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しおりを挟む「無理だよ。だって、コミュ力もなければ、人前に立つのだって苦手なのに」
「人前に立つのが苦手だからって、教師になれないわけじゃないだろ。教師だって人間だ。全員が全て、快活明朗なわけではないはずだ」
「……そうだけど」
真っ先に浮かんだのは担任の工藤先生だった。確かに物静かだし、授業も淡々とこなしている。他にも化学の教師や数学教師も――
僕の考えを見抜いたように、「な、そうだろ」と眼鏡くんが言った。
「俺の目から見て、ホッシーはその素質があると思う」
それから眼鏡くんが貯水タンクの壁に目をやる。そこには僕が眼鏡くんの為に作ったプリントが張ってある。眼鏡くんに合わせて、基礎の説明などを盛り込んでいるものだ。触れられないため、ラミネートをして貯水タンクの壁に貼りだしてあった。
「自分が大変な時期に、他人の為にここまで出来る人間はそういない」
「あたしもそう思う! ホッシーは先生になるべき」
なーこも加勢してくるも、眼鏡くんは顔を顰めて眼鏡を上げる。
「君が言うと嘘くさくなる。なんせ、一日で匙を投げたじゃないか」
「ちょっと! それとこれとは話が別だし」
一瞬たじろぐもすぐに、なーこが持ち直す。
「ホッシーはどうなんだ? やってみたいとは思わないか」
憤慨するなーこを無視して、眼鏡くんが僕に問う。
今まで教師という道を考えたことがなかった。だけど目的もなく、文学部を選んでいる僕からしたら、教師になる目標を得られるのも良いのかもしれない。
「……考えてみる」
悩んでいられる時間は少ない。それでも選択肢の一つとして、考えても良いかもしれない。
「ああ、考えてみてくれ」
眼鏡くんが嬉しそうに頷いた。
家に帰ってからも、僕は眼鏡くんの言葉が頭から離れずにいた。僕が教師になる。想像しようとしても、全く浮かばなかった。
「兄ちゃん」
一に声をかけられ、僕は我に返る。振り返ると一が、部屋に入ってくるところだった。
「面接の練習しようよ」
一がベッドに座る。僕は椅子ごと、体を向けた。最近は一の仕事やレッスンが忙しくない時には、面接の練習に付き合ってくれていた。さすが演技の勉強をしているだけあって、中学生とは思えないほどしっかりと面接官の役を演じてくれていた。
「ごめん。付き合わせて」
「いいよ。結構楽しいし」
僕が面接の設問を渡すと一が受け取った。
「そういえば、なーこさんと眼鏡さん。何か分かったことある?」
僕が首を振ると、一も「俺も」と言って肩を落とす。
「ネットで情報を集めようと思ったんだけど、やっぱり警戒されちゃってるのか、返事が来なくて……ごめん。役に立たなくて」
「そんなことないよ。仕方ないことだし」
そう簡単には掴めないことは分かっていただけに、ショックは少なかった。
「もう一度、なーこの家に行ってみようと思う」
一度目は見に行っただけだったけれど、今度は訪ねてみようと考えていた。知り合いだといえば、何かしら情報を得られるかもしれなかったからだ。
「俺も行ってもいいかな?」
「無駄足になるかもしれないけど、それでも良いなら」
「うん。俺もなーこさんや眼鏡くんの為に何かしたいし」
もどかしさを感じているのは、僕だけじゃないようだった。どうなるか分からない。それでも一がいるというだけで、何だか心強かった。
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