去りし記憶と翡翠の涙

箕田 悠

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第二章

6

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 目が覚めると、熱は下がっていた。体は重だるいが昨夜のような、息苦しさはなくなっている。
 タイミングを見計らったかのように、ヒスイが部屋に来て「熱は?」と聞いてきた。

「熱は下がったようです。昨日は……ありがとうございます」

 昨日の事を思い出し、熱がぶり返したように体が熱くなる。

「まだ顔が赤い。今日は何もするな」

 そう言ってヒスイは顔を顰めている。これは熱ではなく、ヒスイに対しての恥ずかしさからだと自覚はあった。

「すみません……」

 後ろ暗さと居たたまれなさで、語尾が弱くなる。

「別にいい。後で食事を運ぶから、それまで寝てろよ」

 そう言い残して、ヒスイは部屋を出て行ってしまう。
 天野はホッと息を吐き出し、再び体を横たえる。
 横たわったまま、文机の方に視線を向けると、文机の裏側に何かが貼り付いているのが目に止まる。
 何だろうと体を起こし、這うように文机の下に潜り込む。
 見上げるように少し顔を上げると、少し茶色くなった白い封筒が貼り付けられている。急激に心臓が打ち付け、思わず唾を飲み込む。
 一旦体を引くと、自分が見てしまっていい物なのか思い悩んでしまう。
 ふと、もしこれが生贄とされた人間が残したものだとしたら、何か伝えたいのかもしれない。
 そのつもりで筆を取っていたのだとして、読まれないままでは筆者の徒労に終わってしまうだろう。
 意を決して天野は、文机の裏側に手を入れて封筒を剥がしていく。
 少し厚みのある封筒には乾いた米粒の跡が残っていて、貼る為の道具がなかった事が伺えた。
 封筒には封はされておらず、中身は簡単に取り出せるようだ。
 中に入っている紙の束には、びっしりと文字が流れるように筆で書かれていた。
 丁寧に広げて読み取っていくと、『僕はヒスイに食われたわけじゃあないのです。僕は肺を患い、この世を終いにするのです』という書き出しから始まっていた。 
 書き出し一文目からヒスイの名前が出ていて、心臓が跳ね上がる。
 天野は高鳴る心臓を持て余しつつ、布団に戻るとすぐに隠せるようにと枕の下に封筒を忍ばせ、掛け布団をお腹の辺りにまで引き上げた。掛け布団の下に隠すようにして、続きを読み進めていく。

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