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第二章
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しおりを挟む気づけばあっという間に季節は移ろい、この場所に来て二回目の梅雨を迎えていた。
中庭に咲いていた桜はとっくに散ってしまい、青々とした葉が雨粒に濡れている。それと入れ替わるように、綺麗な青い紫陽花が咲いていた。
一年も経てばそれなりに家事も早くこなせるようになり、それに伴ってヒスイとの生活にもすっかり馴染んできている。
体のいたる箇所にあった傷や戒めの様な痕もなくなり、自然豊かでのんびりとした生活が性にあっていた。
天野は雨の湿った土の香りを肺に満たしながら、縁側から中庭の景色を眺めていた。
この雨の中では畑仕事も洗濯もする事が出来ず、掃除と食事の支度ぐらいしかやる事がない。
余暇の時間は基本的に、ヒスイは自分の部屋へ引っ込んでしまう。
一人取り残された天野は、こうして外の景色を眺めることが増えていた。それに時々こうしていると、気まぐれにヒスイが隣に来る事があった。
今日は来ないのかなと少し寂しく思っていると、玄関からガラッと開く音が聞こえてくる。
予想外の出来事にビクッと体が跳ね、心臓が暴れ出す。
ヒスイは部屋にいるのは確かだ。この縁側を通らないと、玄関には行く事が出来ない。
だとしたら、誰かが来たとしか考えられない。でも、この場所を誰が知り得ることが出来るのかと疑問が湧き上がってくる。
「ただいまー!」
「ただいまー!」
幼くて高い声が山びこのように重なり、ドタバタと走ってくる足音が聞こえてくる。
子供のように無遠慮な様子に呆気にとられていると、二つの影がこちらに向かってくるのが見える。
「あっ! ヒスイじゃない」
「あっ! 人間じゃん」
着物を来た五、六歳ぐらいのおかっぱ頭の女の子二人が姿を現した。
スッと切れ長の目元に、小さな唇。まるで鏡合わせになっているみたいに同じ顔だった。
「人間なのに」
「幸朗じゃないね」
二人が切れ長の目を僅かに見開いた。
天野が呆気にとられていると「うるさいと思ったらお前たちか」と反対の廊下からヒスイが現れる。
「幸朗は?」
「どこ行ったの?」
二人が天野の顔と、ヒスイの顔を交互に見比べている。
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※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
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