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第三章
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しおりを挟む「松原さぁ。昨日、あの大手の重役との接待があったんだろ?」
社員食堂で生姜焼きを頬張っていた松原に、同期の斉木が声を潜めて聞いてきた。
斉木とは入社当時から同じ部署で、一緒の先輩に付いて動いていたせいか、よく飲みに行く仲だった。
「ああ。まぁな」
松原が歯切れ悪く返すと、斉木の顔が同情とも取れるものに変わる。
「あそこの取締役、色親父で有名だからな。だけど金は出してくれるから、有効活用している奴もいなくはないだろうけど。潔癖なお前には災難だったな」
「別に潔癖というわけじゃない。ただ、見ず知らずの素性もわからない相手に、鼻の下を伸ばす気にはなれないだけだ」
「顧客相手には愛想を振りまけても、恋愛面は別ってわけか」
「そういうことだ」
松原は淡々と述べながら、箸を動かす。
「で、店には入ったのか?」
「入った。勝手に金を払われて、入らざるを得なかったんだ」
「で?」
「でってなんだ?」
好奇心の滲む目が向けられ、松原は顔を顰める。
「聞かなくてもわかるだろ? どうだったんだ? 真面目で潔癖のお前が、相手にしたのか」
もどかしそうに斉木が、箸を置いて少し身を乗り出す。ピークを過ぎた社員食堂とはいえ、人が全くいないわけじゃない。こんな話を真っ昼間からしているだなんて、下世話すぎる。
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