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12 断罪への試練

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「シャノン様、旦那様が書斎に来るようにと」
「え…」

夏休みも終わりが見えたころ、深刻そうな顔の従者カイルが、深刻そうな声で、深刻…かどうかわからない内容を、僕に申告してきた。

何の用だというのか…。嫌な予感しかしない…。

「お父様、何の用でしたか?」
「シャノン…最近気分はどうだね」

「気分…至って爽快です。生まれ変わったみたい」

手に入れた健康。手に入れたシャノンマネー。修道院に寄付もしたし平民街にも一手は打った。エンブリー男爵から返信も来たし、あとはジックリ断罪への地固めさえすれば…言う事無し!

「………そうか。それならばいいのだ。それよりシャノン、最近は随分慈善活動に熱心なのだね」
「…もしかして遺産に手を付けたこと…怒ってます…?」

おかしいな。寄付って言えば大丈夫ってルーシーが言ったのに…。

「いや構わない。実に崇高な行いだ。それを叱りに来たわけではない」

…。つまり他のことを叱りに来たってことか…。なんだろ?仮病でお妃教育サボってる件?あっ!イケメン黒髪騎士を引き連れて下町で爆買いした件か?心当たりがありすぎて…、いやもう…

「私の引き出しから切手を抜き取ったのはお前だね、シャノン」

あれかー!ああ、あれね…。いいじゃん切手の五枚や六枚。ケチ臭い…。

「いけませんでしたか?」
「シャノン、あの切手は、」
「僕の為です。全て僕が心穏やかに過ごすためです。いけませんか?」
「だがあれは、」
「いけませんか?」

この父親はかなり厳格だ。厳格には違いない…が!シャノンを溺愛してもいるのだ。まだ断罪材料を吹き込まれていない今なら、多分溺愛のほうが勝つはず!

「…そうか…。そうだな。分かった。お前がそうしたいなら好きにしなさい」

よっしゃ!

「それではあのティアラについて説明しなさい」
「ティアラ…?」

「モリセット子爵に援助として差し出したティアラのことだ」

ああ、あのキラキラしすぎておもちゃみたいなカチューシャ。ティアラって言うのか。

「説明も何も…今の僕には必要なかったので」
「必要ない…?」

やっぱりダイアモンドはまずかったか…。でも相当お金かかる気がしたし…。やっぱり父親に上手いこと言って遺産からなんとか引き出すべきだった?いいや!あの件に関しては下手に父親を通して余計な詮索されても面倒だし。あれは断罪後の生活を左右する重要ポイント!あんな髪飾り僕は使わないし。不用品の有効利用、あれは良いリサイクルだ。

「…再生のために差し上げました。必要とする人が使えばいい。そうではないですか?」
「だがシャノン、あれは」

不用品の再利用は地球に優しいエコだからー!

「良いことをしたって褒めてはくれないんですか?」

「……いいだろう。再生か…。お前が元気ならそれだけでいい」

お、お父様…すきっ!

「ところでシャノン、王妃がいつから王宮に出仕するのかと尋ねておられたが…」

ギョギョッ!

「あ、頭が」
「下町を出歩ける程度に回復しているのだな?」
「お、お腹が」
「王妃が茶会に呼んでおられる。殿下との仲を取り持たれるという事だ」

何!? 王妃め…。余計な真似を。

「いいかいシャノン、何であろうと私はお前の気持ちを尊重する。だが悔いのないよう最善は尽くしなさい。お前と殿下は交わした言葉が少なすぎる。そこには誤解もあるだろう。お前の10年を無駄にしてはいけないよ。いいね、必ず出席するように」

「はい…」

パパん…、正しく厳しい…。そういうとこだよね、シャノンを勘当したのって…
まあいい。どうせ断罪までこの婚約は解消するわけにはいかないんだから。さすがに僕も王家に不敬は働けないわー。

僕は現状かなりうまくやっている。僕がオリジナルのシャノンで無いことに気付く者は一人もいない。だがそれもこれも、ここがホームだからだ。アウェイの地で通用するかどうか…甚だ疑問である。
茶会…、茶会か。ここは一発、リハーサルが必要だ。

「カイル、庭でお茶したい」
「ではご用意しますね」
「ニコールさんも呼んで」
「は、はい」
「カイルは王妃の茶会に同席しない?」

「さすがにそれは…」

無理か…、アシストして欲しかったんだけど。

「そっか…。泣きたい…」

「うっ…!すぐにニコール様をお呼びします!」

顔を押さえて走って行ったんだけど…カイル、鼻血か?今日暑いから…
入れ違いにやって来たのは最近親しいニコールさん。彼女は前世の看護師さんを思い出させる穏やかな人で、あのチャッカmanブラッドと血がつながっているのが信じられない。

「お茶のお誘いとは…、ありがとうございますシャノン様」

「実は少しアドバイスが欲しくて…」
「アドバイス…、ですか?わたくしごときに何を…」

「王妃様と何話していいのかわからなくて」

「まあっ…」

そんな残念な子を見る顔しなくったって…、しょうがないじゃん。
まさか「ほほう?あんな王子を育てた親の顔がこれですか」とは言えないし…

「大丈夫でございますよ。王妃様はシャノン様を大好きでいらっしゃいますから。包み隠さずお話しなさいませ」

「そうですか?」

包み隠さず…じゃあ転生とか言っても大丈夫ですかね?いや、ムリだわ。

「あ、でも王妃と王子と三人はちょっと」

単身敵陣は…辛いわ~

「では旦那様から他にも誰か同席するよう頼んでいただきましょう」

「あ、ブラッドとロイド以外で。無害な人を」

「も、もちろんでございます。そのシャノン様…」

しまった!お母さんの前で息子をパスするとか…、いや?シャノンだからセーフ!

「ブラッドには会いましたか?顔を見て謝罪するよう言い聞かせたのですが…」

ブラッド…。今僕の周りにはブラッドに対する厳戒態勢が敷かれている。「騎士ABCによって結界が張られているから彼は近寄れません」…って言えたらな…。お母さんの前でこれ以上は言わないけど。
一度僕の自室の前で立ちすくむブラッドを見かけた、とカイルから報告があったけど…、知らんがな。

「謝罪は無用です。そう伝えてください。それからニコールさん、余計な気遣いは無用です。僕と彼の関係はこのままでいいんです。今さら…」

今さら改善しちゃったら断罪から遠ざかっちゃうじゃん。それはちょっと困る。現状維持で。

「…そうですか…」

「それよりニコールさん、王妃様のこともっとお話しください」
「は、はい!」

ニコールさんは侯爵夫人になった時点で時々王妃様からお誘いを受けているとルーシーが言っていた。つまり情報源として不足なし!
そしてティータイムを終え部屋に戻った僕は、ニコールさんから聞き出した、普段の何気ない王妃との会話の中から、必要な情報を抜き出しちまちまと…小さなカンペを作成した…




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