愛に縛られ、愛に溺れる

箕田 悠

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「酷いことをしているのは、俺の方ですから。脅してまで理玖さんを手に入れようとしているんですよ」
「でも――」
「俺が理玖さんの最後の砦になりたいんです。俺は絶対に理玖さんを裏切ったりしない、傷つけたりしない。だから、もし、誰かに裏切られたとしても、俺がいるから大丈夫です。たとえ本命にはなれなくても、理玖さんの役に立てるだけで充分ですから」

 まるで自分は保険でも良いと言っているかのようで、その自虐的な考え方に水瀬は余計に胸が引きつる。

「そんな風に……言わないで欲しい。そこまでする価値は僕にはないから」
「俺はそれぐらい理玖さんが好きなんです。こうして、六年経っても忘れられないぐらいに――だから、理玖さんが俺のことを少しでも好きだって――嫌いじゃないなら、俺のわがままに付き合ってくれませんか?」

 どうして、そこまで言えるのかと、水瀬は呆然とする。自分がそこまでの魅力を兼ね備えているわけではないはずだ。

「どうして――そこまで……」
「六年前、俺は凄くいい加減な人間だったんです。家も裕福だし、バイトだって本当はする必要なかった。単なる暇つぶしだったんです」

 鳴河が自嘲気味な笑みを浮かべて続ける。

「あの騒動があったとき、正直辞めてもいいかなと思ってたんです。周りの人も俺の事を信じてないみたいで、接し方も遠慮がちになっていくのも分かってましたし。だけど――理玖さんが俺の為に色々と動いてくれている姿を見て、ここまで人のために動いてくれる人がいるんだって知ったんです」
「そんなの……僕じゃなくたって、したはずだよ」

 買いかぶり過ぎだと、水瀬は力なく首を横に振る。

「理玖さんだから、あそこまで出来たんですよ。俺の周りの人間はみんな、どいつもこいつも強欲な人間ばかりなんです。他人の為に身体を張ってまで、助けようとする人なんてそうそういませんから」

 これ以上、どう返せば良いか分からず、水瀬は困惑する。
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