淫愛家族

箕田 はる

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「睦紀くんはとてもいい子だね。でも疲れてしまわないか心配だよ」

 そう言った俊政に睦紀は衝撃を受けた。上手く隠していたつもりが、俊政には見抜かれていたのだ。
 両親は「春馬くんのほうが、礼儀正しくて博識だ。うちの息子にしたいぐらいだ」と言って、睦紀の心境など知る由もなかった。
 しばらく和やかな談笑をした後、父親が仕事の話をし始めたことでこの会の本当の目的が見えてきた。金融業の父は篠崎グループとの接点を深めたい、という魂胆なのだろう。
 こんなことだろうと睦紀は思っていたが、内心では酷く傷ついていた。美味しいはずの料理も、口にする気も失せてしまう。

「家族みんな揃っているんだ。今日はビジネスの話はなしにしよう」

 饒舌に自社の利点を語る父に、俊政は笑顔で制した。睦紀は驚いて、下げていた視線を上げた。

「普段忙しいんだから、こういったときぐらい家族での会話を楽しもうじゃないか」

 さすがの父もその時は口を噤んだ。少しきまり悪そうだったが、すぐさま俊政が「今度ゆっくり二人で話そう」という言葉に表情が和らぐ。
 睦紀はその時、俊政のところに生まれていたらと考えた。彼ならきっと、もっと自分と向き合ってくれるはずだと。俊政の元に生まれた春馬が羨ましいとすら思ってしまう。
 この食事会でもう会うことはないと思うと、少しだけ悔やまれた。もっといろんな話を聞いて欲しいし、聞かせて欲しかった。でも父の目的を果たしたら、会うことはない。
 そう思っていた睦紀だったが、いい意味でその考えは裏切られた。
 俊政は食事会の後も、何度も遊びに誘ってくれたのだ。その時に涼華も紹介された。だが、同じ年で高校生の女子ということもあって、どちらかといえば春馬と俊政だけの方が多かった。

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