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火と月
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___六神国最大の飢餓が訪れる
セリーナの放った言葉に、誰もが絶句した。
特に、国の情勢を担う両陛下はすでに心当たりがあったのだろう。
年々、農作物の生産が下がり続けているという報告は受けていた。しかし、それが土の国と関係していたなど、誰が思うだろうか。
火の国の王は言う。
「まさか、南の僻地の干魃は…」
最後まで言うまでもなく、セリーナはそっと頷いた。
南の僻地は、土の国との国境沿いにある場所だ。国境に沿う様にして森林が広がっており、少し入った場所には大きな湖があった。
しかし、近年水かさの減少みられ、国境を行き交うもの達から何度か報告が上がっていたのだ。それが、今年に入り完全に干し上がったと報告を受けていた。それに伴い、森林の生態が崩れ始めていることも。
火の王は、てっきり"水"の問題かと思っていたのだ。
その為、近々【水の国:エルミス】の協力を仰ごうと準備をしていた。
そして、それは月の国も同じだった。
月の国の王は言った。
「では、我が国の薬草の群生地が消失したのは…」
その言葉にセリーナは、少し寂しそうに答えた。
「あそこは消失したのですね…」と。
月の国でのみ育つとされている薬草。
その薬草は、月の光で成長し、月光を浴びると淡く光り輝く薬草だ。
昔、家族と月の国へ訪れた際、あまりの美しさに『私、今日はここで寝るわ』と、全力で駄々をこねたことを思い出す。
そして、その側で笑うお兄様の事、困った顔をするお母様、楽しそうに寝袋を持ってこようとしたお父様の事まで…
大切な思い出の場所は、大切な人達と共に消え去ってしまっていた。
「あの場所は、薬草の力もあり魔力を含んでいましたから…。恐らく、真っ先に吸収されたのでしょう」
そう。
恐らく、守りのなくなったクロノスはそれぞれの国より魔力を吸収しているはずなのだ。
セリーナは、それを確かめるべく、両国に問うた。
「失礼ながら、私は核についての継承はされておりません。ですので、これはあくまでも私の推論でございますが…」
そう言って、セリーナはスッと顔を上げて前を見据えた。
「継承者の皆様は、それぞれの守りし"核"に魔力を与えているのではございませんか?」
この一言に、継承者である火の王、月の王は真っ先に顔色を変えた。
その様子を見たセリーナは、自分の考えにほぼ確信を持てた。
そして、もう一つ確認すべく口を開いた。
「次の継承者は、王のみが指名できるのですね?」と。
その問いに、両陛下の顔はサーッと血の気が引いたかの様に青白くなっていく。
そして、それは次の継承者と指名されているカイルとハルシオンも同じだった。
セリーナのした質問の本当の意味。
それは…
生き残りの王族である自分がいたとしても、
土の王が亡くなっている今、土の王の指名がないセリーナでは、クロノスに魔力を与えることはできない。
その確認だった。
そして、魔力を与えられない以上…
クロノスは自ら魔力を摂取しようとするだろう。
それは、どの国が滅びようとも関係ないのだから…
セリーナの放った言葉に、誰もが絶句した。
特に、国の情勢を担う両陛下はすでに心当たりがあったのだろう。
年々、農作物の生産が下がり続けているという報告は受けていた。しかし、それが土の国と関係していたなど、誰が思うだろうか。
火の国の王は言う。
「まさか、南の僻地の干魃は…」
最後まで言うまでもなく、セリーナはそっと頷いた。
南の僻地は、土の国との国境沿いにある場所だ。国境に沿う様にして森林が広がっており、少し入った場所には大きな湖があった。
しかし、近年水かさの減少みられ、国境を行き交うもの達から何度か報告が上がっていたのだ。それが、今年に入り完全に干し上がったと報告を受けていた。それに伴い、森林の生態が崩れ始めていることも。
火の王は、てっきり"水"の問題かと思っていたのだ。
その為、近々【水の国:エルミス】の協力を仰ごうと準備をしていた。
そして、それは月の国も同じだった。
月の国の王は言った。
「では、我が国の薬草の群生地が消失したのは…」
その言葉にセリーナは、少し寂しそうに答えた。
「あそこは消失したのですね…」と。
月の国でのみ育つとされている薬草。
その薬草は、月の光で成長し、月光を浴びると淡く光り輝く薬草だ。
昔、家族と月の国へ訪れた際、あまりの美しさに『私、今日はここで寝るわ』と、全力で駄々をこねたことを思い出す。
そして、その側で笑うお兄様の事、困った顔をするお母様、楽しそうに寝袋を持ってこようとしたお父様の事まで…
大切な思い出の場所は、大切な人達と共に消え去ってしまっていた。
「あの場所は、薬草の力もあり魔力を含んでいましたから…。恐らく、真っ先に吸収されたのでしょう」
そう。
恐らく、守りのなくなったクロノスはそれぞれの国より魔力を吸収しているはずなのだ。
セリーナは、それを確かめるべく、両国に問うた。
「失礼ながら、私は核についての継承はされておりません。ですので、これはあくまでも私の推論でございますが…」
そう言って、セリーナはスッと顔を上げて前を見据えた。
「継承者の皆様は、それぞれの守りし"核"に魔力を与えているのではございませんか?」
この一言に、継承者である火の王、月の王は真っ先に顔色を変えた。
その様子を見たセリーナは、自分の考えにほぼ確信を持てた。
そして、もう一つ確認すべく口を開いた。
「次の継承者は、王のみが指名できるのですね?」と。
その問いに、両陛下の顔はサーッと血の気が引いたかの様に青白くなっていく。
そして、それは次の継承者と指名されているカイルとハルシオンも同じだった。
セリーナのした質問の本当の意味。
それは…
生き残りの王族である自分がいたとしても、
土の王が亡くなっている今、土の王の指名がないセリーナでは、クロノスに魔力を与えることはできない。
その確認だった。
そして、魔力を与えられない以上…
クロノスは自ら魔力を摂取しようとするだろう。
それは、どの国が滅びようとも関係ないのだから…
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