淫愛家族

箕田 はる

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「腕も痛むだろう。私の責任でもあるんだ。好きにさせて欲しい」

 そう言って再びレンゲが口元に運ばれる。恥ずかしさに、そろそろと口を開く。ゆっくりと注ぎ込まれ、程よい塩加減が口の中に広がる。

「懐かしいな。昔、春馬が熱を出した時にこうして食べさせたりもしたものだ」

 ゆっくりとした動きで、俊政は睦紀の口にお粥を与えてくる。穏やかに過去を語る俊政の目は、息子を思いやる優しい父親の目だった。

「本当だったら付きっきりで看病するのが親の役目だ。それなのに、私はあまり傍にいてやれなくてね。別れた妻にばかり負担をかけてしまった。だから愛想を尽かされたのかもしれないね」

 切なげに目を伏せ、俊政が言った。

「そんなことないと思います。俊政さんは忙しくても一緒に食事を取ろうとしたり、休みの日は別荘に行こうって仰っているじゃないですか。僕は俊政さんに出会って、初めて家族の温かさを知ったんです」

 仕事人間の両親は自分に積極的に関わろうとしようとはせず、いつも寂しい思いをしていた。他人であった俊政や春馬の方が、睦紀に気を配っていたように思えた。

「睦紀は本当に優しい子だね」
「……そんなことないです」
「私はね。睦紀を篠山の子にして本当に良かったと思っている。口には出さないけど、春馬だって同じ気持ちだ」

 俊政はそう言うなり、睦紀の手に自らの手を重ねた。力強くも温かい手で優しく握られ、心臓が早鐘を打ちだす。下心はないはずなのに、どうにも落ち着かなかった。

「だからずっと、睦紀にはここに居て欲しいと思っている。ずっと、いてくれるかな?」

 重なっている手に力が籠もる。答えを促されるように見つめられ、睦紀は
「はい」と力なく呟く。
 乱れた関係になった以上は、早くもここをでなければいけない。それでも俊政の問いかけに、首を横に振る勇気はなかった。

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