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Chapter 1
閑話*アレキサンダーの愛欲
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庭園で、2人に声をかけたのは好奇心からだった。あまりにも熱心に、他人の恋愛劇を鑑賞している2人の後ろ姿が色っぽかったせいでは無い。
普段は、のちのち面倒なことになりそうなことはしないのだが…
今回は、自然と身体が引き寄せられるかのように、彼女達の背後に立ってしまっていた。公式な場所以外で、貴族女性とあんな風に砕けた会話をし楽しく感じられたのは、親族以外では本当に久しぶりだった。
だからなのだろうか。
気がつけば、彼女たちに式典用の衣装の作成を依頼していた。
本当は、すぐにでも予定を空けたかったのだが…"王弟"という立場は意外と忙しい。
デザインを書いたアシュリーから、怒り混じりの採寸の催促手紙を受け取るまで、採寸が必要なことすら忘れてしまっていた。
しかし、一応"王弟"という立場の自分に対して物怖じもせず、文句混じりの手紙を送る彼女もどうなのだろうか?
しっかりとした、形式文にて採寸案内がされた案内状の下には、もう一枚の大変砕けた文面が添えられていた。
『アレキサンダー殿下!
忙しいとは思いますけど、流石に無視し過ぎです!いい加減にしてください!
もう次に、採寸に来なかったら、その美しい裸体を曝け出す衣装で、夜会に向かわせますからね!
私は、本気ですよ!!!
あ、もちろん殿下のセクシーさを全面に押し出しますから、そこは安心してください!
では、我が家にてお待ちしておりますね。
辺境伯家アシュリー』
くっくっくっ…!
面白すぎて何度も読んだ。
もはや思い出すだけで、笑みが溢れるほどには読んでいる。
アレキサンダーは、大切にそっと執務机の引き出しからアシュリーが添えた手紙を取り出した。そして、またもやクスリと笑みを浮かべると、今度はとても優しげな表情で手紙の文字を、そっ…となぞった。
アレキサンダーが、なぞった先には追伸と書かれている。
家族以外から、そんな言葉をかけられるのは初めてではないだろうか。
こんなにも、優しい気持ちにさせてくれるなんて…
アレキサンダーは、年甲斐もなくアシュリーから贈られた言葉に、心から喜んでいた。
そして、必死に予定を調整し嬉々として会いに行けば、案の定『来るのが遅い!』と採寸をしながら怒られた。
コロコロと変わる表情は、アレキサンダーの言葉ひとつで変幻自在だ。
辺境伯家の一室で、こんなにもリラックスできるのは、きっとこの場に兄上である陛下や義姉上である王妃、甥の王太子やその婚約者が勢揃いしているからだろう。
仕事をしつつも、アレキサンダーは久しぶりにとても癒された気持ちになっていた。
そして、夜会当日。
今度は、アシュリーとナタリーの2人が王宮にあるアレキサンダーの自室へとやってきた。大荷物を自ら抱え込んで…
侍女に持たせれば…と、言えば2人は、はっきりとその申し出を拒絶した。
『これは、私達の仕事道具ですから責任を持って自分達で運びます』と…
どこの、貴族女性が自ら進んで荷物持ちをしたがるだろうか?
普通なら考えられないことだ。
しかし、アレキサンダーはそう言い切った2人に、無性に惹かれていた。そして、これから始まる姿にも、益々惹かれていくのだ。
夜会の準備が始まるに連れ、砕けた口調で会話をしつつも、2人の表情は真剣そのものだった。アシュリーの手により衣装を整えられ、ナタリーの手によりヘアセットが行われていく。
ナタリーには、しらっと髪をきられた経験がある為、無駄にその手を凝視してしまうが、その様子を見ていたアシュリーに『流石に、今日は切りませんから、安心してください』と笑われてしまった。
全ての準備を終えると、やり切った顔の満足そうな2人に送り出されて夜会へと向かった。
会場までの道のりも、会場についてからも、間違いなく自分へ向けて、好意的な視線が飛んでいることが感じられた。
すこし、目立ちすぎたか?
いつも感じられる視線の倍以上、好奇心を含ませた視線が全身に纏わり付くように向けられていた。
そして、夜会と言うなの外交が始まると、堰を切ったかのように他国の王族がアレキサンダーを褒め称えた。
「素晴らしい衣装ですな!」
「そちらの髪型はどうなっているのですか?」
「いやはや、なんとも殿下にお似合いです!」
と。
結果として、アシュリーの作った衣装も、ナタリーの手がけた髪型も全てが好評で大絶賛されていた。挨拶する人する人が、"是非お店を""デザイナーを"紹介してほしい!と、列をなすほどに。
対外的には、『本格的に始動をはじめたら、ご紹介しますよ』と、答えたものの…
内心では、彼女を紹介するのかと思うと、僅かに胸が痛む。
その夜、湯浴みを終えワインを飲み寛ぐアレキサンダーの手には、アシュリーからの手紙が添えられていた。
アレキサンダーの心に芽生えた、彼女への愛おしさ。しかし、それを素直に認めることは、まだできなかった。
相手は、自分より遥かに若い。これから先、彼女達に相応しい相手などぞろぞろと出てくるだろう。
アレキサンダーは、心の中で必死に"相手はまだ子供だ"と言い聞かせた。
アレキサンダーは、まだ気づかない。
小さく灯った好意が、俗にいう"恋"だということに…
普段は、のちのち面倒なことになりそうなことはしないのだが…
今回は、自然と身体が引き寄せられるかのように、彼女達の背後に立ってしまっていた。公式な場所以外で、貴族女性とあんな風に砕けた会話をし楽しく感じられたのは、親族以外では本当に久しぶりだった。
だからなのだろうか。
気がつけば、彼女たちに式典用の衣装の作成を依頼していた。
本当は、すぐにでも予定を空けたかったのだが…"王弟"という立場は意外と忙しい。
デザインを書いたアシュリーから、怒り混じりの採寸の催促手紙を受け取るまで、採寸が必要なことすら忘れてしまっていた。
しかし、一応"王弟"という立場の自分に対して物怖じもせず、文句混じりの手紙を送る彼女もどうなのだろうか?
しっかりとした、形式文にて採寸案内がされた案内状の下には、もう一枚の大変砕けた文面が添えられていた。
『アレキサンダー殿下!
忙しいとは思いますけど、流石に無視し過ぎです!いい加減にしてください!
もう次に、採寸に来なかったら、その美しい裸体を曝け出す衣装で、夜会に向かわせますからね!
私は、本気ですよ!!!
あ、もちろん殿下のセクシーさを全面に押し出しますから、そこは安心してください!
では、我が家にてお待ちしておりますね。
辺境伯家アシュリー』
くっくっくっ…!
面白すぎて何度も読んだ。
もはや思い出すだけで、笑みが溢れるほどには読んでいる。
アレキサンダーは、大切にそっと執務机の引き出しからアシュリーが添えた手紙を取り出した。そして、またもやクスリと笑みを浮かべると、今度はとても優しげな表情で手紙の文字を、そっ…となぞった。
アレキサンダーが、なぞった先には追伸と書かれている。
家族以外から、そんな言葉をかけられるのは初めてではないだろうか。
こんなにも、優しい気持ちにさせてくれるなんて…
アレキサンダーは、年甲斐もなくアシュリーから贈られた言葉に、心から喜んでいた。
そして、必死に予定を調整し嬉々として会いに行けば、案の定『来るのが遅い!』と採寸をしながら怒られた。
コロコロと変わる表情は、アレキサンダーの言葉ひとつで変幻自在だ。
辺境伯家の一室で、こんなにもリラックスできるのは、きっとこの場に兄上である陛下や義姉上である王妃、甥の王太子やその婚約者が勢揃いしているからだろう。
仕事をしつつも、アレキサンダーは久しぶりにとても癒された気持ちになっていた。
そして、夜会当日。
今度は、アシュリーとナタリーの2人が王宮にあるアレキサンダーの自室へとやってきた。大荷物を自ら抱え込んで…
侍女に持たせれば…と、言えば2人は、はっきりとその申し出を拒絶した。
『これは、私達の仕事道具ですから責任を持って自分達で運びます』と…
どこの、貴族女性が自ら進んで荷物持ちをしたがるだろうか?
普通なら考えられないことだ。
しかし、アレキサンダーはそう言い切った2人に、無性に惹かれていた。そして、これから始まる姿にも、益々惹かれていくのだ。
夜会の準備が始まるに連れ、砕けた口調で会話をしつつも、2人の表情は真剣そのものだった。アシュリーの手により衣装を整えられ、ナタリーの手によりヘアセットが行われていく。
ナタリーには、しらっと髪をきられた経験がある為、無駄にその手を凝視してしまうが、その様子を見ていたアシュリーに『流石に、今日は切りませんから、安心してください』と笑われてしまった。
全ての準備を終えると、やり切った顔の満足そうな2人に送り出されて夜会へと向かった。
会場までの道のりも、会場についてからも、間違いなく自分へ向けて、好意的な視線が飛んでいることが感じられた。
すこし、目立ちすぎたか?
いつも感じられる視線の倍以上、好奇心を含ませた視線が全身に纏わり付くように向けられていた。
そして、夜会と言うなの外交が始まると、堰を切ったかのように他国の王族がアレキサンダーを褒め称えた。
「素晴らしい衣装ですな!」
「そちらの髪型はどうなっているのですか?」
「いやはや、なんとも殿下にお似合いです!」
と。
結果として、アシュリーの作った衣装も、ナタリーの手がけた髪型も全てが好評で大絶賛されていた。挨拶する人する人が、"是非お店を""デザイナーを"紹介してほしい!と、列をなすほどに。
対外的には、『本格的に始動をはじめたら、ご紹介しますよ』と、答えたものの…
内心では、彼女を紹介するのかと思うと、僅かに胸が痛む。
その夜、湯浴みを終えワインを飲み寛ぐアレキサンダーの手には、アシュリーからの手紙が添えられていた。
アレキサンダーの心に芽生えた、彼女への愛おしさ。しかし、それを素直に認めることは、まだできなかった。
相手は、自分より遥かに若い。これから先、彼女達に相応しい相手などぞろぞろと出てくるだろう。
アレキサンダーは、心の中で必死に"相手はまだ子供だ"と言い聞かせた。
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