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アレイスターと昼食
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「アレイスター様お食事は?リアム様のお持ちくださったチキンサンドは絶品ですよ」
「では一つ頂こう」
和気あいあいと進む昼食。
こうして見ると、アレイスターはとても端整な顔をしている。真っ赤な髪の、いかにもヒエラルキーの頂点!みたいなコンラッドとはまた違う、とても繊細な横顔だ。客観的に見て、シャノンにはアレイスターの方が似合う気がする。あ、僕は駄目だよ。髪色がね…ちょっとね…
「私の髪をじっと見てどうされた」
「いえ別に」
「このグレーの髪が珍しいのだろうか?」
「珍しい…?そうですか?」
「シャノン様、その…、グレーの髪は北部に多いのですよ」
ナイスタイミングで補足をいれてくれたのがアリソン君。彼は王族の同席に少し緊張気味だ。
「それがどうかしましたか?」
「見栄えが悪いとは思われないのか…」
見栄えが悪い…?誰かに若白髪とでも言われたんだろうか…気の毒に…
「んー、でもアレイスター様のグレーヘアーと僕のプラチナはちょっとしか変わりませんよ。アレイスター様の髪が光に透けたらほぼ僕の髪です」
ぎょっ!な…なに?その顔…
「そう言われるか…。ああ…、私はあなたのことを何も知らなかったのだな…」
目を細めて微笑むアレイスター。そんなに気になるなら染めればいいのに。黒に。
それはさておき、今日の本題。
作法の先生…の彼氏である音楽の先生から昨日コッソリ仕入れた情報によると、本日の講座は美しいシュークリームの食べ方…、だからこそ僕はランチのデザートにシュークリームを持ってきたのだ。予習のために。
「アレイスター様、デザートをどうぞ」
「これは美味しそうだ」
さあ食べるがいい、押したら潰れる厄介なスイーツ、シュークリームを。そのクリームをどうやってぐちゃぐちゃにしないで食べるのか、僕はじっくり観察させてもらう…
「シャノン。君が北部に支援を送る真意は何だ。それを聞きたい」
真意…、それを話したところでアレイスターには分かるまい。僕の…僕の切実なノベル事情なんて!
それよりシュークリーム…、なんと!上を蓋みたいに切り離すだと!…考えてもみなかった…まじか…
「アレイスター様にお話しても仕方のない事です。ですが…運命とはいたずらなもの。いつだって思い通りにいくとは限らない…」
「シャノン何を言って…」
いくら僕の第一希望が平民落ち。第二希望が田舎の男爵家だったとしても、するっと修道院送りになるかもしれない。
そしてシューの上を切り分けようとしても上手くいくとは限らない…。ナイフが…ナイフが入らない…
「それでも人は与えられた状況の中で最善を尽くし、自分の居場所を整えなければならないのですよ、アレイスター様…」
そうだ。僕は与えられた断罪の中でも最善を尽くし、どう転んでもいいよう修道院の衣食住を整えなければならない。
そして収拾のつかなくなったシュークリームも…何とかしなくてはならない。
「…ふぅ…新しいのに取り替えましょうか……」
さっきのは後でスタッフが美味しくいただきます…
-----------------------
寝具に続き、今度は苗木や鶏を送るというシャノン。
彼の支援はいつも長期的視野に立っている。例のスキッド地区にしてもそうだ。
貴族の支援は通常であれば寄付金という形でおこなわれる。だが、寄付金は悪心を持つ者に中抜きされることも多く、また、末端に行き届いても目先の必需品を買って終いになる。
また教会を通した慈善は炊き出しを中心としたものが多く、それもまた目先の空腹を埋めて終いとなる。
そこへいくとシャノンの行ったスキッド地区への支援は彼ら自身で継続していく視点に立ったものだ。
ヘクターによると、最近のスキッド地区ではすでに変化を見せ始めているという。
清潔になっていく街は、そこに住まう者の心からも汚れを落としていくのだろう。
そして今計画している北部への追加支援もそうだ。苗木や鶏であれば中抜きされることは無い。そしてすぐに費えることもない。
今はまだ若木であっても、上手く育ててやればいずれその木々は実をつけるだろう。
今は一組の番であっても、上手く孵化させてやればいずれその数は増えるだろう。
北の修道院は恵まれぬ人々にとって無くてはならない、大きな役割を持つ場所だ。何故なら貴族学院、そして上級学院へ進めぬ平民が学を持つ唯一の方法が、この北部の修道院へ入ることだからだ。
あそこは厳しい規律と禁欲的な生活の中、信仰を広めるための手段として、聖典をはじめとした貴重な記録の写本を日夜行う。それを通じ、学院で学ばなくとも学識や芸術を深められる場所なのだ。上手くすれば学位を取り、修道士でありながら教育の道を選ぶことも可能となる。
だが最も過酷な北部の環境下で心折れる者も多いと聞く。冬になるとその寒さとひもじさから逃げ出す者が現れるのだと。そう、私の母のように。
北の修道女であった母は過酷な生活に耐えかね、還俗し南へと逃げだしたのだ。そして…踊り子として父、ルテティア王と運命の出会いを果たしたという。
その母から受け継いだものが私のこのグレーの髪だ。
グレーの髪は北部に受け継がれる特徴的な髪だ。つまりこれは貧しい北部の象徴。この髪を見て人々は時に憐み、時に優越を得る。
その髪をあのシャノンが…まさか…「少ししか変わらない」などと…。私は自分自身の耳が一瞬信じられなかった。
胸の奥に熱を感じる。
まずいな…弁えねば。彼はコンラッドの婚約者だ。
だが、この私に何度もいたずらっ子のような笑みを投げかけるシャノン。先日の茶会でも感じたことだが…彼はこれほど無邪気な顔を今まで見せたことがあっただろうか…。
彼は言う。思い通りにならぬ運命。そしてその中で最善を尽くすために居場所を整えるのだと。
待て…。あの言葉は果たして彼自身の話だろうか…?
もしや…、あの言葉は私に聞かせるためのものではないのか。そうだ!彼は言ったではないか。この私に、光の下に立つべきだと。
シャノンの発した最後の言葉が、頭の中にこだまする…。
「取り替える」…一体何を…。一体誰を…
「では一つ頂こう」
和気あいあいと進む昼食。
こうして見ると、アレイスターはとても端整な顔をしている。真っ赤な髪の、いかにもヒエラルキーの頂点!みたいなコンラッドとはまた違う、とても繊細な横顔だ。客観的に見て、シャノンにはアレイスターの方が似合う気がする。あ、僕は駄目だよ。髪色がね…ちょっとね…
「私の髪をじっと見てどうされた」
「いえ別に」
「このグレーの髪が珍しいのだろうか?」
「珍しい…?そうですか?」
「シャノン様、その…、グレーの髪は北部に多いのですよ」
ナイスタイミングで補足をいれてくれたのがアリソン君。彼は王族の同席に少し緊張気味だ。
「それがどうかしましたか?」
「見栄えが悪いとは思われないのか…」
見栄えが悪い…?誰かに若白髪とでも言われたんだろうか…気の毒に…
「んー、でもアレイスター様のグレーヘアーと僕のプラチナはちょっとしか変わりませんよ。アレイスター様の髪が光に透けたらほぼ僕の髪です」
ぎょっ!な…なに?その顔…
「そう言われるか…。ああ…、私はあなたのことを何も知らなかったのだな…」
目を細めて微笑むアレイスター。そんなに気になるなら染めればいいのに。黒に。
それはさておき、今日の本題。
作法の先生…の彼氏である音楽の先生から昨日コッソリ仕入れた情報によると、本日の講座は美しいシュークリームの食べ方…、だからこそ僕はランチのデザートにシュークリームを持ってきたのだ。予習のために。
「アレイスター様、デザートをどうぞ」
「これは美味しそうだ」
さあ食べるがいい、押したら潰れる厄介なスイーツ、シュークリームを。そのクリームをどうやってぐちゃぐちゃにしないで食べるのか、僕はじっくり観察させてもらう…
「シャノン。君が北部に支援を送る真意は何だ。それを聞きたい」
真意…、それを話したところでアレイスターには分かるまい。僕の…僕の切実なノベル事情なんて!
それよりシュークリーム…、なんと!上を蓋みたいに切り離すだと!…考えてもみなかった…まじか…
「アレイスター様にお話しても仕方のない事です。ですが…運命とはいたずらなもの。いつだって思い通りにいくとは限らない…」
「シャノン何を言って…」
いくら僕の第一希望が平民落ち。第二希望が田舎の男爵家だったとしても、するっと修道院送りになるかもしれない。
そしてシューの上を切り分けようとしても上手くいくとは限らない…。ナイフが…ナイフが入らない…
「それでも人は与えられた状況の中で最善を尽くし、自分の居場所を整えなければならないのですよ、アレイスター様…」
そうだ。僕は与えられた断罪の中でも最善を尽くし、どう転んでもいいよう修道院の衣食住を整えなければならない。
そして収拾のつかなくなったシュークリームも…何とかしなくてはならない。
「…ふぅ…新しいのに取り替えましょうか……」
さっきのは後でスタッフが美味しくいただきます…
-----------------------
寝具に続き、今度は苗木や鶏を送るというシャノン。
彼の支援はいつも長期的視野に立っている。例のスキッド地区にしてもそうだ。
貴族の支援は通常であれば寄付金という形でおこなわれる。だが、寄付金は悪心を持つ者に中抜きされることも多く、また、末端に行き届いても目先の必需品を買って終いになる。
また教会を通した慈善は炊き出しを中心としたものが多く、それもまた目先の空腹を埋めて終いとなる。
そこへいくとシャノンの行ったスキッド地区への支援は彼ら自身で継続していく視点に立ったものだ。
ヘクターによると、最近のスキッド地区ではすでに変化を見せ始めているという。
清潔になっていく街は、そこに住まう者の心からも汚れを落としていくのだろう。
そして今計画している北部への追加支援もそうだ。苗木や鶏であれば中抜きされることは無い。そしてすぐに費えることもない。
今はまだ若木であっても、上手く育ててやればいずれその木々は実をつけるだろう。
今は一組の番であっても、上手く孵化させてやればいずれその数は増えるだろう。
北の修道院は恵まれぬ人々にとって無くてはならない、大きな役割を持つ場所だ。何故なら貴族学院、そして上級学院へ進めぬ平民が学を持つ唯一の方法が、この北部の修道院へ入ることだからだ。
あそこは厳しい規律と禁欲的な生活の中、信仰を広めるための手段として、聖典をはじめとした貴重な記録の写本を日夜行う。それを通じ、学院で学ばなくとも学識や芸術を深められる場所なのだ。上手くすれば学位を取り、修道士でありながら教育の道を選ぶことも可能となる。
だが最も過酷な北部の環境下で心折れる者も多いと聞く。冬になるとその寒さとひもじさから逃げ出す者が現れるのだと。そう、私の母のように。
北の修道女であった母は過酷な生活に耐えかね、還俗し南へと逃げだしたのだ。そして…踊り子として父、ルテティア王と運命の出会いを果たしたという。
その母から受け継いだものが私のこのグレーの髪だ。
グレーの髪は北部に受け継がれる特徴的な髪だ。つまりこれは貧しい北部の象徴。この髪を見て人々は時に憐み、時に優越を得る。
その髪をあのシャノンが…まさか…「少ししか変わらない」などと…。私は自分自身の耳が一瞬信じられなかった。
胸の奥に熱を感じる。
まずいな…弁えねば。彼はコンラッドの婚約者だ。
だが、この私に何度もいたずらっ子のような笑みを投げかけるシャノン。先日の茶会でも感じたことだが…彼はこれほど無邪気な顔を今まで見せたことがあっただろうか…。
彼は言う。思い通りにならぬ運命。そしてその中で最善を尽くすために居場所を整えるのだと。
待て…。あの言葉は果たして彼自身の話だろうか…?
もしや…、あの言葉は私に聞かせるためのものではないのか。そうだ!彼は言ったではないか。この私に、光の下に立つべきだと。
シャノンの発した最後の言葉が、頭の中にこだまする…。
「取り替える」…一体何を…。一体誰を…
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