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しおりを挟む俊政と共に部屋に向かう途中、二人でリビングにに立ち寄った。睦紀が食べそこねたチーズが残っているから、それをつまみにしようと俊政が言ったのだ。
リビングに入ると、今帰ってきたばかりなのか背広姿の春馬が水を飲んでいた。春馬は睦紀の姿を一目見るなり、驚いたように目を見開く。普段着ないガウンを羽織っていることに、驚いているようだった。
「これから睦紀と朝まで飲むんだ。春馬も来るだろう?」
朝までと聞いて、睦紀は驚く。俊政は薄っすらと笑みを浮かべ、冗談を言っているように見えない。
「……わかりました。後ほど、伺います」
春馬の表情が一瞬曇る。視線が睦紀に向けられ、すぐに俊政に戻される。
もしかしたら、春馬は明日も仕事があるのだろう。それでも断らなかったのは、睦紀が父親の横暴に付き合わされるのを心配してくれているのかもしれない。
前回の失敗もあるので、春馬の気遣いは嬉しい。でも、春馬に迷惑をかけたくはなかった。少し飲んだら、何か理由をつけて切り上げようと睦紀は密かに考えた。
部屋に入るなり準備を手伝おうとする睦紀を、俊政は「座っていなさい」と言って、ベッドに座らされてしまう。
「こういう時ぐらい、私に任せてくれ。普段は至れり尽くせりで、楽してるんだから」
冗談めかしに肩を竦める俊政に、居心地悪かった睦紀も思わず笑みを零す。
ベッドの近くに移動させた机に、数種類のワインボトルとグラス、つまみのチーズの盛り合わせが並べられていく。
「あっ、そういえばクラッカーを持ってくるのを忘れてしまった。睦紀、悪いけどキッチンの棚にあるから持ってきてもらえるかな?」
ワインのコルクを抜きながら、俊政が申し訳無さそうに言った。
「わかりました。キッチンの棚ですね」
「悪いね。全部やると言っておきながら」
「いえ、行ってきます」
睦紀はやっと役に立てるとばかりに立ち上がり、颯爽と部屋を出る。扉が閉まる間際、背後で小気味良いコルクの抜ける音が聞こえた。
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