青空サークル

箕田 悠

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 夏休みが近づくと、更に気温は上がり、教室の中は熱気が充満していた。窓から入る風と、下敷きで仰いだ僅かな風だけが頼りだった。
 高校生活最後の夏休みということもあって、みんなどこか浮き足立っていた。夏期講習もあれば、旅行の計画を立てる人もいるだろう。
 かく言う僕は、これといった予定もなさそうだった。今年も一が忙しいということもあって、家族旅行もないだろうし、僕も受験に備えて学校で行われる夏期講習があるぐらいだ。
 お昼に屋上に行くと、うだるような暑さが僕をげんなりとさせた。
「ホッシー大丈夫? 疲れた顔をしてるじゃん」
 なーこが僕の顔を見るなり指摘する。
「暑くて」と言いながら、僕は掌で影を作りながら太陽を睨む。
「ここは直接だかんね。あんま、長居しない方がいいかも」
 大丈夫と言いたいところだけれど、吹き出る汗を前に僕は頷く。首元のシャツを手で揺らし、何とか風を取り入れる。
 貯水タンクの影に避難しても、暑さは変わらない。食欲も湧かず、僕はひたすら飲み物を口にしていた。
「もうすぐ夏休みだけど、どっか行くの?」
 なーこに聞かれ、僕は「行かないよ」と返す。
「えー、せっかくの休み何だからさぁ、プールとか花火とかお祭りとか楽しめば良いのに」
 なーこが口を尖らせる。でもどれを取ってしても、自分一人で行くのは勇気のいる行事で、僕には無縁なことだった。
「受験もあるし、遊んでばかりいられないから」
「学生だからこそ、遊ばないと。あたしなんて、ずっと遊んでたよ」
 それから原宿とか渋谷とかでと、まさにギャルの聖地を指して、「マジぱなくて」と楽しそうに語る。
 その場所に行ったことはない僕だったけれど、楽しい場所であることは伝わってくる。
「随分と賑やかな場所なんだな。なーこみたいのがいっぱいいると思うと、胸焼けしそうだ」
 さらっと毒を吐く眼鏡くんに、僕は思わず吹き出しそうになった。
「それ、どういう意味よぉー」
 なーこが拳を振り上げ、眼鏡くんの方に迫る。間に僕がいるのだから、届く事はない。
 それでも僕は「眼鏡くんは?」と言って、これ以上火に油を注がないようにする。
「俺は兄弟の面倒をみたり、家の手伝いをしていたな」
「さっすが優等生君。あたしと違ってやることが真面目ですね」
 なーこが嫌みっぽく言う。僕以上に眼鏡くんは真面目なようで驚く。
「別に当たり前のことだ。大学が都内だったから、実家に帰省すれば必然的にそうなる。兄弟も六人いたし、実家も商家だったから忙しかったからな」
「六人!」
 なーこが信じられないといった顔をする。
 今の時代ではあり得ないが、昔は兄弟も多かったと授業で習ったことがあった。
「ああ。だから、面倒を見るのも必然的に兄や姉になる。俺も帰ったときぐらい手伝わないと、他の兄弟達が可哀想だろ」
「大変なんだね」
 同情するように、なーこがしんみりと言う。
「まぁでも、地域の祭りとかには参加していたからな。それは楽しかった。少ないながらも出店もあって、活気づいていたし。地元の仲間とも再会出来たからな」
 眼鏡くんが遠い目をして語る。
 孤独じゃないじゃん。
 僕はなーこと眼鏡くんの思い出を聞いて、少しだけ虚しさが込み上げる。
 今は孤独かもしれないけれど、かつては友達もいて兄弟も仲良くて、普通に人との関わりを構築していたのだ。
 僕にはそれが一つもない。親しい友達もいなければ、たった一人の弟も気まずさを感じている。
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