6 / 67
6
しおりを挟む放課後になり、僕は悩みに悩んだ末に屋上へと足を向けていた。
学校も好きではないが、家はもっと嫌いだった。だから普段は図書館や公園に立ち寄って時間を潰している。
時間が経つにつれてあの二人は実は幽霊でなく、ただの人間であの場所にいたことを隠したかっただけなのかもしれないと思えていた。だからこそ、放課後の約束を破るのはなんだか忍びなかった。社交辞令であればそれはそれで良かった。一人になれる場所が増えたと思えば良いし、いざとなれば飛び降りることだって出来るのだから。
屋上への階段を上がりきると、僕は一旦深呼吸をする。恐る恐る扉を開けると、昼とはあまり変わらない澄んだ青空が広がっていた。蒸し暑い空気も相変わらずのようだ。
七月の頭ということもあって、午後三時を過ぎても日は高い位置にあるせいだろう。
昼の時になーこが最初に立っていた位置に視線を向けると、そこには誰もいなかった。
やっぱりという気持ちに混じって、少しだけ胸がツンと痛んだ。
屋上の縁から見える景色を確認したくなって、僕がそちらに足を向けた時だった。
「ホッシー!」
突然、なーこが横から飛び出してきて、僕は「うわぁ」と情けない声を出した。
「ほら、やっぱ来てくれるじゃん」
なーこが横を向くといつの間にか眼鏡くんが、丸眼鏡を押し上げながらこちらに近づいて来ていた。
「別に絶対に来ないとは言ってない」
「言ってたじゃんか。自信満々にさぁ」
眼鏡を押し上げる仕草をしつつ、「彼は来ないよ」と低音ボイスでなーこが再現する。
「人真似するなんて、軟派な奴だな君は」
眼鏡くんがあからさまにムッとした顔をするも、なーこは「あははは。ちょー似てるつーの」と手を叩いて笑う。
「ホッシーも似てるって思うっしょ?」
なーこに問われ、僕は曖昧に首を傾げる。
ノリが悪い。愛想がない。そんな風に講師から言われたことを不意に思い出してしまう。だけど、そんな僕の心境を知ってか知らずか、なーこはあっさりと「ほら、ほっしーも似てるってさ」と一人で盛り上がっている。
「全く騒騒しいだろ。彼女は」
眼鏡くんが腕を組んで、僕の隣に立つ。
「だが、久しぶりに生きている人……それも俺たちを恐れずに拒まなかった人に会ったのが、久しぶりだったからな。彼女の気持ちも分からなくはない」
「本当に……幽霊」
呟くような声で言ったはずなのに、眼鏡くんは「残念ながら」と答えた。
「怖いと思うか?」
僕は俯く。怖くはなかった。不思議と。今でも信じられない気持ちは残っているけれど、二人が嘘を言っているようにも思えなかった。
「怖いわけなくなぁい。死んでもちょー絶可愛いさが残ってるんだからさぁ」
なーこが胸を張る。
可愛いかは別として、幽霊のイメージが覆るような陽気さには、拍子抜けしていた。陰気で湿っぽいのが幽霊というものであり……周囲の印象もそうだからこそ、僕のあだ名が幽霊くんなのだ。
だからこそ、なーこたちが幽霊だと言われなかったら、普通に生きている人間だとしか思わなかった。ただ少しだけ、二人が時代を逆行しているような雰囲気を醸し出してはいるけれど。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
瞬間、青く燃ゆ
葛城騰成
ライト文芸
ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。
時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。
どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?
狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。
春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。
やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。
第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作
森野探偵事務所物語~1~
巳狐斗
ライト文芸
『藍色の探偵』と呼ばれるほど有名な女子大生探偵の森野藍里。彼女の前に立ちはだかる数々の事件。時に仲間達や、周りの人達から知恵や協力を得て、事件解決へと奮闘する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?
一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう)
湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」
なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。
そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」
え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか?
戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。
DKの青春BL✨️
2万弱の短編です。よろしくお願いします。
ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。
「桜の樹の下で、笑えたら」✨奨励賞受賞✨
悠里
ライト文芸
高校生になる前の春休み。自分の16歳の誕生日に、幼馴染の悠斗に告白しようと決めていた心春。
会う約束の前に、悠斗が事故で亡くなって、叶わなかった告白。
(霊など、ファンタジー要素を含みます)
安達 心春 悠斗の事が出会った時から好き
相沢 悠斗 心春の幼馴染
上宮 伊織 神社の息子
テーマは、「切ない別れ」からの「未来」です。
最後までお読み頂けたら、嬉しいです(*'ω'*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる