青空サークル

箕田 はる

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 なーこの家に行くことになったのは、話してから一週間後の金曜日の放課後だった。
 行くぞと言われ、賀成と一緒に教室を出る際、教室にいたクラスメイト達が驚いた顔でこちらをチラチラ見ていた。
 どうやら賀成は、僕との約束を話していないらしい。普段仲良いメンツに対しても「今日は予定あるからわりぃ」の一言で済ましていた。
「ごめん……ありがとう」
 隣に並ぶ賀成に、僕は恐る恐る言った。彼みたいに友達が多い人間は、普段から付き合いも多いし、忙しいのは間違いない。
 事情を知らない彼からしたら、僕の好奇心を満たすためだけに、足を使ってくれているのだ。本当の事を話せないのが、何だか居たたまれなかった。
「気にすんなって。期待に応えられるかわかんねぇけどさ」
 賀成はそう言うが、かなり前進しているように思えた。たとえ無駄足になったとしても、それはそれで他の方法を探せばいいだけだ。
 なーこには今日のことは黙っている。もし、生家が無くなっていたら、きっと凄くショックを受けると思ったからだ。
 校舎を出て、最寄り駅の方向へと足を向ける。帰宅する生徒がちらほらいたが、一、二年も混じっていて僕には知らない人ばかりだった。
 いつもは一人で歩く道のりで、隣にはクラスメイトがいる。意識すればするほど、緊張で手に汗が滲む。救いなのは、今日は目的があることだった。
「あのさ……学校の階段で起きた事故について、何か知ってる?」
 緊張で言葉に詰まりながらも、何とか質問する。僕も自分なりに当時のニュースを調べたりもしたが、簡潔な内容しか見当たらなかったのだ。
「知っているっていってもなぁ。俺も噂ぐらいしか聞いたことないし」
「高三の女子生徒が、階段から足を踏み外したとか?」
「そうそう。別棟の三階に向かう階段で。だから夜になると、そこですすり泣く女の子の声が聞こえるってさ」
 ありきたりな噂話だったが、当人を知っているせいか、なんだか複雑だった。
「知り合いの人は? どうして事故にあった家だって知ってるの?」
 これ以上はなーこの名誉にも関わると、僕は話の路線を変える。
「中三の時に、俺の家庭教師をやってた大学生なんだけど、その母親がその生徒の母親と仲良かったらしくて、一時期家で騒ぎになったらしい。その家庭教師が俺の目指してる高校を知って話してくれたんだ」
 二人で駅の改札を抜け、登りの電車に乗り込む。つり革に捕まったところで、電車が静かに動き出す。
「当時はニュースでも報道されたし、学校も休校になったらしい」
 学校で起きた死亡事故というだけで、かなりセンセーショナルな話題にはなるだろう。学校が休校になるのも頷ける。
「亡くなった生徒の母親もかなり憔悴してて、しばらくは家に籠もってたらしい。その家庭教師の母親がかなり話し好きらしくて、そういうことも年中口にしては、同情してたんだって」
「……そうなんだ」
 僕はしんみりとした気分で、つり革を握る。
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