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天使レンジ
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電子レンジは人間が食べ物を温めたりするために使用する道具だが、天使レンジは天使たちが人間の心を温めるために使用する道具だ。
ある日、一人の天使が天使レンジを人間界に落としてしまった。
学校の裏山で偶然にもその天使レンジを見つけた少女は、天使レンジを使って自分の心を温めてみた。
すると少女の心は少しだけ軽くなり、天使レンジを裏山へ置いたまま家へ帰ることにした。
翌日も少女は天使レンジを使って自分の心を温めた。
その翌日も、そのまた翌日も、冷え切った心を天使レンジで温めることで、少女はどうにか毎日を生き抜くことができた。
それから数日が経ったある日、少女のクラスメイトの一人が学校を休んだ。
どうやら彼の父親が交通事故で亡くなったらしい。
その日、少女は裏山へ行かなかった。
行く必要が無かった。
こんなに晴れやかな気持ちになれたのは久しぶりだ。
彼の心が粉々に砕け散ったのを想像しただけで、少女の心は驚くほど軽くなった。
私のことをいじめていた罰がようやく下ったのだと思うと、笑みがこぼれてしまうくらい晴れやかな気持ちだった。
しかしその日の夜、少女はいつまで経っても眠りにつくことができないでいた。
布団に入って目を閉じてからもう数時間が経つが、どうしても天使レンジのことが頭から離れなかった。
少女は家を飛び出すと裏山へ向かい、天使レンジで彼の心を温めた。
翌日、学校へ行くと彼は泣きながら今までのことを少女に謝った。
自分の父親が死んだ事で初めて、母子家庭で育った私の気持ちがようやく分かったというのだ。
彼は泣きながら何度も謝ったが、少女は彼のことを決して許さなかった。
天使レンジを見つけたあの日、少女はあの場所で自ら命を絶つつもりだった。
もし天使レンジを見つけていなければ、少女はあの日あの場所で死んでいたはずだった。
だから少女は決して彼を許さなかった。
クラスメイト達も彼のことを許してあげるよう少女にお願いしたが、それでも少女は彼の謝罪を受け入れるつもりは一切無かった。
たった一度の大きな不幸が彼を襲っただけで、どうして彼の今までの行為を許さなくちゃいけないんだ。
どうして彼の不幸と少女の不幸がまるで同じもののように扱われるんだ。
少女の不幸と彼の不幸は全くの別物だ。
それに不幸なのは少女や彼だけじゃない。
今までは見て見ぬふりをしていたり、彼と一緒になって少女のことをいじめていた周りの人間達が、親を亡くしたばかりの彼をここぞとばかりに主人公のように扱う。
こうして彼の不幸を一緒になって悲しむことは出来るのに、どうして少女の不幸には気付くことができなかったのだろうか。
いや、違う。
気付かなかったのではなくて、気付かないふりをしていたのだ。
だって、周りの人間からすれば少女はただの他人なのだから。
だから、今まさに彼の不幸を悲しんでいる周りの人間達も、自分が気付いていないだけでそれはただの悲しんでいるふりなんだ。
だって周りの人間からすれば、彼もまたただの他人なんだから。
自分の気持ちにすら気付けていない周りの人間達は、少女や彼よりももっと不幸な人間だ。
自分が不幸になることでようやく他人の不幸が分かるなんて、そんなのは馬鹿にしているとしか思えない。
他人の不幸を目の当たりにすることでようやく不幸の存在に気付けるなんて、そんな事が許されるなんて思えない。
だから少女は彼のことを決して許さなかった。
少女は教室を飛び出すと走って裏山へ行き、天使レンジの近くに落ちていた大きな木の棒で天使レンジを粉々になるまで叩き続けた。
ある日、一人の天使が天使レンジを人間界に落としてしまった。
学校の裏山で偶然にもその天使レンジを見つけた少女は、天使レンジを使って自分の心を温めてみた。
すると少女の心は少しだけ軽くなり、天使レンジを裏山へ置いたまま家へ帰ることにした。
翌日も少女は天使レンジを使って自分の心を温めた。
その翌日も、そのまた翌日も、冷え切った心を天使レンジで温めることで、少女はどうにか毎日を生き抜くことができた。
それから数日が経ったある日、少女のクラスメイトの一人が学校を休んだ。
どうやら彼の父親が交通事故で亡くなったらしい。
その日、少女は裏山へ行かなかった。
行く必要が無かった。
こんなに晴れやかな気持ちになれたのは久しぶりだ。
彼の心が粉々に砕け散ったのを想像しただけで、少女の心は驚くほど軽くなった。
私のことをいじめていた罰がようやく下ったのだと思うと、笑みがこぼれてしまうくらい晴れやかな気持ちだった。
しかしその日の夜、少女はいつまで経っても眠りにつくことができないでいた。
布団に入って目を閉じてからもう数時間が経つが、どうしても天使レンジのことが頭から離れなかった。
少女は家を飛び出すと裏山へ向かい、天使レンジで彼の心を温めた。
翌日、学校へ行くと彼は泣きながら今までのことを少女に謝った。
自分の父親が死んだ事で初めて、母子家庭で育った私の気持ちがようやく分かったというのだ。
彼は泣きながら何度も謝ったが、少女は彼のことを決して許さなかった。
天使レンジを見つけたあの日、少女はあの場所で自ら命を絶つつもりだった。
もし天使レンジを見つけていなければ、少女はあの日あの場所で死んでいたはずだった。
だから少女は決して彼を許さなかった。
クラスメイト達も彼のことを許してあげるよう少女にお願いしたが、それでも少女は彼の謝罪を受け入れるつもりは一切無かった。
たった一度の大きな不幸が彼を襲っただけで、どうして彼の今までの行為を許さなくちゃいけないんだ。
どうして彼の不幸と少女の不幸がまるで同じもののように扱われるんだ。
少女の不幸と彼の不幸は全くの別物だ。
それに不幸なのは少女や彼だけじゃない。
今までは見て見ぬふりをしていたり、彼と一緒になって少女のことをいじめていた周りの人間達が、親を亡くしたばかりの彼をここぞとばかりに主人公のように扱う。
こうして彼の不幸を一緒になって悲しむことは出来るのに、どうして少女の不幸には気付くことができなかったのだろうか。
いや、違う。
気付かなかったのではなくて、気付かないふりをしていたのだ。
だって、周りの人間からすれば少女はただの他人なのだから。
だから、今まさに彼の不幸を悲しんでいる周りの人間達も、自分が気付いていないだけでそれはただの悲しんでいるふりなんだ。
だって周りの人間からすれば、彼もまたただの他人なんだから。
自分の気持ちにすら気付けていない周りの人間達は、少女や彼よりももっと不幸な人間だ。
自分が不幸になることでようやく他人の不幸が分かるなんて、そんなのは馬鹿にしているとしか思えない。
他人の不幸を目の当たりにすることでようやく不幸の存在に気付けるなんて、そんな事が許されるなんて思えない。
だから少女は彼のことを決して許さなかった。
少女は教室を飛び出すと走って裏山へ行き、天使レンジの近くに落ちていた大きな木の棒で天使レンジを粉々になるまで叩き続けた。
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