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取り巻きミーガンの涙

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シャノン様が殿下に代わり、アーロンを招き高位貴族の茶会を開くと決めたのはほんの一週間ほど前。

当日、講義室でシャノン様より見せられたのはいつものふみ。わたくしは知っている、送り主はロイド様だ。

シャノン様はまだその正体に気付いていない。普段であれば、乗馬の講師が誰を何度後ろに乗せたとか、古典の教授が誰を何度教授室に誘ったとか、詳細に気付かれるお方なのに…何故かしら?

ともかく彼は、アーロンがお茶かお菓子に何か仕掛けると危惧している。はっきり言わないところを見ると、確証の有る情報ではないのだろう…

いずれにしても無視できる話ではない。リアム様、そしてアリソン様を含めたわたくしたち三人は、サロンにある茶葉やお菓子、ミルクから砂糖まで、入念に気を配った。
リアム様は並べられた小さな菓子を一つづつ口にしたし、アリソン様はミルクを舐め、砂糖の欠片を口に入れた。
シャノン様は嫌がったが、いくら何でも聖職者であるアーロンが命まで奪いはすまい。せいぜい身体に不調をきたすもの。なるほど…、ご自分が無作法だからと、わたくしたちに恥をかかすおつもりなのね。
くだらないこと…、その程度でこの国の高位貴族は務まらなくてよ。

さあ、次はお茶。わたくしの出番ね。

コクリ…、おかしなところは感じられない…
「…大変美味しいお茶でございますわ」
その言葉を皮切りに、それでも一抹の不安を感じたままその茶会は幕を開けた。

殿下から指南を受けたというアーロンの作法。見るに見かねてわたくしが与えた二、三の注意に、アーロンが鼻で笑ったように感じたのは気のせい?この男は彼の信者たちが思うほど、純真でも健気でもないとわたくしは感じている…。これは女の勘…、だけどわたくしの勘はいつも当たるの。

思い思いに砂糖やミルクを加えお茶で口を湿らしながら歓談は進んでいく。
シャノン様は見たところ、まだお茶に口を付けてはいない。シャノン様は熱いものが得意ではない。作法の授業時でさえ順番を後回しにしておられた。恐らくこれは警戒でなく、少し冷めるのを待っているのだ。

カチャリ!

無作法な食器の音に、視線をシャノン様からこちらに戻せば、…そこにはテーブルに伏せる上級生の姿が。

ゆらゆら頭を揺らしたかと思えば、堪りかねたかのように次々と伏していく茶会の招待客。
目の前で起きていることが、わたくしにはまだ信じられないでいた。

何故⁉ 毒見をしたときには大丈夫だったというのに!気が付けばついにリアム様やアリソン様までもが上体を倒していく!
残るはわたくしとブラッド様。こ、これは何?盗み見たアーロンは薄気味悪く微笑みながらシャノン様から目を離さない。

そこでわたくしは様子を伺うために、一芝居討つことを瞬時に決めた。これはアーロンの化けの皮を剥がす千載一遇の機会!

そして耳にしたのは…どこまでも悍ましいアーロンの悪しき企み。シャノン様を怪しげな信仰の象徴にしようとしているのだ!

な、なんという身の程知らずな真似を!今すぐシャノン様をお守りしなければ!

けれどうっかりその言葉に聞き入ってしまったのは…シャノン様がお心を語りだしたから…

思えばシャノン様はまだ幼い5つの頃よりお妃教育を受けてこられた。それもこれも、全ては卒業とともに立太子するコンラッド様を支え、立派な王太子妃となるために。

そのためにシャノン様はどれ程の涙を堪えてきたのか…、支えとなるはずの殿下の愛すら得られず…。アーロンの言うとおりだ…。シャノン様は愛を欲している。

けれど、あの夏死の淵に立ったことで、当たり前の日常に十分感謝を感じているというのだ。そして…

私たちと過ごすささやかな日常から愛を受け取っていると、そう仰りながら頬を赤らめるのだ…。ああ…そんな風に思ってくださっていたなんて…

いけないわミーガン!こんなところで泣いては駄目!アーロンに気付かれてしまう!

卑怯で姑息な邪教の伝道者!でも無駄よアーロン。わたくしは全て見ている!全て証言して必ずシャノン様をお守りする!

そしてシャノン様とわたくしは、これからもカフェに立ち寄り新作のお菓子を頬張るのだ。くだらない話に花を咲かせながら…






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