淫愛家族

箕田 はる

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「春馬は小学校高学年までしか、一緒に寝てくれなかったからね」

 すねたような口調で俊政が続け、やっと場が和む。

「坊っちゃんは当時から大人びたお子さんでしたからね。旦那様もさぞ、お寂しかったんじゃないんですか」

 焼きたてのトーストを置きつつ、瑞恵が朗らかに言った。

「勝手にベッドに入ってきて、立派な安眠妨害ですから」

 やや不機嫌そうに返す春馬に、「仕事で忙しくてなかなか構ってやれなかったんだ。これぐらい良いだろう」と俊政は反論する。
 仲の良い親子の姿に、睦紀は羨望と疎外感を覚える。一抹の寂しさを隠すように、睦紀も笑みを作りトーストを口にした。

「今日も一緒に寝るかい? 睦紀」
「えっ……」

 驚いてトーストを口にする手を止める。呆気に取られている睦紀に「可哀想だから馬鹿なことは言わないでください」と、春馬が制する。

「父さんは寝相が悪いじゃないですか。それこそ睡眠不足になる」
「そんなことはないよ。なぁ、睦紀?」

 心外だとばかりに俊政が、睦紀に視線を向ける。

「……ええ、大丈夫でしたよ」

 正直、隣にいたことすら覚えていないほど熟睡してしまっていた。それでも朝まで何事もなかったことを考えると、問題はないように思える。

「そうだろう。寝相が悪いのは春馬の方なんじゃないのか。よく布団を剥いで、風邪を引いてしまわないか心配だったよ」

 寝姿も綺麗に思える春馬の意外な一面を知り、可愛いと思ってしまう。その姿を想像し、睦紀は思わず声を出して笑うと、驚いたような目を二人から向けられる。

「えっ……あ、すみません」

 慌てて表情を引き締めると、俊政が慌てて「いや、良いんだ」と言って手を振る。

「久しぶりに睦紀の笑った顔が見れたからね。良かったよ」

 そう言ってホッとしたような顔をする俊政に、どれだけ心配かけていたのだろうかと複雑な思いがした。

「さぁ、そろそろ行かないとね。睦紀、私はいつでも歓迎だからね」

 そう言って席を立つ俊政を睦紀は、気恥ずかしい気持ちで見送った。

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