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第二夜
小さな希望
しおりを挟む「何が、良い夜を、だ」
右隣で薬師丸さんが噛み潰したような声を漏らした。
沈黙が流れる。誰も喋ろうとも、動こうともしなかった。いや、出来なかったのかもしれない。
「あー、オレ、言いてぇことがあってさ」
突然競羽さんが声を上げた。緊張しているのか少し裏返っている。汗もかいているみたいだ。……なんだ?
「オレ、実はさァ……」
競羽さんが何かを決意したように顔をあげた瞬間、機械音が遮った。
「……ちっ、んでもねェよ」
悪態をついて背もたれに寄りかかった彼は明らかに何か言う気だった。それに、あの喋る前の葛藤していたような感じ……特に重大なことを言いかけていた。
『それと、もう一つ。このゲームに勝ち残ったプレイヤーの方は』
……なんだ。
『何でも一つ、願いを叶えて差し上げます』
暫くの沈黙、その後に、今日初めて浮かれた雰囲気が漂った。何でも、……だと?
「“何でも”って、本当に何でもいいのかよ、例えば世界滅亡とかでも叶えてくれちゃう訳?」
拳坂君が問う。
『ええ。我々に不利益が生じない範囲でしたら、何でも。世界滅亡でも全くもって構いませんよ』
「はっ、俺が一番望むのはお前らの滅亡だったのに、残念だな」
拳坂君は鼻で笑って吐き捨てた。……だが、他の人達は違った。重い雰囲気に支配された会議ホールには人間の欲望が渦巻き始めた。
「それって、全世界の富、とかでもイイのかな。や、例えばだけどさ」
才商さんは少し笑って冗談めかした。だが、言葉の端々に欲が隠されている。
『ええ、勿論。我々にはなんの影響もありませんから。例えそれであなた方の世界経済が機能をなくしたとしても』
……人間は本当欲望に弱い生き物だ。さっきまでお通夜モードだったホールもぎらついた空気に満たされてしまった。
……そして俺も、同じく人間で、欲望に弱い生き物だ。
「……“神産み場”に連れていかれた人間を返して欲しいって願いは?」
俺の問いに一瞬場が静まり返る。俺の言わんとしていることはきっと皆分かっている。
『……本来ならば我々に尽くす人間が失われるのは“不利益”に該当することですが……。お一人くらいであれば、譲歩も可能です』
「……そうか。分かった」
俯い顔を上げた。絶望しかなかった未来に、たった一筋、蜘蛛の糸のような吹けば消えてしまう希望が見えた。
実際のところ運の要素だってかなり絡んでくるゲームだ。自分の陣営の勝利なけならまだしも、自身が生き残る事まで必須条件の希望の実現なんて奇跡に近い確率だとは分かっている。
だが今の俺にはそれで充分だった。やってやる。必ず、あいつを、球太を連れ戻してやる。俺の、たった1人の親友を。
俺は隣の空っぽの部屋を横目に、一人自室に戻った。
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