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しおりを挟む「で、聞きたい事って?」
「先生はこの学校は長いですか?」
「まぁ……十年以上はいるかなぁ」
先生が「どうして?」と不思議そうな目で僕を見る。十年だったら、なーこの事も知っている可能性がある。
そこで僕は、あっ、と気付く。なーこのフルネームをまだ聞いていなかったのだ。
「あの、この学校の別棟で事故ってなかったですか?」
仕方なく僕は事故の話を聞くことにした。
途端に工藤先生の顔色が変わる。それから普段見ないような険しい表情で「誰かに聞いたのか?」と聞き返してくる。
「ええ……まぁ……」
曖昧に返すと、工藤先生は「確かに事故はあったよ」と肯定した。
「だけど、あんまり変な噂を流されるのも、亡くなった生徒が報われない。だから、ここで留めておいてくれないか」
訴えかけてくる工藤先生の目を見て、僕はこれ以上聞けなくなってしまう。先生の立場として、この学校で起きた事故であることは、責任を問われる問題でもあるのだろう。
それに学校の怪談という意味合いで広まってしまうのも、先生として心苦しいものがあるのかもしれない。
「分かりました。すみません」
僕は頭を下げて、引き下がる。詳しい話は聞けなかったが、この学校で事故が起きたというのは事実だと分かった。
当時の卒業生に話を聞ければいいけれど、僕の力ではなかなか難しい。先生に聞いたところで、個人情報の観点から聞き出すのは無理な話だった。
後はなーこから本名を聞き出し、SNSなどで探せば、意外と繋がりが生まれるかもしれない。それに、事故であればニュースになっている可能性もある。時代がそんなに離れていない分、なーこの足跡を追うのは眼鏡くんよりはマシに思えていた。
それでも道のりは険しい。とぼとぼとした足取りで教室に向かおうとすると、背後から「星河」と声がした。
僕の名前を呼ぶのは、先生ぐらいなもので不思議に思って振り返る。
そこにはスクール鞄を肩にかけた賀成が立っていた。あのさ、と切り出したことで、一(トツプ)のことかそれとも、僕の新しい情報でも仕入れたのかと警戒心が沸く。
僕が身構えていると、「さっき聞いちゃったんだけど」と賀成がやや声を潜めるて僕に近づく。
「この学校で起きた事故の話、先生に聞いてただろ」
僕の想像とは違う流れに戸惑いながらも、僕は頷く。
「実はさぁ、俺の知り合いの家の近所に、その事故にあった子の家があるんだよね」
「本当に!」
僕が大きな声を出したせいで、近くを通り過ぎようとしていた生徒が驚いた顔をする。
「そんなに驚くことなのか」
賀成も目を丸くする。僕は「……ちょっとね」と、苦笑いで誤魔化した。
「ただ……結構前のことだから、もしかしたら今はないかもしれないけど」
自信なさげな笑みを漏らす賀成に、僕は「それでも構わないから教えて」と前のめりになりかけたところでとまる。
一からサインだの紹介して欲しいだとか、交換条件をつけられたらどうしようと脳裏を過る。いくらなーこの為とはいえ、一を巻き込んでしまって良いものなのか。
急に黙り込んだ僕を不審に思ったのか、賀成が「どうした?」と怪訝そうな顔をする。
「教えてくれると嬉しいけど……でも……」
「ああ、別に弟に取り次いでくれとか言わないから」
賀成が手を横に振る。
「いや、さぁ……悪かったなって思ってるんだ。正直……だから、声かけたのもあるつーか」
言い淀む賀成に、僕の方こそ色眼鏡で見ていたことが申し訳なかった。
「まぁー役に立てるか分からないけど、知りたいなら教えてやるよ」
「変わっていても良いから、教えて欲しい」
僕は今度こそ素直にそう聞いた。
「じゃあ、近々案内するから。連絡先教えて」
賀成がスマホを手に持つ。慣れたような手つきの賀成に対し、僕は初めての経験に動揺しながらスマホを鞄から取り出した。
「てかさぁ、なんで今更そんなこと調べてんの? 一年の時からみんな知ってるようなことなのにさぁ」
連絡先を交換しながら、賀成がそれとなしに聞いてくる。
聞かれるだろうと予測はしていたけれど、本当の事を言うわけにはいかなかった。
「卒業前に真相を確かめようと思って……」
苦しい言い訳だったけれど、賀成はふーんと言う。
「なんか意外。あんま興味なさそうなのに。こういうの」
僕の日頃の無関心さからそう感じたのか、賀成は案外すんなりと引き下がってくれる。
「じゃあ暇な日入れといて」とスマホを振りながら、賀成が帰っていく。
その背中を見送りながら、今になって事の重大さに気付く。
まさか三年間、全く関わりのなかったクラスメイトと、二人で出かけることになるとは思ってもみなかったからだ。加えて連絡先も、初めてクラスメイトが加わったのだ。
僕は型落ちを繰り返しているスマホを握りしめる。
人生って分からない。僕はしばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。
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