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第六章
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しおりを挟む「……なんで」
言葉が震えて、春夜は唖然とした表情で松原を見た。
「本当はベタにしようかとも思った。でも、熱帯魚は寒さに弱い。連れ回すのは可哀想だから、金魚にしたんだ」
迷惑だったかと、問われ春夜は唇を噛み締める。
中には膨れている透明な袋。その中に空気と水が半々に入っていて、赤い金魚二匹が揺蕩《たゆた》っている。他にも餌や何かの箱がいくつか入っていた。
「君の部屋に金魚鉢があっただろう。君が空っぽなのを寂しそうな顔で見ていたから」
他のが良かったかと聞かれ、春夜の胸がざわついた。
「……どうして、僕に構うんですか」
何が目的なのか、さっぱり分からなかった。
松原は春夜の気持ちを知ってか知らずか、「そのことを今日、話に来たんだ」と言ってから、素知らぬ顔のキミヨに声をかけた。
「金は払う。この子を指名していいか?」
キミヨは帳簿から顔をあげると、春夜にどうするかと視線を投げてくる。
春夜が口を噤んでいると、キミヨが松原を一瞥し、「困りますねぇ」と口を開く。
「お客さん。お金を払ってくれるとはいっても、こっちは身体で商売しているんでね。抱きもしないのに、ここに来て何が目的なんだい? 周りも不可解に思うだろうし、この子だって示しがつかない」
キミヨが淡々とした口調で松原を牽制する。黙り込んでいる春夜の代わりに、追い返そうとしているのだろう。
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