して激怒するばかりだったが、こうしてみると彼らはキッチリシナリオを回収していたにすぎない。
シナリオではコンラッドとロイドは一緒に送っていったわけではないが(一人づつ個別の分岐話だった)、なるほど、一気に回収されたのか。
そしてシャノンを責めた(何故⁉)ブラッドが、多分僕の空腹徘徊時に登場したあの場面だ。

コンラッドが授業でアーロンのダンスをリードするエピもキッチリ回収されていたし(ロイドの教科書エピは知らないが)、三角関係に悩んだブラッドがアーロンと距離をとって焦燥にくれる…の辺りは、もしかして僕が物理的にアーロンと引き離そうとして、領地経営集中講座を入れた部分で回収されているのかもしれない…。(ロイドのお見舞いエピは知らないが)

つまりシナリオには強制力があるが、その中身はざっくりしているということだ。多分字面にしたとき、ノベルゲーのテキストから大きく剥離していなければセーフ判定というガバガバさだ。

例えばブラッドのエピ。
この場合シナリオ的に大事なのは゛アーロンと距離をとった”という部分で、どんな心情、そんな理由でかは関係ないのだ。

思った通りだ。やっぱり主要キャラはシナリオに縛られる。そして脇キャラはシナリオにかすらない部分では完全フリー!

くそう…、これを誰にも相談できないのが実に辛い…。
けどハッキリしているのは、ノベルゲーに出てこなかったアレイスターはシナリオの理に何の拘束もされないってことだ。

現に、あのアーロンの様子からしてすぐにでも王様から叱責が入るかと思ったのに、意外にも呼び出しがなかったのは、多分アレイスターのおかげだ。ヘクターさんがこっそり手紙で教えてくれたのだ。

僕は翌日、午前の講義を終えたサロンでのランチタイムに、その事を三人にも報告することにした。
彼らも僕が叱られるんじゃないかってすごく心配してくれてたから…、安心させないとね。

「それでヘクター様はなんと?」

「なんでもアレイスター様が王妃様に先手を打ってくださったようです」
「と言いますと?」

「陛下とアーロンのことを周囲が怪しんでるって王妃様の小耳に入れたようです」

「それは本当の事ですか?」
「まさか!けどアレイスター様は王妃様の癇に障れば十分だって」

僕が言った「まだ動かないで」の言葉を一言一句漏らさず伝えられたアレイスターは、お茶会のことには一切触れず、アーロンに対する警戒だけが増すよう、ちょっとした世間の声(捏造)を王妃様にチクったようだ。さすがだアレイスター!

「あら、あながち嘘ではありませんわ。事実わたくしと父の間ではそんな会話をしておりますもの」

ミーガン嬢の言葉を受けリアム君までうなずいている。不敬を恐れ誰も公衆の面前で口にはしないが、身内だけの席でそんな皮肉を交わす者は他にも居るだろうと。

「それほど陛下の盲信はいき過ぎだと言う事です」

あちゃー、王様、やっちゃったね。けど、治世者ほど験を担ぐのは前世でも良くあることだ。そして験を担ぎすぎて周囲を振り回すことも、ままあることだ。それほどトップとはプレッシャーが半端ないんだろう。

「ですが陛下からの呼び出しがかからないのは、恐らくコンラッド殿下が止めていらっしゃるからですわ」

「どういうこと?」
「ブラッド様が遠回しに物申されたようですわよ」

「え…?」

あれほど放っておけと言ったのに…。まあノベルゲーのブラッドも心配性で先走るタイプだったけど。
それでもリアム君が言うには肝心な部分は口にしてない、こう言っただけだというのだ。

「コンラッド、そんなことじゃいつかアーロン以外すべて失うよ?良いのかい?」

…あれ?この台詞って…まさか…
はい!また一つエピソード回収しましたー!ほら!ほらね!考察的中!

おっと、続きがあった。

「あの夏の日を繰り返したくなければアーロンを盲信してはならない、公平な目を持つべきだと言ったらしいですよ」

「へ、へぇ…」

コンラッドはとても嫌な顔をしていたという。だから現状ブラッドはコンラッドから敬遠されているのだとか。

「ですが…アーロンの訴えを陛下にあげないところを見るに、少しは響いているのでしょうか。そうだと良いのですが…」
「ブラッド様が少しお気の毒ですわ。彼はとても真摯に殿下を心配なさっていますのに」

僕と違って親友だったブラッドには複雑な感情があるのだろう……だからって僕には関係ないっちゃないけど。

言っておくが僕は根に持つタイプだ。

男は殴り合って分かりあう…とか、ハッキリ言って意味わかんない。
殴られたら痛いと相場は決まっている。




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