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チヨちゃんはどうにかして嫌われたい

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サヤちゃんは優しい。
教室に入ってきたサヤちゃんは自分の机の上にランドセルを置くと、「おはよう」と一番に私に挨拶をしてくれる。
サヤちゃんは周りの視線なんか気にせず、私なんかとも笑顔で話をしてくれる。
そのせいでサヤちゃんは次第にクラスの中で孤立するようになった。
それでもサヤちゃんは相も変わらず私と話をしてくれる。

「ねぇサヤちゃん、私なんかと無理して話をしなくてもいいんだよ」
「どうしてそんな事を言うの?私はチヨちゃんと話がしたいから話しているだけだよ」
彼女の言葉は心底嬉しかった。しかし、私のせいでサヤちゃんがクラスメイト達から仲間外れにされるのも心底辛かった。
「サヤちゃんの気持ちは嬉しいけど、私のせいでサヤちゃんが独りぼっちになっちゃうのが辛いんだ」
「独りぼっち?私は独りぼっちなんかじゃないよ。だって、チヨちゃんがいるから」
私が何と言おうと、サヤちゃんは私と喋ることを辞めようとしなかった。
サヤちゃんは絶対に私のことを無視しなかった。

だから、もうこうするしかないと思った。

「ごめんね、サヤちゃん」
「どうしたのチヨちゃん?何か言った?」
その瞬間、掃除用具が入っているロッカーがガタガタと音を立てて揺れはじめた。
“地震じゃない?”
クラスの誰かが言った。
すると今度は教室中の椅子や机がガタガタと音を立てて揺れた。
“地震だ!地震!”
“早く机の下に隠れなきゃ!”
クラスメイト達が机の下に入って身を潜めているなか、サヤちゃんだけは机の下に潜らずにチヨちゃんを見つめていた。
「チヨちゃん、どうしてこんな事するの?」
「サヤちゃんが友達をやめてくれたら、クラスの皆は助けてあげる」
「どうして?どうしてそんなこと言うの?チヨちゃんは私の友達でしょ?」
サヤちゃんがそう言うと、蛍光灯がガシャンと音を立てて床に落ちた。
“キャー、助けて!”
“危ない!ガラスに気をつけて!”
クラス中が悲鳴に包まれた。
「もうやめてよチヨちゃん、どうしちゃったの?」
「サヤちゃんが友達をやめてくれたら、私もやめる。私のことを大嫌いって言ってくれたら、こんな事はすぐにやめてあげる」
サヤちゃんは頑なに口を開こうとしなかったが、それでもクラスメイト達の不安そうな顔を見て、
「分かったよ!もうチヨちゃんとは友達じゃない!チヨちゃんなんか大っ嫌い!」
と叫んだ。
サヤちゃんの叫び声と共に揺れは収まり、教室はしんと静まり返った。
静まり返った教室で、サヤちゃんの泣き声だけが響いていた。
そんなサヤちゃんにクラスメイト達は“もう大丈夫だよ”、“大丈夫だから泣かないで”、“何処か怪我したの?一緒に保健室行く?”と声をかけた。

その日を最後に、チヨちゃんがこの教室に来ることは無かった。



天国に行くと神様が言った。
「君はまだこちらに来てはいけない。君にはやり残したことがあるはずだ」
そう言われて、私は仕方なく元いた世界に戻ることにした。
神様が言っていた『やり残したこと』は、自分でも心当たりがあった。
だから私はこの教室で、何十年も私の友達になってくれる人が現れるのを待った。
何十年も待ったけど、そのうち私のことが見えたのはたったの数人で、その数人も私のことを気味悪がって学校を辞めてしまった。
だけどサヤちゃんだけは違った。
彼女は私が何も言わなくても、私の友達になってくれた。
これでようやく天国に行けると思ったけれど、数十年ぶりにできた友達と話をするのが楽しくて、もう少しだけこの世界に留まる事にした。
すると次第に私のせいでサヤちゃんがクラスで孤立していった。
どうにかしてサヤちゃんを、私と出会う前のクラスの人気者だった彼女に戻さなければと思った。
サヤちゃんの前から一刻も早く姿を消すべきだと思った。
だけど、どう頑張ってもこの教室から出られなかった。
どうやら私はこの教室に長居しすぎたらしい。
それでも何とかしてサヤちゃんを元の人気者のサヤちゃんに戻したかった。
たとえ私が彼女に嫌われることになっても。
私と彼女が友達ではなくなってしまうとしても。

「ずいぶんと時間がかかったな」
天国に行くと神様が言った。
「そうですね。ずいぶんと時間がかかってしまいました」
私はそう答えた。
「それで、友達はできたのかい?」
「残念ながら、友達はできませんでした。でも、私のために泣いてくれる親友ならできましたよ」
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