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ロザンナの魔女
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"そなた、魔女だな"
陛下の一声で会場の空気が変わる。
誰もが息を吐くのですら躊躇うほどに静まりかえっていた。
『魔女』
古より魔女は人混みを避けるようにひっそりと生きてきた。魔女独自の手法で生み出された魔術は、魔術師として名を馳せている者達ですら手も足も出ない程、圧倒的な力をもつとされてる。気分次第で、時には国を滅ぼし、時には敗戦国を栄えさせ富と力を与える。
"魔女がいればその国は栄え滅びることはない"とまで伝えられてきた。
そして、なんとか魔女を自国に引き留めておきたい王族をはじめとする貴族達は、次第に魔女に役職や地位をあたえ監禁同然にして城に引き留めさせるようになる。魔女はもともと自由を好み、移住先を替えることも多い。地位に興味がない魔女達にとって、勝手に地位を与えられ住み着くように強要する国は自然と避けられるようになった。
気配を消して住み着いていた者もいたが、「魔女らしい人物がいる」と噂が出回るだけで国総出で魔女を探し始める為、次第にその数は激減していった。
大国として名を連ねるルーン帝国も魔女達に避けられている国のひとつだった。
もはや魔女の存在を確認することはここ数百年できていない。
そんな中、自分たちの目の前に数百年姿を現さなかった魔女がいればどんな反応をするだろう。
騒然とした会場中の全ての視線がシアに注がれた。
会場の視線を集め、周りの様子を確かめるように見渡したシアは何も答えず、じぃーっと陛下を見ていた。
《ギルバート様はいつから知っていたの?》
急に頭の中に、シアの声が響いた。
驚いて目を向けるも、シアは未だ陛下と目線を合わせていた。沈黙の中、更に頭の中に声が響く。
《何故?魔女だと?》
《…私の知り合いの魔女とそっくりだったからだよ、そなたの考え方がね》
《へぇ~、その魔女ってこの国にいるの?この周辺では魔女の気配が感じられなかったけど、どこなら会える?》
《それは我にもわからん。もう一度、会えるならば会いたいが・・そなたらは隠れるのが得意だからな、数十年探し続けているが全く見つからん!》
《その魔女の名前わかる?》
《・・ロザンナ。彼女は"ロザンナ"と名乗っていた》
《・・・それ、名前じゃないね。名前がわからないなら、見つけられないわ~。私も会ってみたかったから残念》
頭に響くやりとりは、紛れもなく陛下とシアの声だった。驚きつつ二人を見てもお互いが黙って見ているだけ。しかも、隣にいるセインも周りの者達にも声が聞こえてないのだろう。沈黙につつまれた会場で二人の様子をうかがっている者ばかりだ。
その時、不意にシアの声が響いた。
《で、ギルバート様は何で知ってるの?》
これは、どう返事をすればいいのかと迷っているとシアと陛下の声が続いた。
《あ、これ念話だからそのまま話したいことを頭のなかで思って!》
《ギルバート、私も問うが、何故報告しなかったのだ?》
《・・サイラス殿に提示した条件を聞いたときに、もしかしたら、とは思っていました。しかし、何も確証が無かったために報告は見送らせました》
ギルバートが答えた後、陛下が《わかった》と返事をしたと同時に、小さな声で《また、ギルバート様に迷惑をかけてしまったね・・》とシアの声が響いた。そして、シアは陛下に問いかけた。
《ねぇ、魔女だと知った私に貴方は何を望む?》と。
《特に何も望まん、と言いたいところだが・・ロザンナを、ロザンナを探せないか?》
《何で?》
《・・私は昔、彼女に助けられしばらく彼女と共に生活していた。これから先も側にいてほしいと思うくらいにはな。》
陛下が語ったのは、驚くべき真相だった。
若かりし頃、他国より常に狙われていた陛下は生死を彷徨うほどの傷をうけ魔女に助けられ保護されていた。
そのうちにお互いを想い合うようになり、王太子として城へ戻った後も何度も連絡は取っていたそうだ。妃になってほしいと伝えると、その魔女は"私は受け入れてもらえないでしょう"と答えたという。
絶対に説得させると、何度も当時の王や貴族に掛け合ったが、王太子である私の婚約者がどこの誰だかわからない女となると政情を揺るがす原因になる、として受け入れてもらえなかったそうだ。だからといって、彼女は魔女だ!ともいえず、瞬く間に王妃との婚約が決まってしまった。
陛下はせめて自らの口で伝えたいと何度も連絡するが返事はなく、以前共に暮らした場所へ行くと、そこはすでに真っ新な更地になっていた。膝から崩れ落ちるように、更地になった場所に手をつくと、そこに文字が浮かび上がってきた。
"全てを忘れ民を導く王に幸あれ"と。
そして、その文字から陛下に"祝福"が降り注いだそうだ。お陰でそれ以降、陛下は命を狙われることは無くなった。
《最後まで、助けられてばかりで私は何もできなかった。今、彼女が何不自由なく暮らしているのならそれで良い。ただもし、困っていることがあって私が手を貸すことができるのであれば助けたい》と。
一通りの話しを聞いたギルバートは、ただただ驚いていた。陛下の過去に、魔女との接点に。
そして、もし探し出せるのであれば、もう一度逢わせてあげたいと。
しかし、そこへ予想外の返答が響く。
《悪いけど、探せない。…てか無理だね~
たぶん、もう死んでるよ。その魔女》
陛下の一声で会場の空気が変わる。
誰もが息を吐くのですら躊躇うほどに静まりかえっていた。
『魔女』
古より魔女は人混みを避けるようにひっそりと生きてきた。魔女独自の手法で生み出された魔術は、魔術師として名を馳せている者達ですら手も足も出ない程、圧倒的な力をもつとされてる。気分次第で、時には国を滅ぼし、時には敗戦国を栄えさせ富と力を与える。
"魔女がいればその国は栄え滅びることはない"とまで伝えられてきた。
そして、なんとか魔女を自国に引き留めておきたい王族をはじめとする貴族達は、次第に魔女に役職や地位をあたえ監禁同然にして城に引き留めさせるようになる。魔女はもともと自由を好み、移住先を替えることも多い。地位に興味がない魔女達にとって、勝手に地位を与えられ住み着くように強要する国は自然と避けられるようになった。
気配を消して住み着いていた者もいたが、「魔女らしい人物がいる」と噂が出回るだけで国総出で魔女を探し始める為、次第にその数は激減していった。
大国として名を連ねるルーン帝国も魔女達に避けられている国のひとつだった。
もはや魔女の存在を確認することはここ数百年できていない。
そんな中、自分たちの目の前に数百年姿を現さなかった魔女がいればどんな反応をするだろう。
騒然とした会場中の全ての視線がシアに注がれた。
会場の視線を集め、周りの様子を確かめるように見渡したシアは何も答えず、じぃーっと陛下を見ていた。
《ギルバート様はいつから知っていたの?》
急に頭の中に、シアの声が響いた。
驚いて目を向けるも、シアは未だ陛下と目線を合わせていた。沈黙の中、更に頭の中に声が響く。
《何故?魔女だと?》
《…私の知り合いの魔女とそっくりだったからだよ、そなたの考え方がね》
《へぇ~、その魔女ってこの国にいるの?この周辺では魔女の気配が感じられなかったけど、どこなら会える?》
《それは我にもわからん。もう一度、会えるならば会いたいが・・そなたらは隠れるのが得意だからな、数十年探し続けているが全く見つからん!》
《その魔女の名前わかる?》
《・・ロザンナ。彼女は"ロザンナ"と名乗っていた》
《・・・それ、名前じゃないね。名前がわからないなら、見つけられないわ~。私も会ってみたかったから残念》
頭に響くやりとりは、紛れもなく陛下とシアの声だった。驚きつつ二人を見てもお互いが黙って見ているだけ。しかも、隣にいるセインも周りの者達にも声が聞こえてないのだろう。沈黙につつまれた会場で二人の様子をうかがっている者ばかりだ。
その時、不意にシアの声が響いた。
《で、ギルバート様は何で知ってるの?》
これは、どう返事をすればいいのかと迷っているとシアと陛下の声が続いた。
《あ、これ念話だからそのまま話したいことを頭のなかで思って!》
《ギルバート、私も問うが、何故報告しなかったのだ?》
《・・サイラス殿に提示した条件を聞いたときに、もしかしたら、とは思っていました。しかし、何も確証が無かったために報告は見送らせました》
ギルバートが答えた後、陛下が《わかった》と返事をしたと同時に、小さな声で《また、ギルバート様に迷惑をかけてしまったね・・》とシアの声が響いた。そして、シアは陛下に問いかけた。
《ねぇ、魔女だと知った私に貴方は何を望む?》と。
《特に何も望まん、と言いたいところだが・・ロザンナを、ロザンナを探せないか?》
《何で?》
《・・私は昔、彼女に助けられしばらく彼女と共に生活していた。これから先も側にいてほしいと思うくらいにはな。》
陛下が語ったのは、驚くべき真相だった。
若かりし頃、他国より常に狙われていた陛下は生死を彷徨うほどの傷をうけ魔女に助けられ保護されていた。
そのうちにお互いを想い合うようになり、王太子として城へ戻った後も何度も連絡は取っていたそうだ。妃になってほしいと伝えると、その魔女は"私は受け入れてもらえないでしょう"と答えたという。
絶対に説得させると、何度も当時の王や貴族に掛け合ったが、王太子である私の婚約者がどこの誰だかわからない女となると政情を揺るがす原因になる、として受け入れてもらえなかったそうだ。だからといって、彼女は魔女だ!ともいえず、瞬く間に王妃との婚約が決まってしまった。
陛下はせめて自らの口で伝えたいと何度も連絡するが返事はなく、以前共に暮らした場所へ行くと、そこはすでに真っ新な更地になっていた。膝から崩れ落ちるように、更地になった場所に手をつくと、そこに文字が浮かび上がってきた。
"全てを忘れ民を導く王に幸あれ"と。
そして、その文字から陛下に"祝福"が降り注いだそうだ。お陰でそれ以降、陛下は命を狙われることは無くなった。
《最後まで、助けられてばかりで私は何もできなかった。今、彼女が何不自由なく暮らしているのならそれで良い。ただもし、困っていることがあって私が手を貸すことができるのであれば助けたい》と。
一通りの話しを聞いたギルバートは、ただただ驚いていた。陛下の過去に、魔女との接点に。
そして、もし探し出せるのであれば、もう一度逢わせてあげたいと。
しかし、そこへ予想外の返答が響く。
《悪いけど、探せない。…てか無理だね~
たぶん、もう死んでるよ。その魔女》
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