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しおりを挟む最後の日に相応しい青空だった。
それなのに僕の心は、曇ったように沈んでいた。二人との別れが迫っているというのもあるし、もっと学校生活を続けたい気持ちが今になって強く生まれていたからだ。
教室も妙に浮き足立っていて、別れを惜しむ生徒や合格発表を待つ姿があった。
「今日だな。発表」
いつになく落ち着かない様子の賀成が、こちらに体を向ける。
「……うん」
「ホッシーも緊張してるのか。分かるよ。俺も昨日からずっと落ち着かないし」
賀成が貧乏揺すりしながら、「うわーこえー」と、頭を激しく掻き乱す。
「……あのさ」
賀成が手を止めて僕を見る。
「……ありがとう。仲良くしてくれて」
僕は心の底からそう思っていた。賀成が声をかけてくれなかったら、僕はずっと一人のままだった。卒業式すら、何の感慨も湧かなかったかもしれない。
「なーに言ってんだよ。一緒の大学に行くんだろ? 学部は違ったとしても、会おうと思えばいくらでも会えるんだからさぁ。そんな今生の別れみたいなこと言うなよー」
賀成が僕の腕をバシッと叩く。ちょっと痛かったけど、気持ちが籠もっているような気がして何だか嬉しかった。このやり取りが出来なくなると思うと、今にも泣き出しそうになった。
「……うん」
「おいおい、泣くにはまだ早いんじゃねぇ」
肩を掴まれ、前後に揺すられる。僕は涙を堪えながら、「そうだよね」と笑った。
卒業式は粛々と行われ、至る所からすすり泣く声も聞こえた。
その雰囲気に飲まれそうになったけれど、賀成の言うとおりでここで泣くのは早すぎる。僕にはもう一つ、やるべきことがあるからだ。
卒業式と最後のHRが終わると、みんなそれぞれ別れを惜しんでいた。
「ホッシーどうだった?」
賀成がスマホ片手に、興奮気味に迫ってくる。賀成の様子から、彼はちゃんと合格したのだと分かった。
「まだ見てない。賀成は?」
「受かってた。ホッシーも早く見ろよ」
「おめでとう。でも、ごめん……一緒に見る約束してて……後で教えるよ」
僕は二人の前で見ようと決めていた。どんな結果になろうと、三人でその感情を分かち合いたかった。
「そっか。彼女とか?」
賀成がニヤニヤとするのを僕は「違うよ」と、否定する。
「そう照れるなって」
「ほんとに違うからっ」
ついムキになってしまい、余計に賀成を調子付かせてしまう。今になって眼鏡くんの気持ちが分かる。
「ほら、早く彼女のとこ行ってやれよ」
「だから違うって」
そう言いながらも、僕は鞄を肩にかける。この教室から出たら、もう戻ってくることはないはずだ。
一度、周囲を見渡す。今まで自分の敵のように感じていたクラスメイトの視線や言動。その景色が一気に変わっていた。
「じゃあ、また後でな。ホッシー」
「うん。また後で」
この後、僕と賀成、それから参加できるクラスメイトたちで、集まることになっていた。
僕は教室を出ると、屋上へと走った。
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