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*親友は氷の貴公子* セイン

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「セイン様、申し訳ございませんが…」

「…あぁ、わかった。伝えておこう。」

ぁ、ありがとございます!とホッとしたように低姿勢で後にしていくのは王宮に勤めるメイドだ。
騎士団の副団長である俺に、団長への言付けや報告を頼むものは少なくはない。

俺の親友であるギルバートは、別名と呼ばれ、一部の者たちから恐れられている我ら獣人騎士団の団長である。

誰もが見惚れるほどの美男子で文武両道、家柄良し、帝国随一の獣人騎士団の団長で、花婿候補の筆頭でもあるが故に、トラブルが尽きなかった。特に、娘を嫁がせたい貴族たちからの茶会の申し入れや、偶然を装ったアプローチ、特に酷かったのは騎士団の宿舎に侵入し裸同然で夜這いをかけた令嬢だ。
初めは、表向きやんわりと断っていたギルバートも遂には激怒し、不法侵入・不敬罪、その他もろもろを付け加えて牢に放り込んでいた。本人曰くその他多勢へのらしい。
しかし、そんな迷惑行為は収まることなく同じ様なことが何度も続き、ギルは次第に笑わなくなっていった。表情を押し殺し、女性であれば貴族令嬢であってもメイドであっても絶対に側に近づけさせないほど威圧を放ち牽制していた。ギルの威圧に当てられ、何人のメイドや令嬢が倒れていったかわからない。
その為、メイドも令嬢たちも遠巻きに見ているだけで一定距離は近づかなくなった。ただし、一部の令嬢は諦めきれないようで、遠巻きに熱い視線だけを送り続けている。

我々、獣人は野生的な勘が働くのか悪意や憎悪などの感情に特に敏感である。下心を持って近づいてくる者や、騙そうとして近付いてくる輩には嫌悪感を感じる。その為、ギルの対人不信は増すばかりだった。

そんな彼が、最近唯一心を開いている少女がいる。
精霊の森で野盗に捕まっていたところを保護し、イリスまで連れてきたシアという子だ。
通常ならば連れてきた後は部下に任せるはずだが、今回は彼自ら彼女のための住まいも働き先も用意したのだ。これにはセインも流石に驚き、どうゆう心境の変化か尋ねると「彼女はポーションの知識が豊富だから助けになるかもしれない」と答えた。
そうだとしても、団長であるお前が直々に動く必要はないはずだ、とセインは思っていた。

シアに出会ってから、ギルは少しづつだが表情が豊かになってきた。
そして何より驚かせたのは、シアに愛称呼びをさせたことだ。ギルバートの愛称は"ギル"で、騎士団ではセインにだけ許されており、後は家族にしか呼ばせていない。
そんな愛称をシアには自ら「ギルでいい」と言ったのだ。


本人ギルは、きっと気づいていないだろう。

シアを見守る表情がどれだけ優しいものかを…

どれだけ愛おしそうに見つめているかを…

獣人としての執着心が芽生えていることも…


そして何より、

彼女がお前の「番」だということも…
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