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「……すみません」
みっともないところを見せてしまっている自覚はある。にもかかわらず、次から次へと涙が止まらなかった。
「睦紀はよく頑張っているよ」
睦紀の手からワイングラスを外され、サイドテーブルに置かれる。そのまま俊政に肩を抱かれてしまう。
「睦紀は一人で抱え込むところがある。確かに君の父親は忙しくて、話したくても話せなかったこともあっただろうけど……でも私は違う。睦紀のことをたくさん知りたいと思っているし、助けてあげたいとも思っているんだよ」
諭すような優しい声音が耳に触れる。こんなことをさせてしまっていることを申し訳なく思う。でもその反面、甘えたいという感情も湧き上がった。
睦紀の両親は共働きで、どちらも仕事熱心であった。欲しいものは何でも与えてはくれていたが、だからといって孤独が癒えるわけでもない。家族での食事も仕事の片手間のような状態で、会話などほとんどなかった。まるで一人で食事をしているようで、いるもいないも変わらない。それでも滅多にない機会に、睦紀は満足していた。
「初めて睦紀とご両親を交えて食事をした時。まだ確か、睦紀は高校生だったかな。あの頃から君は、何事にも一生懸命だなと感じたんだ」
俊政の言葉に、睦紀は驚いて顔を上げた。慈しむような眼差しの俊政と目が合う。
確かもう十年ほど前のことだ。高校に入学したばかりだった睦紀は、両親が珍しくお祝いだと言って豪奢なレストランに連れて行ってくれたことがあった。喜んでいた睦紀だったが、実際は家族だけでなくそこには俊政とその妻である女性、それから春馬がいた。
父の同窓だと紹介され、睦紀はなぜ自分の祝いの席に同席するのか疑問を抱く。
最初はたわいない会話から始まった。大学生ながらも落ち着いた物腰と知性あふれる会話をする春馬に、睦紀の両親も尊敬の眼差しで話を聞いていた。俊政も柔らかな物腰ながらも、ウィットに富んだ会話を繰り広げ笑いを誘う。加えて内心落ち着かない気分ながらも、場を壊さないように務めていた睦紀にも話題を振ってくることもあった。
その際には受け答えに失礼がないようにと、睦紀は無難な答えばかりを口にしていた。
みっともないところを見せてしまっている自覚はある。にもかかわらず、次から次へと涙が止まらなかった。
「睦紀はよく頑張っているよ」
睦紀の手からワイングラスを外され、サイドテーブルに置かれる。そのまま俊政に肩を抱かれてしまう。
「睦紀は一人で抱え込むところがある。確かに君の父親は忙しくて、話したくても話せなかったこともあっただろうけど……でも私は違う。睦紀のことをたくさん知りたいと思っているし、助けてあげたいとも思っているんだよ」
諭すような優しい声音が耳に触れる。こんなことをさせてしまっていることを申し訳なく思う。でもその反面、甘えたいという感情も湧き上がった。
睦紀の両親は共働きで、どちらも仕事熱心であった。欲しいものは何でも与えてはくれていたが、だからといって孤独が癒えるわけでもない。家族での食事も仕事の片手間のような状態で、会話などほとんどなかった。まるで一人で食事をしているようで、いるもいないも変わらない。それでも滅多にない機会に、睦紀は満足していた。
「初めて睦紀とご両親を交えて食事をした時。まだ確か、睦紀は高校生だったかな。あの頃から君は、何事にも一生懸命だなと感じたんだ」
俊政の言葉に、睦紀は驚いて顔を上げた。慈しむような眼差しの俊政と目が合う。
確かもう十年ほど前のことだ。高校に入学したばかりだった睦紀は、両親が珍しくお祝いだと言って豪奢なレストランに連れて行ってくれたことがあった。喜んでいた睦紀だったが、実際は家族だけでなくそこには俊政とその妻である女性、それから春馬がいた。
父の同窓だと紹介され、睦紀はなぜ自分の祝いの席に同席するのか疑問を抱く。
最初はたわいない会話から始まった。大学生ながらも落ち着いた物腰と知性あふれる会話をする春馬に、睦紀の両親も尊敬の眼差しで話を聞いていた。俊政も柔らかな物腰ながらも、ウィットに富んだ会話を繰り広げ笑いを誘う。加えて内心落ち着かない気分ながらも、場を壊さないように務めていた睦紀にも話題を振ってくることもあった。
その際には受け答えに失礼がないようにと、睦紀は無難な答えばかりを口にしていた。
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