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第十章
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しおりを挟む「帰省はされないのですか?」
松原が持ってきた日本酒を注ぎつつ、春夜が聞くと、松原は「帰らない」と言って表情を曇らせた。
聞いてはいけないことだったのかと、春夜は口を噤む。すぐさま松原が、フッと表情を和らげた。
「母子家庭で、母親が看護師なんだ。今年は夜勤が入ってるから、帰る意味がないんだ」
松原も母子家庭だということに、少しばかり驚いた。自分と同じように寂し
い思いをいくつもしてきたのかもしれないと思うと、少しだけ親近感が湧く。
「そうなんですか」
「それに帰っても、小言が待っているだけだからな」
「でも、待ってくれている人がいて、帰る場所があるって……うらやましいです」
春夜は金魚鉢を棚に戻し、重箱をちゃぶ台の上に広げていく。三重になっていて、色鮮やかなおせちが綺麗に盛り付けられていた。
昆布巻きに数の子、茹でエビに煮物など、実に手が込んでいる。こんなにも贅沢なおせちは、今までに食べたことがなかった。
思わず固まっていると、松原がどうしたんだと言って、重箱をのぞき込んだ。
「豪勢だな」
「そうですね。こんなこと、初めてです」
「客を招いて毎年やっていることじゃないのか?」
「いえ……僕もこんなに豪華なおせちを食べるのは、初めてなので」
松原も驚いていたが、春夜も困惑していた。
お互いに腑に落ちないといった表情だったが、せっかく用意してくれたのだからと春夜は少しずつ皿に移して松原に差し出した。
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