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27 断罪の息抜き 二日目

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「ミーガン様、どこから行きます?」
「ではあちらの飴細工はいかがでしょう?」

「シャノン様、楽しみにしていらしたクレープも早くいかないと行列が出来てしまいますよ」
「アリソン様、それホントですか?」

「焼きアーモンドはどうされますか?」
「あ、え、悩む…」

文化祭二日目。昨日の分まで今日は思う存分満喫しなければ。
そう思って三人がかりでどこから攻めるか戦略を練っていくが、軍師が居ないので何も決まらない…
なにしろ中二以来のお祭り、僕ってば舞い上がっちゃって…

「明日もありますから全部回れますよ、大丈夫です」
「え?あっ!アシュリー!お越しだったんですね」

「ふふ、貴重なシャノン様の学生生活を覗き見に。シャノン様の展示は…」
「第一講義室に展示してあります。あとで見に行ってくださいね」
「それはもう」

僕の展示は『偏執的な愛好家による消費行動とそれによる経済的恩恵』というものである。筆がのりにのって三日で書き上げた自信のレポートだ。ぜひご一読いただきたい。

それはさておき、取り巻き三人に保護者一人を加えて、僕たちは立ち並ぶ出店前の飲食スペースとは別の、校庭中央の花壇付近にある、パラソルテーブルと椅子が配置されたフリーエリアにいた。
フリー…とはいっても、何となく分布が決まっている。動線がよく眺めの良いところほど家格の高い子女のテーブルである。
それらは大体取り巻きにより確保される。そしてやっぱり取り巻きの彼らが飲み物や軽食を買いに行ってくれる。いつもすまんね。

「そう言えばアシュリー、フレッチャー侯に会いました」
「フレッチャー侯に…」

大事そうなことなので僕はアシュリーに報告することにした。今後下町と中流地区は今よりハッキリと分断されるだろうと。

「そうですか…」
「フレッチャー侯はほくそ笑んでいましたよ」
「それはそうでしょう。これで彼は目の上の瘤を取り除けたのですから…。困りましたね」

今まではたとえ中流地区に関する事でも、本来の下町管理者である、アシュリーの上司であるバーナード伯を無視して取り決めることは出来なかったのだとか。
それが線引きされる事で、中流地区を占める大商会への影響力をバーナード伯は失うだろうと話だ。

「困るんですか?下町にはいっさい口も手も出すなって約束させたのは僕です。王妃殿下にもそうお願いするつもりです。フレッチャー侯も、王妃様は賛成するだろうって…」

「ああ…ますますなんて事だ。バーナード様はアレイスター様の後ろ盾でございますよ?」

何を言っているのかさっぱりわからない。

「王妃殿下が賛成されるのは当たり前です。アレイスター様に強い後ろ盾があることを王妃は望まないでしょうから」

あー、いやいや、待ってよ…

「アシュリーに確認します。フレッチャー侯爵家とプリチャード侯爵家、家格はどちらが上ですか?」
「それはもちろんプリチャード侯爵家です。プリチャード侯爵家はポーレット侯爵家に続く序列二位にございますから」

ここで補足、初出だがポーレット侯爵家とはカサンドラ様の大伯母様(前々王のもう一人の妹でカサンドラ様の曾祖母の姉)の家系である。つまりシャノン側。

「アレイスター様の下にバーナード伯が居ます。そのバーナード伯の下にアシュリーが居ます。ここまでいいですか?」

「はい」

「そのアシュリーの治療院を支援するのは誰ですか」

「…シャノン様です」

ほらね。これは間接的な後ろ盾とは言えないだろうか?だ・が!

「僕はアレイスター様を支持はしません」

社交界のいざこざ…とか、触らぬ神に煽りなしだわー。

「でも下町は豊かにします。こっそりと。それで良くないですか?」

あと二年…下町の賑わいは僕には必須!なんてったって、

「……そういうことですか。なるほど理解しました。この私に全てお任せください。上手く取り計らいましょう」

「期待してますよ、アシュリー」

断罪近くなってきたらアシュリーには僕の開業準備をしてもらう予定だから。それもバレないようにコッソリと。
いやー、いい人材が居て本当に良かった。思わずニッコリ。

「シャノン様、そんな風に微笑まれては…」
「そうですよ。モリセット子爵が真っ赤ではないですか」
「さあ子爵、こちらの氷菓子で熱をお冷まし下さいませ」

いいタイミングで三人が帰還。その手には山ほどの飲食物を抱えている。そして三人と交代でアシュリーは席を離れた。
真っ赤な顔をパタパタと仰ぎながら…

するとリアム君が買い入れた焼き栗をテーブルに置きながら申し訳なさそうに肩を落とした。

「あの、すみませんシャノン様。焼き菓子のカフェが混雑していて…ジンジャークッキーが買えなかったのです」
「そうなの?」

そんなにしょげなくてもいいのに…
あの時人手が無いと言っていた店主に無理を言ったのは僕で、その時僕は何と言ったか…「お手伝いしますから」確かそう言った。

「じゃあ少し様子を見てこようかな。手配したのは僕だし」
「ではご一緒します」
「じゃあアリソン様お願いします。リアム様とミーガン様は少しお休みください」

僕はジェロームの忠告をきちんと守って一人歩きはしないでいる。だから付き添いの申し出をありがたく受け入れる。
それにあの二人を置いて行ったのには理由がある。リアム君とミーガン嬢は来春婚約するそうだ。いやー、おめでたい。お邪魔虫は退散しますか。

「アリソン様はご婚約などは…」
「いいえ、私はまだまだ。リアムはハワード伯爵家の嫡男ですが私は気楽な二男ですので。父からはシャノン様について王宮に入るよう言われております」

…その未来は来ない…。僕はアリソン君の去就について責任を持とうと強く思った。

「あそこです」
「あー、本当だ、いつもの店主だ。おーい…」

ゲッ!

繁盛を超えて戦場になってる…

…入院中の僕の野望には、バイトがしたい、という項目もある。もちろんそれは断罪後に思う存分、経験するつもりだったが…予行練習をして悪いということは無い。
普通だったら侯爵令息シャノンにあるまじき行動だが…、今日はお祭り、無礼講。それに、無理やり出店をお願いしたという大義名分も今ならある。キラリン!

「アリソン様、そこにかけて少しお待ちください」
「えっ?シャノン様どこへ…」

と、勇んで参戦したのに…おかしい、こんなはずでは…

「シャノン様、申し訳ございませんがドライフルーツのケーキを三つほどいただけますか」
「は、はい!ただいま!」

「スミマセン!ベリーのタルトをくださいませ!あ、給仕はあなたじゃなくてよ。シャノン様ー、こちらですー」

なにっ!

「あの!お茶のお変わりと持ち帰りのマカロンを一袋くださいな。シャノン様の手渡しで」
「お、お待ちくださいー」

こらっ!通りすがりに注文するんじゃない!

モゴモゴ…「コーヒーをひとつ」モゴモゴ…

マスクにサングラスだと⁉ ふ、不審者!

ああ…、カッコよく注文をさばいてお役に立つはずが…より一層収拾つかなくなってるんだけど、何事!? 見るに見かねたアリソン君まで手伝ってくれているというのに…

「な!何をしているのですか!お止めくださいシャノン様!皆離れなさい!」

文化祭の様子を見に来たカイルが止めに入るまで、その終わりなき地獄絵図は続いたという…
結論。飲食店の開業だけは止めとこう…





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