君との怪異に僕は溺れる

箕田 悠

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第三章「訪問」

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「霊がいないと、先輩はこういうことしないんですか?」

「そうじゃないけど……付き合ってもいないのにするのはどうなのかなって……」

 僕は神近くんから視線を逸らす。こういう流れになってはいるが、僕たちは恋人同士ではない。不本意な動機から始まったキスだったが、それ以上ともなれば話は別だ。

「へー、そういうのにこだわる人なんですね」

 驚いているような納得したような口調で神近くんが、僕の体から身を引いた。

「そのわりには、積極的でしたけどね」

「っ……」

 僕は痛いところを突かれ、恥ずかしさに頬が熱くなる。

「か、神近くんはさ……こういうの誰とでもするの?」

 僕は上体を起こし、ぽつりと呟く。神近くんの淀みない動きからして、手慣れている感じが否めなかった。

「先輩だからです」

「えっ?」

 僕は驚いて神近くんの顔を見つめる。神近くんは口元を僅かに歪めて、僕を見つめ返す。

「先輩にしかこういう事しませんよ」

 まさか神近くんの口からそんな言葉が出てくるとは、思っても見なかった。僕は全身がカッと熱くなり、恥ずかしさから再び視線を俯かせる。

 神近くんの言っている意味は、僕に対する好意なのだろうか。期待半分、不安半分だった。昼にキスの事を聞いた時も揶揄われたのだから、どうしても半信半疑になってしまう。

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