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火と月
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セリーナの話を聞いたのち、真っ先に口を開いたのは意外にも、月の国の王妃ラスティリアだった。
「セリーナ、貴女の気持ちはよく分かりました」
優しく慈しむような声で、セリーナへと話しかける月の王妃。
母の心友であり、セリーナにとってももう一人の母の様な人だ。
昔、母に聞いたことがある。
何故、親友ではなく心友なのかと…
その時、母はこう答えた。
『彼女と私は、同じ立場であり同じ想いを持つ同志なの。心から、信頼できる大切な仲間なのよ!』と。
そんな月の王妃は、セリーナに向けてこう続けた。
「貴女が土の国の姫である様に、私は月の国の王妃です。我がセリニに危害が及ぶのであれば、無視はできません。全面的に戦います!」
「母上!!!」
「ですが…、一つだけ確認したいことがあるのですが、よろしくて?」
「はい」
苛立った様に席を立ったハルシオンに、視線を向けたセリーナは、大丈夫だと首を振った。
「クロノスは、彼女を魂の伴侶と言ったそうですが、では何故その伴侶を雷の国へと嫁に出す事をか許したのでしょう?」
月の王妃の疑問はもっともだった。
土の国は、そして核であるクロノスは何故継承者である王女を他国へと嫁に出したのか?
いくら、王が健在だとしても継承者になったのなら次世代の王には継承者である彼女がなるべきだからだ。
しかし、その答えは意外なものだった。
「継承者は、彼女以外にも既に存在していたからです」
「「「「 !? 」」」」
その言葉に、その場にいた誰もが驚いた。
それも、そのはず…
現在、受け継がれている話では継承者は次の王としかされていないのだから。
「それは、どうゆう事だ?」
火の王が詳細を求めた為、セリーナは、「兄から聞いた話」だと説明した上で話し始めた。
そもそも継承者は、建国の6人の剣士の血族である王族であれば、誰でもなれる資格を持っている。
そして、継承者として魔力供給ができる者は王が選ぶのではなく、その国の"核"が選んで初めて継承者とされる、と言うものだった。
それが何故、次世代の王のみとされてきたのかは定かではないが…
恐らく、他国の姫を迎え入れ始めたことがきっかけでは無いか、とされていたらしい。
核は基本的に純潔な魔力を好む。
火の魔力に土の魔力が含まれるものより、火の魔力のみが好きなのだ。
だから、同じ王族でも火の国に風の力を持つ王族が生まれては、その資格は与えられても継承者には選ばれない…と言う事だ。
では、月の国の王太子であるハルシオンと火の国の王女であったルミナの子供は、二つの魔力が含まれる為、継承者に慣れないのか?と、言えばそれはNOだ。
要するに、月の属性を持つ子供が欲しいのなら、月の国で産めば良い。
火の属性が必要なら、火の国で出産すれば良いだけの話なのだ。
そうすれば、核は喜んで力を貸すだろう。
将来の、核の魂の伴侶を生み出すために。
「ですので、本来であれば資格を持つ私もクロノスの継承者として、名を連ねる予定でした。あの誕生日を迎えた翌日に…」
そう、土の国が攻め入られたのはセリーナの誕生日の前日だった。
もし、あの時攻め入られることがなければ、今頃セリーナも継承者となっていたかもしれない。
セリーナは、続けた。
「火の国も月の国も、継承者の資格を持つ者は沢山おられるはずです。
末姫であるシエル王女も、核さえ認めれば継承者としてカイル殿下の側でこの国を支えていくことができますわ」
その言葉に、火の王はぐっと目頭を押さえた。
「…当時、彼女が嫁ぐ頃は土の国には王太子を初め、王弟殿下や他の王女を含めた8人の継承者がいたとされております。
ですので、王女が雷の国に嫁ぐことは問題ではありませんでした」
「継承者が8人…」
想像以上の継承者の多さに、もはや驚きを隠すことさえできなかった。
そして、そこまでの話を聞いた月の王妃は考えを巡らせたのち、隣に座る月の王に向かってこう唱えた。
「もし、核同士での対話が本当に可能なのでしたら…陛下の方から核にお願いできないのですか?
クロノスに、セリーナを継承者とするように…と?」
「!?…いや、流石にそれは難しかろう?他の国の事に、我々が簡単に干渉することはできん」
王妃の提案に、月の王が難色をみせるなか、突然、「私は賛成です」と、同意の声が上げられた。
それは、火の国から月の国へと嫁いだ王太子妃ルミナだった。
「セリーナ、貴女の気持ちはよく分かりました」
優しく慈しむような声で、セリーナへと話しかける月の王妃。
母の心友であり、セリーナにとってももう一人の母の様な人だ。
昔、母に聞いたことがある。
何故、親友ではなく心友なのかと…
その時、母はこう答えた。
『彼女と私は、同じ立場であり同じ想いを持つ同志なの。心から、信頼できる大切な仲間なのよ!』と。
そんな月の王妃は、セリーナに向けてこう続けた。
「貴女が土の国の姫である様に、私は月の国の王妃です。我がセリニに危害が及ぶのであれば、無視はできません。全面的に戦います!」
「母上!!!」
「ですが…、一つだけ確認したいことがあるのですが、よろしくて?」
「はい」
苛立った様に席を立ったハルシオンに、視線を向けたセリーナは、大丈夫だと首を振った。
「クロノスは、彼女を魂の伴侶と言ったそうですが、では何故その伴侶を雷の国へと嫁に出す事をか許したのでしょう?」
月の王妃の疑問はもっともだった。
土の国は、そして核であるクロノスは何故継承者である王女を他国へと嫁に出したのか?
いくら、王が健在だとしても継承者になったのなら次世代の王には継承者である彼女がなるべきだからだ。
しかし、その答えは意外なものだった。
「継承者は、彼女以外にも既に存在していたからです」
「「「「 !? 」」」」
その言葉に、その場にいた誰もが驚いた。
それも、そのはず…
現在、受け継がれている話では継承者は次の王としかされていないのだから。
「それは、どうゆう事だ?」
火の王が詳細を求めた為、セリーナは、「兄から聞いた話」だと説明した上で話し始めた。
そもそも継承者は、建国の6人の剣士の血族である王族であれば、誰でもなれる資格を持っている。
そして、継承者として魔力供給ができる者は王が選ぶのではなく、その国の"核"が選んで初めて継承者とされる、と言うものだった。
それが何故、次世代の王のみとされてきたのかは定かではないが…
恐らく、他国の姫を迎え入れ始めたことがきっかけでは無いか、とされていたらしい。
核は基本的に純潔な魔力を好む。
火の魔力に土の魔力が含まれるものより、火の魔力のみが好きなのだ。
だから、同じ王族でも火の国に風の力を持つ王族が生まれては、その資格は与えられても継承者には選ばれない…と言う事だ。
では、月の国の王太子であるハルシオンと火の国の王女であったルミナの子供は、二つの魔力が含まれる為、継承者に慣れないのか?と、言えばそれはNOだ。
要するに、月の属性を持つ子供が欲しいのなら、月の国で産めば良い。
火の属性が必要なら、火の国で出産すれば良いだけの話なのだ。
そうすれば、核は喜んで力を貸すだろう。
将来の、核の魂の伴侶を生み出すために。
「ですので、本来であれば資格を持つ私もクロノスの継承者として、名を連ねる予定でした。あの誕生日を迎えた翌日に…」
そう、土の国が攻め入られたのはセリーナの誕生日の前日だった。
もし、あの時攻め入られることがなければ、今頃セリーナも継承者となっていたかもしれない。
セリーナは、続けた。
「火の国も月の国も、継承者の資格を持つ者は沢山おられるはずです。
末姫であるシエル王女も、核さえ認めれば継承者としてカイル殿下の側でこの国を支えていくことができますわ」
その言葉に、火の王はぐっと目頭を押さえた。
「…当時、彼女が嫁ぐ頃は土の国には王太子を初め、王弟殿下や他の王女を含めた8人の継承者がいたとされております。
ですので、王女が雷の国に嫁ぐことは問題ではありませんでした」
「継承者が8人…」
想像以上の継承者の多さに、もはや驚きを隠すことさえできなかった。
そして、そこまでの話を聞いた月の王妃は考えを巡らせたのち、隣に座る月の王に向かってこう唱えた。
「もし、核同士での対話が本当に可能なのでしたら…陛下の方から核にお願いできないのですか?
クロノスに、セリーナを継承者とするように…と?」
「!?…いや、流石にそれは難しかろう?他の国の事に、我々が簡単に干渉することはできん」
王妃の提案に、月の王が難色をみせるなか、突然、「私は賛成です」と、同意の声が上げられた。
それは、火の国から月の国へと嫁いだ王太子妃ルミナだった。
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