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しおりを挟むリビングに俊政の姿はなかったが、春馬がすでにコーヒーを飲みつつ新聞を開いていた。
「おはようございます」
睦紀が挨拶しつつ向かいに腰を下ろすと、春馬が新聞から顔を上げた。
「おはよう。睦紀。今日は顔色がいいな」
春馬が口元を緩め、睦紀の顔を見つめてくる。
「ええ、まぁ……」
何も知らないとはいえ、俊政の部屋で一晩過ごしたことを少し後ろめたく思ってしまう。
「そういえば、スーツはクリーニングに出してある」
「春馬さんだったんですか」
驚く睦紀に、春馬は苦笑する。
「睦紀は昨日、父さんの部屋にいただろう。邪魔するのも悪いと思って、涼華に頼んだんだ。さすがに夫婦の寝室に入るわけにはいかないからな」
「……ありがとうございます」
別に入っても構わなかったが、春馬なりの気遣いのように思えた。
「涼華さんは――」
「朝食は取らないと言って、先に家を出た」
「……そうですか」
朝までいたのだとわかり、チャンスを棒に振ったことが悔やまれた。
「総務部って、そんなに早く出勤しなきゃいけないんですか?」
涼華は本社の総務部に在籍をしていた。睦紀は支社で、会社で顔を合わせることはない。だからこそ、涼華が口にする「仕事が忙しい」という言葉が本当のものであるのか疑問があった。
「時期によるとは思うけど、月末月初はやることも多いんじゃないのか」
七月が始まったばかりの今日、春馬の言う通りであれば忙しい時期なのかもしれない。
「それに今は、新しい支社が出来て人員も不足している。本社からも何名かフォローに回って貰っているんだ」
「そうですか。忙しいなら良いんです」
それならば仕方がないと、睦紀は納得した。今まで疑念の気持ちがあったが、春馬がそういうなら間違いはない。
「俺で良いならいつだって、話は聞く」
真摯な目で見つめられ、睦紀は言葉に詰まる。
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